【赤い自転車】
こちらの企画に参加させて頂いてます💖
初めての恋は実らないと
貴方は言った
まるでそれを望んでいるように
懐かしい夕刻のチャイムが
裏路地に響き渡って
長く伸びた影
近所の家の夕餉の匂い
赤い自転車に跨って
走って行けば
逢えるかもしれない
手に持つ買い物袋の
卵と豆腐は
それを許さない
時空を飛び越えて
タロットカードを何度もめくって
貴方と幸せになる未来を
想像してみたけれど
隣に立つ人は私じゃなかった
ささやかな願いは
貴方の幸せで
大それた願いも
貴方の幸せだったから
それは取るに足らないこと
私は猫を抱いて
何でもない振りをする
初めての恋は実らないと
貴方は言ったけど
最後の恋ならどうなるのと
私は聴いた
接触の悪い街灯が
チカチカと瞬いたせいで
貴方の表情が読み取れない
最後かなんて
誰にも分からないだろう
何でそんなに無垢れているのか
ちっとも理解出来なかった
少し猫背で撫で肩の背中を
三歩後ろから見つめる
そばに寄って手を絡める
そう出来たら良かった
赤い自転車に跨って
夕陽の沈む方へと走り出す
いつものジャージで
いつものサンダルで
貴方に会いに
ネオンが煌びやかな夜に
最後の恋は
宝物になるのよと
夜の蝶が耳打ちをした
貴方の笑顔を思い浮かべて
確かにと思ったの
赤い自転車が闇に溶ける
吐き出す息の白は
弾んでいる