高架線の上からの風景~時速8kmの自転車

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思い出すのは、高架線を走っている電車からの風景でした。
遠くに建物が見えたり、緑が見えたりしています。
注意を集中したり広げたり、ゆるめたりできるように思いました。

私の病気、線維筋痛症は、体の激痛もさることながら、わかりにくい心の問題を起こしていました。
その中の一つが「注意の障害」でした。
以前、少し触れたことがあったのですが、電車に乗っていて、乗り換え駅を覚えているのにもかかわらず、乗り換えが難しくなりました。
それは、注意の程度や範囲、切り替えのコントロールが、うまくできなくなったからです。

原因は、わかりません。もともと、うっかりさんだったのが、極端な睡眠不足と疲労で、もっとおかしくなったのかもしれません。
しかし、これでは、とても生活がしづらい。
注意が一点に行ってしまって、物凄く細かくいろいろなものが見えてしまう。
例えば、普段は意識しない壁の模様がとてもよく見えたりしました。
また、人間は自分にとって重要なものには、意識が行ったり強く感じ、重要でないものは意識が行かなかったり、弱く感じるようになっているのですが、それがうまくいっていないので、スーパーなんかに行っても、どっと品物と商品名や値札の情報を感じてしまって、頭が処理できなくなって、そこにいられない。

すべての音が、リラクゼーションのための波の音や森の音まで、つんざくように聞こえて、リハビリが必要だった話も以前、話をしました。

感じる情報のボリューム調整ができないという問題を抱えていたと思っていました。
それは、自分以外のものを感じとる範囲やそれを感じる注意(意識)の強さをコントロールできない問題とも言えます。

視覚・聴覚もそうだったのですが、思考の面でも、一つのことに意識が行ってしまうと、そこから離れられない。逆に、ここに意識を向けたいと思うのに、すぐに意識が外れてしまう。

記憶の中のことや、感じたことが、狭い箱の中で、ゴムボールが乱れ弾んでるみたいになって、頭が割れそうになるときもありました。

でも、それを緊張を和らげる薬で抑えようとされると、今度は、私の場合は、生活ができなくなってしまう。

注意のコントロールができなくなると、こんなことが起きることがあるというのを初めて知りました。

詳細は割愛しますが、脳梗塞になった叔父の話や、脳梗塞で高次脳機能障害になったルポライターさんの闘病記、発達障害の人のリハビリの本を読んだときに、病気や障害は違うけれど、似たような後遺症があったので、たぶん、この感覚や注意を脳で処理する部分に問題があるのだろうなと、おぼろげながらに感じました。

ただ、感覚や注意の障害というものは、どうやったら、リハビリになるのか見当もつきません。

試してみたことの一つに、注意を移動させることをやってみました。
人工的なものは、四角い形で作られているものが多いので、それに沿って、一回り眼球を動かして見る。
眼球も動かしにくくなっていたので、それのリハビリも兼ねて。
本棚、窓、建物、ラジオ、壁、四角いものは、本当に多い。
時計回り、反時計回り。
しかし、目が疲れるだけで、あまり効果はありませんでした。

注意や思考が異常に一点集中したり、外れてしまったりを繰り返していて、へとへとになっている時。

いろいろ病院を変えたりしながら、試行錯誤をしていた時。

私はある高架線を走る電車に乗っていました。
そこから見える風景は、雲があったり、光があったり、建物があったり、雑木林が残っていたり、それが、近くにあったり、遠くにあったり、とても、複雑でした。
一点に狭い範囲にしか注意ができず、しかも、注意の場所がコントロールできないで困っていたとき、

遠くまで見通せて複雑だけれども、自然のある風景を見ていたら、注意をふわっと柔らかく広げることができたのです。

ああ、これがいいのかもしれないと思いました。

それで、なんとか自転車に乗れるようにはなっていたので、歩く散歩から、自転車の散歩をするようになりました。
体をひねって後ろを確認しにくいなど、車対策が難しかったので、できるだけ車が少ないルートを探して、
毎日、時速8kmくらいの超スローで走るようになりました。
外で自転車を運転するということは、注意を集中したり、緩やかに広げたり、切り替えたりする必要があります。
この方法は、私に合っていたようで、随分、いろいろなことが改善し始めたように思いました。
何よりも、何をどうやっても、苦痛で、自分の存在自体が激痛でたまらなかったのですが、これをやっている時、私は、楽な時間を感じられるようになったのです。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

※参考文献

 ◎岩永滝一郎 もっと笑顔が見たいから 発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ 2012年
 ◎鈴木大介 脳が壊れた 新潮新書 2016年
 ◎鈴木大介 脳は回復する 新潮新書 2018年
 ◎鈴木大介 されど愛しきお妻様 講談社 2018年

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