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たべたいひと

知らない人のいちぶに、どうしようもなく惹かれることがある。ひじの内側に透ける糸のような血管。触れただけではじけそうにぴんと張りつめた腱。なめらかな皮のすぐ下の、標本のようにうつくしい鎖骨。(ほんとうかどうかはわからないけれど、人間は鎖骨があるから抱きあえるのだそうだ。)どうしようもなく惹かれる、というよりもきっと、目が離せないのだろう。

ぼくらは子供やペットに対して「食べちゃいたいくらい可愛い」という。でもそれは可愛いということを表現しているだけで、本当に食べようだなんて思っていない。じゃあ、ぼくのこの欲はいったい何なのだろう。

人間を食べたいと思ったことがありますか。好きな人でも他人でも、誰かを襲って腹におさめてしまいたいと思ったことは。どんなにまっさらで真っ白い皮膚をしていても、その下にあるのは熟れた色の肉だ。たわむれに噛みついた肌のしょっぱさで、腹の底が爛れるような空腹が呼びさまされる。どちらも捕食者で、どちらも被食者。動悸に視界がゆれる。たべたい。いますぐ、たべてみたい。




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