二十四節気「大寒」

 

「暖炉」はもちろん冬の季語だよ

 伯母が30年ぶりにロンドン時代のお友達と会うって、ママにテレビ電話が来た。僕は伯母へのサービスに、ママのスマホの前を横切って「にゃ」と小声で挨拶してやった。
「きゃー、猫汰~~、可愛い!!!」と伯母はハイテンションだが、ママは
「はい、いつも可愛いです」って冷静。
 この二人、昔々は音大でピアノ専攻。がっちがちのクラシックで、ヨーロッパの伝統文化にどっぷり。日本の音楽大学を卒業した後、伯母はロンドンに留学した。そのころイギリスはサッチャーさんの政権で、1ポンド350円位だったそうだ。ママはというと、花の音大生。伯母が帰国した頃はピアノを教えながらお婿さん探し。
 今回伯母が会うのは、ロンドンに住んでいた頃の同年代のお友達、ハルコさんとみどりちゃん。当時、ハルコさんは商社マンの夫と共に、小さな女の子達を育ててた。みどりちゃんは大手企業の研修でロンドンに派遣されてたんだって。
 帰国後30数年、三人とも超忙しかったから、実は三人でゆっくり会うのは今回がはじめて。昔のお友達に会いたくなるのは、年齢のせいかね、と笑う伯母。小紋を着て行くそうだ。
 っていうのもさ、伯母は昨年初秋、そそっかしいことに右足の親指に重たい棚板を落として怪我をした。親指が盛大に腫れて紫色になり痛い痛いと大騒ぎの伯母に、ママは自分が骨折した経験から「骨折です。病院に直行して」って断言した。けど、整形外科の先生に「ポキっとはいってない・・・みたい」と言われたって。結局のところ、骨折ではなかった。伯母は「私の骨って図々しいのかしら」だと。ママが華奢なんだよ。
 その足、とっくに良くなっても良い頃なのに、まだ靴を履くと痛いんだって。スニーカーだと大丈夫だけど、この世代のご婦人はスニーカーでお食事やお茶には行くのを躊躇う。だから和服。着物はお腹が何重にもなるから暖かいしね。
 カジュアルな小紋で、伯母は紬の名古屋帯に小さめのパールピアスをつけて行くと言って、ママに窘められた。
「わ、出た、着物警察」って伯母。

 骨だけじゃなくて、この辺にも姉妹の性格の違いが出てると思うんだ。ママは伝統的なことを丁寧に大切に守る、いわゆる保守的なタイプ。伯母は、伝統文化に関わってるという矜持はあるものの、時代時代に合わせて遊ぼうという姿勢なの。
 伯母が所属しているのも「現代俳句協会」だしね。


 俳壇はちょっと前(昭和から平成中期までね)、「伝統俳句協会」と「現代俳句協会」の二本立てだった。
 伝統俳句は旧仮名遣いとか、「や」とか「けり」とか「かな」とか、切字を使うって約束がある。みんなが思う「ザ・俳句」ね。一方の現代俳句は、今生きている「言葉」を使って作句する。使いたかったら切字もオッケーっていうラフな感じなんだけど、伯母は、お弟子の旧仮名遣いや切字を使った投句にはニヤニヤ。
 例えばほら、四文字の言葉を使いたい時に「や」をつけると、簡単に上五が仕上がるじゃない? 特に初心者は指折り数えて、「ま、これでいっか、俳句らしいし」って具合に喜んで、字数合わせで切字を使っちゃう人がいるんだって。上手な人は、安易に切字は使わないって。
 僕の「大寒や」もそれかねって? いやいや、僕のはこれしかないという必然があるからいーの。この「や」は詠嘆の「や」でね。
 今は「うわっ、寒っ!」って声に出してしまいそうな時期じゃん。大寒は一年で一番寒い時期だもん。そこで「や」ね。ここで一旦切って、気持ちを切り替えて、中七、下五に向かうわけ。
 あ、俳句では五七五を、上五(かみご)中七(なかしち)下五(しもご)って呼ぶ。十七音のどこか一か所切れるのがカッコイイとされているんだ。二か所切れちゃうとブチブチって感じになってしまう。音にした時にね。
 言葉だから、目で見て音できいてって、視覚と聴覚の両方使う表現だからさ。鑑賞する時にも、読むだけじゃなく声に出して味わうと面白いよ。

 じゃあ、今回はこれで。次は立春だね! バイバ~イ


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