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(54)キャベツ

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このシリーズは散歩中に見た300種くらいの植物を紹介していくシリーズです。

キャベツ

ヨーロッパの地中海や大西洋沿岸が原産で、
ケルト人が紀元前600年ごろに栽培した野生種のケールがルーツとされている。
古代ギリシア人の時代に薬用の植物とされていたが、
紀元前4世紀頃には普通の野菜として栽培されるようになり、
現在は世界各地で栽培されている。

日本で、はじめて野菜として栽培されたのは
明治4年の北海道開拓使だといわれている 。

キャベツは 蝶や蛾の幼虫などに食害されると
その幼虫の天敵である寄生する蜂を呼び寄せるにおいを出す。

においを出すだけでなく、
キャベツは食害された害虫の種類に応じて、違うにおいを出すことが、研究でわかっている。

つまり
種類Aの幼虫に食害されると、種類Aに寄生する蜂を引き寄せる匂いを
種類Bの幼虫に食害されると、種類Bに寄生する蜂を引き寄せる匂いを出す。

キャベツは、天敵を誘引することによって、害虫に反撃していることになる。

しかし、このキャベツのにおいは、寄生蜂にとっても大変なメリットがあるようだ。

実験的に、キャベツが発する匂いが紛らわしい状態を作ると、
寄生蜂は、本来の相手とは違う種類の幼虫に産卵する場合があることも確認されている。
もちろん、そんなことになれば、繁殖は失敗する。

そのくらい、寄生蜂にとっては、キャベツの出すにおいは、大切なナビゲーションにもなっているらしい。

この仕組みで
キャベツが害虫を撃退しきれているわけではなく、
あくまで補助的なものだと思われる。
キャベツと害虫と寄生蜂。

どこかの歌タイトルか、ドラマタイトルのように言ってしまったが
自然界も持ちつ持たれつな関係性があることがわかる驚きの仕組みである。


Special Yhanks  ナレーション台本化協力 人外薙魔様



※詳しい研究内容は下記に

以下引用

虫食いのないキャベツの苗株を2つ用意し、一方をコナガの幼虫に一晩食べさせて穴だらけにする。
この株から幼虫と糞を取り除き、もう一方の無傷の株と一緒に透明な箱に入れ、中にコナガサムライコマユバチを放つ。
ハチがどちらのキャベツを選択するかじっと観察すると、ハチはしばらく飛び回った後、コナガの幼虫に食われた株へとスッと降り立った。
同じ実験を何度も繰り返した結果、8割以上のコバチがコナガ株を選んだ。寄生バチは、コナガ幼虫の姿を確認できなくとも、コナガに食べられた株を区別できるのだ。
そこで今度は虫食いを模してパンチで穴だらけにした株や、コナガではなくモンシロチョウの幼虫に食べさせた株とコナガ株を並べてみたが、やはり7割以上のハチが、コナガに食われた方の株を選んだ。ハチは虫食いの有無だけではなく、何の虫食いかまで区別することができるようだ。さらに、キャベツにメッシュをかぶせて株そのものが見えないようにして、同じ実験を行ってみても、寄生バチは変わらずコナガ株を選んだ。

実験で使ったキャベツの匂いをガスクロマトグラフ質量分析計で詳細に分析してみたところ、4種類の株は全て、匂いの化合物のブレンド(構成比)が少しずつ異なっていた。そこでコナガに食害された株の匂いと同じ匂いを人工的に合成してコナガサムライコマユコバチに示したところ、予想通り、この匂いに誘引されることがわかった。さらに、モンシロチョウ幼虫が食べた株の出す匂いは、モンシロチョウに寄生する別種の寄生バチ・アオムシサムライコマユバチを誘引することもわかった。

キャベツは食べられた際に匂いを変化させるが、その匂いは食べられた虫の種類に応じて使い分けられているのだ。自然界では、植物の天敵は一種類ではないことの方が普通なので、植物が異なる匂いを発することで、植食者に対応した天敵を誘引することは非常に理に適っている。また寄生バチの側も、人間には判別できないほどの僅かな匂いの違いを、正確に区別する嗅覚が備わっていることがわかった。特定の種にしか寄生できない寄生バチにとって、植物の匂いがいかに重要な情報であるかがわかる。


■引用文献

JT生命誌研究館のHP

植物の匂いが結ぶ植食者と寄生バチの関係

塩尻かおり

龍谷大学農学部 准教授

季刊「生命誌」106号より

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