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別れのフレーズ/にょほーん

今年初のゴミ出しの朝、たまたま近所の人に会い、短い道中を連れ立って歩いた。相手の腕の中には、うちの猫よりふたまわりも小さいヨークシャーテリアが抱かれている。ゴミ出しに毎度同伴する子で、私もすっかり顔馴染みだ。

私の住む地域では、プラスチックゴミの回収が去年から始まった。食用油の入っていた容器はきれいにゆすげないけども、プラスチックのほうへ出してもいいものか。それとも燃えるゴミ? あるいは燃えないゴミ?

そんな話をしているうちに、ゴミステーションの前に到着した。両手が犬とゴミ袋でふさがっている相手の前に出て、私が鉄製の引き戸をスライドさせた。

帰りは犬が腕から飛び降り、ちょこちょこ歩いて私たちを先導した。時々チラッと振り返るしぐさに目尻が下がる。

相手の家の前まで来た。犬はさっさと門扉へ向かう。そのあとを追う飼い主さんに、私は「それじゃあ、また」と声をかけた。相手は私よりかなり目上。振り向いた顔を見て「失礼します」と言い添え、軽く頭を下げた。相手も失礼しますと返し、犬と一緒にドアの中へ姿を消した。

こういう場面での最後の挨拶に、もっといい言葉はないかと考える。英語ならば、
"Have a Nice Day!"
実にすがすがしいフレーズがあるけども、日本語で「どうぞよい日を!」とは言いにくい。なんだか吹き替え映画みたいで、急に白々しくなってしまう。

昔は日本にもいい言葉があったことを、ふと思い出した。

「ごきげんよう」

漢字にすると、ご機嫌よう。
これはいい。
失礼します、だなんて退社時の挨拶みたいなあたたかみのない挨拶よりも、ごきげんよう。そう言われたら機嫌よくにっこり笑える。

復活しないかなあ。

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