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【小説】連綿と続け No.43

侑芽の甘い囁きに
吸い込まれるようにして覆い被さった航は、
「誰にも取られたくない」という気持ちを
ぶつけるように、荒々しくその求めに応じた。

土砂降りの雨音が
全ての音をかき消してしまうから、
誰に気を使う必要もない。

ここは2人だけの世界。
囁き合い、何度も互いの名を呼ぶ。

航)侑芽、こっち向いて?

侑芽)航さん、もっと……

求愛の果てに
横になってウトウトしている侑芽の鼻に
自分の鼻を擦り寄せる航。

航)侑芽は小悪魔や

侑芽)小悪魔?どこがですか

航)俺の心を揺さぶるプロちゃ

侑芽)なんですかプロって(笑)

航)心配させたり嫉妬させたり、興奮させたり

侑芽)たまに怒らせちゃったり?

航)俺の喜怒哀楽は全部、侑芽が牛耳ぎゅうじっとる

侑芽)すっご〜い、私!

侑芽がケラケラ笑うと、
航が優しくデコピンする。

侑芽)痛っ!

航)アホや

2人で風呂に入り、
侑芽の髪を航が乾かす。

いつの間にか雨が止み、
外は静かになっていた。

網戸にすると
夏虫が騒いでいる。
それをBGMに
2人はベッドに寄り添う。

航)明日も来るやろ?

侑芽)明日は来ません

航)なんで?朝送るさかい、られま

侑芽)来ません!

航)なんで?

侑芽)なんでもです!

航)侑芽がおらんと、あいそむないちゃ

侑芽)「あいそむない」ってどういう意味ですか?

航)寂しいとか、物足りんって意味

侑芽)私がいないと寂しい?

航)そらそうやろ

侑芽)フフフ!じゃあ私も、航さんに会えないと、あいそむないちゃ〜

侑芽がふざけて笑う。
航は目尻にシワを寄せる。

航)なんか変やぞ

侑芽)ひどぉ

他愛もない話をして眠った。
翌日から侑芽は、
再びマルシェ参加者のPR動画を作るために
街を駆け回った。

航の先輩である山崎洋平の工房にも行き、
山崎が快く引き受けてくれた為、
木彫刻の紹介や製作過程などを撮影させてもらう。

山崎)また協力するさかい、いつでも寄られ

侑芽)本当にありがとうございます!

山崎はマルシェで木彫刻の実演をする。
木彫刻の街には欠かせない
その技を見てもらい、
希望者がいれば注文も受けるという。

山崎の他にも、
大阪から移住してきた若い夫婦が農業を始め、
様々な野菜作りをしており、
夫婦の奮闘を取材した。

こうして撮りためた動画を編集し、
それを見せながら、
市内のあちこちでマルシェへの出店を勧めている。

その甲斐あって
次第に出店者が集まりだし、
最終的には予定を大きく上回る
30店舗の出店が決まった。

結果を出した侑芽は、
上司の黒岩から呼び出される。

黒岩)ようやったね!前回なんて15店舗しか集まらなかったのちゃ。どうやって集めたが?

侑芽)すでに出店が決まっていた方々の取材をして、その人達のPR動画を作って、迷っている皆さんにそれを見ていただきました

黒岩)そういうことけ。ほんで「あの人が出るなら……」ってなったがけ!それはええね!

侑芽)やっぱり言葉で説明するだけでは、なかなか伝わらなかったです

黒岩)その動画て、SNSでアップしとったアレのこと?

侑芽)はい。あれは一部なんですが

黒岩)ほしたら「なんと素敵テレビ」にでも取り上げてもらおうけ

侑芽)え!いいんですか?

黒岩)もちろんやちゃ。かけあっておくさかい、動画の準備だけ頼む

侑芽)承知いたしました!

『なんと素敵テレビ』とは、
南砺市で放送されているローカル情報番組で、
地元の人達からの人気が根強い。
黒岩がツテを使い、
番組でマルシェが紹介されることになった。

そして会場となる井波文化会館に
下見に向かう侑芽。

観光協会と合同で主催するため、
西川にも電話で連絡すると
彼も合流するという。

侑芽はこの前の事があったから、
気まずい思いもあるが、
仕事モードに切り替え現地に向かう。

外出する侑芽に向かって
富樫が声をかけてくる。

富樫)傘、持っていかれよ?

侑芽)え?でも車ですし。雨予報もなかったですし

富樫)車でも傘は必須!弁当忘れても傘忘れるな!

侑芽)フフフ!それ、どういう意味ですか?

富樫)あ〜もぅ!これやから都会の人は嫌ちゃ〜!こっちは年中天気が変わりやすいの!予報が晴れでも突然雨が降る!やさかい「弁当忘れても傘忘れるな」て言うんちゃ!

侑芽)へぇ。弁当忘れても傘忘れるな、か。了解です!

「弁当忘れても傘忘れるな」を
富樫から口うるさく言われながら、
侑芽は役所を出た。

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