クラシコにおけるレアルのバルサ対策に対する致命的欠陥とカオスに飲まれた組織構造/STORM(カオス)の前に悲鳴を上げるチュアメニとバルベルデ
天地開闢
レアルのビルドアップはベリンガムを肩上げした4-3-3。プレッシングを回避すべく、バルベルデ、チュアメニ、カマヴィンガでポジションをローテーションしながらビルドアップを始める。
バルサのトップとトップ下は、守備の配置においては横並びの2トップ。また両サイドのウイングも同列まで上がってプレスするため、プレッシングに関していえば4トップのフォーメーションになり、前からの圧力を強めていく。バルサの残った中盤は2枚のため、ココには広大なスペースが生まれやすい。また、レアルからするとクロースがいないので、前線にエムバペとヴィニシウスというスピードある選手がいるので中盤を通過して一気にロングボールで仕留めるという選択肢もある。バルサがリーガで喫した唯一の敗戦であるオサスナはこの策でバルサのプレスを空転させた。
レアルで突きたいのはここではない。
あくまでそう見せさせといて、中盤を空洞化させ、ポゼッションで対抗する。バルサを完膚なきまでに打ちのめすにはこの策しかないのだ。
エムバペとヴィニシウス、ベリンガムでバルサ最終ラインを牽制。空いた中盤は数的優位。
中盤でのプレスが激しくなれば、ベリンガムがボランチ裏に入りこみ前線へのリンクマンとなる。このベリンガムの移動により
バスケスがラフィーニャを引きつけて右を制圧。ベリンガムに付くCB裏にエムバペが走りこんでチェックメイト。前半、オフサイドにはなったもののエムバペがネットを揺らした場面は、レアルがこの試合でやりたかったことが垣間見えた。
オサスナのように、小手先でも何でも土をつけたい。ではレアルは許されないのだ。完膚無き打ちのめすことだけがバルサに対してマドリディスタが要求する声である。
しかし終わった現在ではどうだったか。屋根が取り付けられたはずのベルナベウには嵐が降りつけていた。
理想はSUNNY、現実はSTORM
■#1 真空パック
レアルのバルサに対するプレスの回避方法は、4バックに直接アタックしに来る4トップを出し抜いて中盤に入れる。カマヴィンガはヤマルのケアがあるので、ここでキーになるのはチュアメニとバルベルデだ。この2人でバルサのプレッシングを無効化できるかどうかがカギになる。狙いは疑似カウンター。
バルサのプレッシングは、弱点になるは中盤の数的不利なので、ここが空洞化してしまうとレアルの中盤相手だと太刀打ちは出来ない。最終ラインがハイラインなのは、オフサイドではなく中盤を空洞化させないためにバルサの中盤を真空化することが狙いである。つまりバルサのプレスにおける最大のターゲットはレアルの中盤。ここを真空状態にして動きそのものを封じる。
ボランチの2人がチュアメニとバルベルデへ迷いなくプレスを仕掛けられるためにその背後をCBでカバー。クッション材のベリンガムが加わってもスペースがないのでビルドアップ自体が機能しない。動けなくなったレアル中盤に対するバルサプレッシングの第一段階は完了。ここからピッチ上をカオスな空間に変えていく。
■#2 アダド
バルサのプレッシングにおけるフェーズ2は、相手組織の内部破壊。動きを封じることは出来た。次のターゲットは組織そのもの。
硬直させたレアル相手にどうボールを奪うのか。
レアルの配給源はバルベルデとチュアメニ。当初からターゲットにしていたものの、レアルの心臓部分を破壊することで組織も破壊できる。
スペースを消すことでパスコースも封鎖。バルベルデやチュアメニにできることは自らが運んで相手組織をズラしていくこと。そこにはバルサも付いていく。ただ、あくまでもこのコンドゥクシオンは相手プレスから逃れるためのもの。逃れ切った後にもう一度組み立て直す。しかし、
ボランチがキッチリ絞ることでベリンガムを封じること、最終ラインも高く設定しているために(最終ラインが直接プレスできるほどの距離感)スルーパスを出せる状態でもなく、
組み立て直すための迂回ルートを使おうとしても、既にバルサは待ち構えている。
同サイド圧縮することで近くのパスコースを全て封鎖。
それだけではなく、バルベルデが自ら動いて運んだことにより、本当はいてほしいポジションに当人がいないという血の巡りの悪さ。つまり、残されたルートはFWへ直接1本で届けるという小手先のみ。しかし、狙って出しているわけではないのでハイラインにエムバペが引っかかりまくって8回もオフサイドを記録するなど、カオスが蔓延していた。
■#3 ノアの箱舟
レアルのプレッシングも、後半に入ってからフレンキーを投入したバルサの前にフレンキー⇔ペドリの縦の基準点を作られたことで守備においてもポジショニングの統制が取れておらず、チュアメニとバルベルデはただただ時間が過ぎていくと同時に混乱を強めていくだけだった。
アンチェロッティの助け舟は、チュアメニに変わってモドリッチを投入。ポゼッションを握り返そうとする。嵐に負けず、物流を止めないだけの船が今のレアルには必要だった。
そこに対してのフリックの解答が、オルモを入れることによりポゼッションを強めていくということ。オルモをトップ下に、その背後にフレンキーとペドリの2枚を配置することで究極のトライアングルを形成。モドリッチが投入されることによるレアルのネガトラのクオリティ低下をオルモで解答。
後半に入ってからのフレンキーに対してのプレスが定まらなくなったレアルだが、ビハインドの状況では奪わなければ始まらない。前から行かざるを得ないわけだが、このトライアングル相手にボール奪取するのは至難の業であり、深さを使ってくるようになったバルサはモドリッチの背後を突くようになる。
ラフィーニャ、ヤマルがバイタルを襲いにかかる。相手の壁が最終ライン1枚だけなら、このトリデンテを抑えることは出来ない。プレッシングの面でも後手に回ったレアルは、ここを突かれたことでヤマルとラフィーニャにそれぞれ得点を許した。
■#4 止むことのない雨
レアルからすれば、なぜ4失点してしまったのか。その答えを言語化して説明は出来ないだろう。なぜならその原因は外壁から破壊されたわけではなく、いきなり内部を破壊されたわけだから。組織にウイルスを混入されたと例えればいいか。
これがストーミングである。
バルサは、レアルのプレッシングやブロックをポゼッションで打ち破ったわけではない。レアルの組織構造を直接叩いたことでレアルの構造上の仕組みを壊す。だから、どんなポジションにいたとしても統制が取れていない相手にはどんなポジショニングにいようとパスを繋ぐことは可能なのだ。
レアルがバルサ対策で誤ったのはココだろう。これまでのバルサ、いわばペップ政権時からはポジショナルプレーで相手の外壁から崩しにかかる。どんな守備ブロックを組まれようとも、自らの力でブロックを破壊できたが、フリックのストーミングがもたらされたバルサは違う。プレッシングで骨格そのものを叩く。そして組織のバランスを崩させる。あとはどうとでもなるのでバルサのポゼッションがあれば楽に崩せるだろう。
プレッシングにおけるターゲットはバルベルデとチュアメニだった。アンチェロッティはここに対するプレスを回避することで精一杯だったが、付け焼き刃だった。応急処置でしかなかった。バルサの本当のターゲットはアンチェロッティの采配そのもの。心臓部分を機能不全にした後、アンチェロッティには修正しかやらせない。それに対してフレンキーでありオルモでありとフリックは常にアンチェロッティの先を行く采配を見せつけた。
対策を見誤ったレアル、及びアンチェロッティが次の対戦までいかに修正していくのか。早ければ1月のサウジアラビアで行われるスーペル・コパで再開するだろう。