愛して欲しいと言えたなら (メル友・・・その13)
メル友
メル友・・・その13
今年も、あと2か月で12月。早いものね、月日が過ぎるのって。
初めてあの人と出会ったのも、確か、12月・・・。
私の通っていた高校は、市内から少し離れた場所にあったから、
日が沈むのが遅い10月頃までは電車で通学してたんだけど。
どうしても、11月になると日が沈むのが早くなるし、
それに、電車での通学だと駅まで自転車で行かないとダメだったのよね。
でも、バスだと電車とは違って停留所がいくつもあるし、ちょうど私の家の近くにもバス停があったから冬は助かったわ。
ついでに、ちょっとおしゃれな喫茶店もあったりして、いつか寄ってみたいな~とかって思いながら、いつもチラ見しながら通りすぎていたのを、今でも、よく覚えているわ。
しかし、今でも不思議なんだけど、どうして、あの日に限ってあの喫茶店に入ったのかしらって?
しかも、一人でなんて今でも不思議というか、なんていうか、未だに理解出来ないし。
誰かと一緒に、バスが来るまでの時間つぶしっていうんならまだしもだけど。
しかも、なぜか、あの日に限ってだったし。
それで、そろそろ帰ろうかな?って思っていたら、
ふいに、背中の近くであの人の声が聞こえたのよね。「500円貸してくれる?」・・って。
しかし、500円貸してくれる?って訊かれて、
何も言わないで、黙って財布から500円を差し出した私も私なんだけどさ。
でもさ、考えてみれば、見ず知らずの人に、突然、そんなことを言われたって断るのが普通よね?
あれって、いったい、どうしてだったのかしら?
あの時の自分のとった行動は、今でも、わからないけど。
それでも、あの瞬間から、私と、雪子と、そして、あの人との恋愛の日々が始まったのよね。
あれから30年とちょっと・・・。
あの頃の日々は、もう昔の恋物語だと思ってたんだけどな~。
もしかして?もし、あの人と街なんかで、偶然、再会したら、自分はどんな風に感じるんだろう?
そんな空想を、若い頃はよくしてたけど、歳を重ねていくうちに、いつの間にか忘れてしまって。
気がついてみれば、どこにでもありそうな同じ毎日の繰り返しの日々。
でも、パソコンとか携帯とかが普及し始めて、インターネットが誰でも気軽に出来るようになってくると、友達や知り合いとメールを使って話すようになって、そして、たくさんのメル友サイトやコミュニティサイトがどんどん出来て来て、いつの間にか、まったく知らない遠くの人とも、メル友という、ちょっと変わった友達が出来たりして。
知らない誰かと知り合いになったり、友達になったりすることが、なぜか、嬉しくて。
それでも、なぜか、長続きしはなかったけど。
それで、結局は、自分の身近にいる知り合いや友達と、電話の代わりにメールを使うようになったんだけど。でも、なぜ、あそこのメル友サイトなんかに登録なんかしたんだろう?
もしかしたら、あの人と赤い糸で結ばれていたりして・・・。
赤い糸・・・それは、私なのかな?・・・それとも・・・。
そんな思い出まじりの記憶をたどりながら、午後の喫茶店、一人だけの時間の中にいると、
吐息まじりのため息が、裕子を、少しだけ、ずるい女に変えてしまいそうになる。