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【小説】連綿と続け No.75

両親に全てを打ち明けた翌日、
航は五箇山に向かった。

途中、大牧温泉の前を通り過ぎる。
楽しかった思い出が蘇り、
複雑な心境になる。

車で40分ほど走ると五箇山に着いた。

この街のどこかに侑芽がいる。
もしかしたら偶然会ってしまうかもしれない。
不安と期待が入りまじった。

相倉集落にある家々の彫刻は、
代々蓬莱屋が手がけている。
欄間や仏具、衝立などの
修理や注文を担っているから、
連絡が入ればすぐお伺いに行く。

今日は民宿・矢島屋に訪れた。
才太郎と佐和子が営む民宿である。

才太郎)なんや暫く見んうちにワイルドになったなぁ!

佐和子)前から男前やったけど、これはこれでええんでない?

無精髭を生やして
髪が無造作に伸びた航に興味津々の2人。

航)ちょっこし忙しゅうて……

航は頼まれていた衝立ついたてを見てそれを預かる。

航)お預かりします

才太郎)おぉ、頼むわ。けど、お茶くらい飲んでかれ

佐和子が冷茶をさしだし話しかけた。

佐和子)そう言えば、一ノ瀬侑芽ちゃんて知っとる?

航は飲んだお茶を吹き出しそうになり咳込んだ。

才太郎)大丈夫け?ゆっくり飲まれよ

航)あぁ、知っとるけど……

佐和子)やっぱりね〜。この前ここにも来てくれて、こっち来る前は井波の担当やったて言うとったさかい

才太郎)あの子、働きもんやのう。昨日も夜遅うまで働いとったわ!

航)そうですか……

佐和子)航くんも、もうええ歳やさかい、あんくらいの子を嫁に貰わんとな

才太郎)そいがそいが!もしあれやったら俺らが引き合わせてもええよ?

航)よ、余計なことはせんでくれ!

航は逃げるように矢島屋を去った。

才太郎)なんやアカンこと言うてしもたんかのう

佐和子)あれは……何かあったね

才太郎)何かって?

佐和子)あの2人、何かあったのちゃ。これは女の勘

自信に満ちた佐和子の言葉に
才太郎は好奇心をかき立てられた。

才太郎)何々?どういうこと!?

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1,444字
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