見出し画像

【不在票】

チャイムを押しても
応答はない

ここにはいない

会いたかったな
渡したかったな

その名残を
ポストに見つけても

またね
が上手に言えない

走って迎えに行かなくちゃ

手を取って
肩を抱いて
涙を拭って

置き去りの心は
喧騒の中に

行き交う人は皆
忙しそうで

何かに向かって
進んでいるから眩しくて

迷子の子供みたいに
泣きじゃくって

諦めることが
大人になることなら
いつまでも子供のままで
いたかった

包みを開けたら

懐かしさでいっぱいで
きっと泣いてしまう

故郷の味と
懐かしい地名の刻まれた新聞紙

すれ違ってしまった
過去には戻れない

あの時窓辺から見た
夜の街は
今も変わらず賑わっているけれど

あの時すれ違った人は
そこにはいないの

不在票を机に置いたまま
鍵をかける

待つ人のない玄関へ
行ってきますを告げる

喧騒の中に
いつか聴いた音を探して

迷子で泣いている
いつかの私を助ける夢をみる

目覚めて涙の残る頬に
やつれた白髪の混ざる髪

若さも失って
言葉も失って
押し込めた心は
もうどこにも行く術がなくて

たくさん泣いたから
大丈夫だと思った

でも再配達に躊躇する
まだ涙が枯れてないから

旅先から葉書
晴れた空を切り取った
この空の下にいます

遠くのどこか
同じ空の下に

今はまだ不在にしています

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?