懐かしの爆音
人は、ある匂いや音などの五感をもとに、過去の出来事や記憶を呼び起こすことがありますよね。
心理学では、香り、いわゆる臭覚が一番記憶と繋がりが強いと言われていますが、故郷とは全く関係のない場所やシチュエーションで、当時の感覚や感情なんかを思い出す。こういう経験は、おそらく多くの人がしているのではないでしょうか。
ある料理の香りがしてきて、田舎のおばあちゃんが作ってくれたごはんの匂いだ!と、夏休みの記憶や当時のワクワクがよみがえったり、
怖い本を読んでいる時にかけていた音楽がかかると、同じように怖い気持ちが湧いてきちゃって、その曲をかけると嫌な気持ちになったり。
私は、中学や高校の時に、音楽を聴きながらテスト勉強をするタイプで、よくそんなんで勉強できるね、と驚かれましたが、テスト中に、それこそかけていた音楽が脳内をぐるぐるするんですよ。しかも、きちんと科目分けでその時にかけていたものが脳内再生される訳なんです。
口パクで歌いながらテストに挑んでいたかも知れません。実際、意図的にやっていたことではありませんでしたが、変な生徒だったのは間違いないですね。
私が育った湘南は、それこそ色んな音 ー と言ったらかなり聞こえが良いですが、まさに騒音の宝庫といった地域で、昼夜問わず空から地上から爆音が聞こえてきました。
それに比べると、パリは静かなのかな、と思ったりしますね。
パーティーとかで騒いでいる若者はどの国にもいますが、
湘南のように、爆音を発している人たちがいなくなるまでの10分間とか、テレビの音も聞こえない、と言ったほどの爆音はない気がしますね。
パリでは7月14日が近づくにあたって、
革命記念日への準備が始まります。
夜はエッフェル塔で花火が上がりますが、その日の主役は実は軍人さんです。
シャンゼリゼ通りを、現役軍人と退役軍人がパレードをします。
何気なく凱旋門と呼んでいますが、それこそまさに「凱旋した軍人」を迎える門なんですよ。単なるランドマークに見えますが、戦時中は、本当に凱旋する門として使っていましたし、サッカーのワールドカップでフランスが優勝した時も、フランス代表の選手は、凱旋門からシャンゼリゼ通りを凱旋パレードしました。
実は、私はこのパレードに行ったことがありません。
朝が早い、というのもあるし、まあいつか行けるだろうと呑気に思っていて、行く意欲が湧いたことがありませんでした。
パリでは何度か引っ越しをして、今の家に落ち着いたのですが、今の家に越してきてから、この日のパレードで軍人さんが行進する以外にも、軍人によるパフォーマンスがあることを知りました。
パレードに行っていないのに、です。
私は7月14日の朝、爆音で飛び起きました。
軍用機の音です。
過ぎ去ったと思ったのに、何度かしばらく続く。
窓を開け空を見ると、さまざまなサイズの軍用機から最後は旅客機まで、色々な飛行機がパフォーマンス飛行をするのでした。
同じように他の住民も窓から顔を出していて、物珍しそうに、嬉しそうに空を見上げています。
うちの地区が、単に空路なんでしょう。
普段比較的静かなこの地区に、飛行機の爆音はなかなかの迫力があります。
私も、音に驚いたは驚いたんですが、それより、胸が少しザワつきました。
湘南を思い出したからです。
神奈川には米軍基地がありますので、湘南の爆音は暴走族以外は、軍用機の音なんですよ。
それ以来、毎年この日が近づくにつれ演習飛行が始まると、
革命記念日のパレードだとかそういうフランスの行事というのをすっかり忘れて、湘南を思い出します。
今年も、つい昨日からこの爆音が始まりました。
もうちょっとね、海の家の香りがして湘南を思い出す、とか風情があったら良いんですけど、身体にしみついた記憶って、自然と呼び起こしちゃうから凄いですね。