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【小説】連綿と続け No.47

会議室に通された侑芽は
黒岩と共に席に着き、
険しい表情をした副市長から問われる。

副市長)君が観光推進課の一ノ瀬さん?

副市長は50代半ばの中年男性である。
普段はまず会う事もない副市長に
萎縮してしまう侑芽。

侑芽)はい。一ノ瀬侑芽と申します。

副市長)ここに呼ばれた理由はわかっとる?

侑芽)いえ……

すると副市長の秘書が
パソコンを傾けて侑芽に見せてくる。
画面を覗くと市民を名乗る人物から
匿名のメールが届いていた。その内容は

『役所の人間が観光協会の職員と人目を憚らず親密にしていた。こんなものを見せられて不愉快だ。ましてや市の職員が勤務中にふしだらな行いをしているのはいかがなものか。この女性職員は別の男とも交際をしており、複数の人間と男女の仲になっているのは不適切だ。厳正な処分を下してほしい」

という内容であった
その文面と共に
西川の傘に入って歩く姿を含む
複数の画像が添付されていた。

侑芽)これは……マルシェの視察で帰りに土砂降りにあい、折り畳み傘しか持っていない私に、西川さんが傘を差し出してくださった時だと思います。確かにこれだけ見れば、誤解を招き、ご不快な思いをおかけしてしまったかもしれません。ですがうしろめたいことは何もありません

精一杯弁明すると、
今度は観光協会の男性役員が話しだす。

役員)実はうちにも同様のメールが届きました。西川からも貴方と同じ回答をもらっとります。こっちも疑っとるわけではないんやけどねぇ……

西川はその隣で
歯をくいしばるようにして俯いている。

侑芽)断じてやましい事はありません!ただ視察をしただけです!

役員)うん。少し落ち着いて?まずは話を聞いて下さい

立ち上がった侑芽を、
黒岩が落ち着かせるようにして座らせる。

役員)誤解を招いてしまったのは事実ですよね?

侑芽)それは……そうかもしれません

役員)こういうんは、いくらこっちが潔白や言うても、不快に思われたり、疑念を抱かれる方もおられる。それについては西川と君が軽率やったいうか落ち度があったわけです。それについてはどう思います?

西川の上司と思われるその男は、
正論らしい事を並べて、
最後にうっすら笑みを浮かべた。

侑芽)誤解を招いてしまい、ご不快に思われた事についてはお詫びしたいです

これ以上の弁明は無駄だと思い、
謝罪する方向に持っていこうとすると、
副市長が追い討ちをかけてくる。

副市長)君は以前にもこういった苦情をもらっとるね

侑芽)はい。前回はお付き合いしている方とのプライベートな時の事で……

副市長)それは別に構わん。プライベートにまで口出しする権限はない。ただ何度もこういった声が届くと、組織としては何も対策せんいうわけにはいかんちゃ

侑芽)それは……どういう事になるのでしょうか

副市長)井波の担当からははずれてもらう

侑芽)そんな!もうすぐマルシェが開催されますし、多くの方々にご尽力いただいたので、責任をもって最後まで……

副市長)責任?本当にそう思うとるなら、こんな自覚のない行動をとらんやろう?

侑芽)ですからそんなつもりは……

副市長)君は社会というものを何もわかっとらんちゃ。大学で何を学んできたがか知らんけど、ちょっこし頭を冷やしっしゃい!

侑芽)処罰は受けます。ですがマルシェだけは最後までやらせてください!お願いします!

泣きながら頭を下げる侑芽。
黒岩は侑芽の隣に立って背中をさする。

黒岩)一ノ瀬さん。今はもう、このへんで……

侑芽)嫌です。納得できません!処分はいくらでも受けますが、マルシェだけはどうか……!

役員)君がマルシェの為に一生懸命やっとった事は聞いとります。けど、こうなった以上、君をマルシェに立たせるわけにはいかんでしょう?

侑芽)そんな……私はどうなっても構わないです。ですが参加者の皆様には誠意を持って最後までサポートしたいんです。ただそれだけなんです!

副市長)そやからアカンて言うとるがに!出る出ないは君が決めることやない。それと、君には人事異動を命じる事になる。やさかい、そのつもりでおられよ?

侑芽)人事異動って……どの部署にですか?

副市長)部署移動やない。五箇山ごかやま支所に行ってもらう

侑芽)五箇山……

話し合いはそこで終わり、
泣き崩れる侑芽と黒岩だけがその場に残った。

西川は悔しそうな顔で俯いたまま
最後まで何も発言しなかった。
去り際に長く頭を下げ、
上司に連れられて出て行った。

侑芽はそんな彼の姿を見ることなく、
嗚咽おえつを漏らし続けた。

黒岩)力になれんでかんにん……なんとか人事だけは食い止められるよう動くさかい、最後まで諦めんで?あんなに頑張っとったがや。こんながはおかしい……おかしいちゃ……

一緒に泣いてくれる黒岩は、
侑芽の仕事ぶりをずっと見てきた。

だが組織の中において、
こうした理不尽を何度も見てきただけに、
今は堪えるしかないと
この状況を受け入れ対策を練っている。

その努力も虚しく、
侑芽が取り組んできた
井波地区のイベントやマルシェは、
後任となった高岡が引き継ぐ事になった。

高岡)まさかこんな事になるなんてね……

侑芽)うん……色々急でごめんね

高岡)なんであんたが謝んのよ

侑芽)だって……

高岡)私さぁ、仕事終わりに毎日教習所に通ってなんとか免許取ったんだ。こんなにすぐ役立つなんて思わなかったけど、いい機会だ。これでペーパードライバーにならずに済む!

落ち込んでいる侑芽を
高岡なりになんとか励まそうとしている。
だが侑芽は黙っている。

高岡)でもさ、案外すぐ戻ってこれんじゃない?あんたって踏まれてもすぐ起き上がりそうな図太さあるじゃん!

侑芽)……うん

高岡)ちょっとぉ!いつもみたいに言い返しなさいよ!

侑芽)悪いけど今は無理。ごめん

1人で屋上に出た。
空は今の気分を映すように厚い雲で覆われている。

そこから航にLINEを送る。

『井波の担当、はずされちゃった』

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