【Legendry Series】モウリーニョとクアトロ・クラシコ #4 終わりの始まり
Final match
第1話
第2話
第3話
レアル・マドリードは乱れていた。
レアルの象徴であるイケル・カシージャスは、何の脈絡もなくベンチを暖めている。もともと手の骨折による離脱であったが、完治して以降もベンチに座る。代わりとして補強されたディエゴ・ロペスは、カシージャスよりも足元のプレーに長けているとしてモウリーニョが重宝していた。だが、レアルのカンテラ出身且つ同期であるロペスがレアルにおけるカシージャスの存在がどういったモノなのかを理解していないわけがなかった。そしてスペイン代表監督であるビセンテ・デル・ボスケは、キャプテンとして絶対的に信頼を寄せていたカシージャスをこのままラロハでも起用すべきなのか、それともそのカシージャスをベンチに差し置いてまでもレアルのゴールマウスを守っているロペスを使うべきか。モウリーニョの権力闘争に巻き込まれた全ての人間は、ここで大きくキャリアにキズを負うことになった。これがなければカシージャスは間違いなくレアルでキャリアを終えていただろうし、2014年ブラジルワールドカップでスペインが大惨敗することもなかったかもしれない。マドリディスタも、カシージャス派とモウリーニョ派に分かれて常にブーイングが巻き起こるような環境になることもなかった。
だがこの頃にはモウリーニョはカリスマと化した。
モウリーニョが来るまでのレアルは、チャンピオンズリーグでラ・デシマ達成にリーチをかけながら5年連続ラウンド16で敗退していた。この悪しき習慣をモウリーニョは終わらせた。そして11-12のラ・リーガではペップバルサの連覇を止める、そして史上最多勝ち点101、史上最多得点での優勝を決めた。モウリーニョはいくらヒール役になっていようとも目に見える結果だけは約束してくれる。だから誰も文句をいえなかった。カシージャスがどれだけモウリーニョに反旗を翻しても、それについて行ける人などいなかった。モウリーニョに楯を突くということは、この世界から抹消されることを意味するからだ。これを終わらすためには、ペレスがモウリーニョをレアルから出すもしくは自分がレアルから出ていくか。ペレスがモウリーニョを必要しなくなるときはバルサを打ち砕いたときだ。だがこの頃、バルサにペップはいなかった。
終わりの始まり
■もっともレアルらしかったクラシコ
モウリーニョがいないクラシコ。ぺぺとラモスが出場停止でもあり、CBにアルビオルが、中盤は3ボランチから4-2-3-1に布陣変更しアロンソとディアラのボランチとトップ下にはこれまで出番が限られていたカカー。トップにゴンサロ・イグアイン。
バルサはいつもの布陣。イニエスタが肉離れから復帰してベストメンバーが揃う。
ウェンブリーに行くには3点を獲る必要があるレアル。だが果敢にプレスしたところでバルサからボールをかっさらうのは至難の技だ。
モウリーニョの策が授けられていないレアルのプレッシングはほとんど空転していた。もちろん、0-2というスコアにおける90分ハーフ後半戦として両チームのメンタル的条件は異なっていたとはいえ。
モウリーニョは、はじめから分かっていた。
レアルの選手達はバルサに勝つためにはローブロックを組んで引いてバスを置くより、バルサからボールを取り上げてしまえばいいと考えていた。もちろんそれはそうだ。バルサの選手は被ポゼッションに対する術がない。ポゼッションを許したときに対抗する守備戦術がないのだ。
だがそれは、バルサからボールを奪えたらが前提条件である。その奪うこと自体が大変であり誰も成し遂げられていなかったのだ。
これをモウリーニョは分かっていた。ボールをバルサから取り上げれば勝てるというのはモウリーニョも理解していたはずだ。サー・アレックス・ファーガソンはそのやり方でウェンブリーで玉砕している。ファーガソンですらなのだ。
モウリーニョはバルサからボールを奪うことはできない、から逆算して考えていた。だからアンチフットボールに徹した。
綿密なブロックを敷いているわけのないレアルに対して、常に中盤で数的優位なバルサは楽にボールポゼッションできる。これだけ押し込められれば0トップをやる理由がない。メッシは完全なトップ下として、ペドロとビジャはほとんど2トップかのようにゴール前に立つ。
レアルのカカー起用はカウンターによるスピードアップが狙い。だが奪えなければカウンターすら発動できない。ベンゼマではなくイグアインがトップなのも狙いは同じだろう。だが、前提条件から狂っていた。
■ウェンブリーに行く条件が整いすぎてたバルサ
2-0でリードしていたバルサが無理に攻める必要はなかった。
バルサは極論言えばただボールを保持して時間が過ぎていくのを待つだけでいいのだ。それだけでウェンブリー行きのチケットは手に入る。バルサのこの試合の目的はレアルに勝つことではなくウェンブリーに行くことだ。3点獲って勝つ必要があるレアルとは大きな差がある。そしてそのレアルはプレッシングが常に空転。奪われるという心配はいらなかった。
前からプレッシングに行くレアルに対してその背後を突くバルサ。
中盤が前から行くことで2ボランチの背後にメッシが入る。もっともボールを渡したくない相手にもっとも危険なエリアにボールを入れられる。そのメッシにプレスしたいアルビオルだがそのアルビオルの背後にビジャが抜け出そうとしている。バルサがレアルのプレッシングに付き合う必要は何もなかった。ごく普通に戦うだけで勝手にウェンブリーに行けた。
正直、バルサがこの試合で特別何かをしたということはなかった。
■敗北という結果に終わったレアル
トータル4戦の結果は1勝1分け1敗。だが終わってみればレアルは失ったものが多かった。初陣のリーガをダミーゲームとして棄てられたのはコパとCLの2つを制するためだ。だがコパは獲ったが、CLは敗れた。バルサがリーガにCLとレアルが逃した2冠を獲ったことも大きな影響を及ぼしただろう。
特にラストマッチにおける焼け石に水感のあったゲーム。3点獲ることは不可能ではなかったが、この内容では勝つことは不可能だっただろう。奇跡的にマルセロが同点ゴールを奪ったのは、ワンチャンスを確実に仕留められるレアルならではあったが、本当にそのワンチャンスしか巡ってこなかった。
だが果敢にアグレッシブに勝ちに来た姿勢だけはレアルっぽかった。だから負けたとも言えるし、モウリーニョが否定したのも頷ける。レアルらしかったからバルサに負けたのだ。
■負けたが勝ったモウリーニョ
チェスに「ギャンビット」という戦術がある。
あえて敵に味方を狙わせることで相手の出方を探るという、いわば囮作戦に近いが、今流行している疑似カウンターはこのギャンビットからヒントを得た戦術だ。
バルサとのクラシコには負けた。
だがモウリーニョは、このクアトロ・クラシコを利用してレアルを支配したかった。この政略戦争には勝った。
負けたとはいえ、最強バルサを相手に苦しめられたのはモウリーニョだけだった。モウリーニョの株はむしろ上がったとみてもいいだろう。
世論は得た。
マドリディスタはモウリーニョを支持している。まだこのシーズンはモウリーニョにとってまだ1年目である。1年目にしてコパを獲り、CLのラウンド16という呪縛は解けた。1つ先に駒を進めることはできたのだ。
モウリーニョが解決すべき残りの問題は内部だ。
ホルヘ・バルダーノは去ることが決まり、ペレスは完全にモウリーニョに心酔している。結果を伴わせることでカシージャスやラモス、ロナウドを黙らせることに成功した。1ヶ月間という短期間にクラシコという威厳あるゲームが4試合もあったことで説得力を増す機会が増えた。クラブのイニシアチブを握ることに成功したのだ。
■終幕
クアトロ・クラシコが終わった。
この1ヶ月間で、あらゆる関係性に変化が生まれた。
バルサとの関係は選手間においても冷えきり、カシージャスが常にバルサの選手へ連絡をすることでスペイン代表などへの影響も治めてはいた。とされてはいたが、実際にはバルサの選手達への警告をしていたとのこと。
スペイン代表においても、当時はバルサとレアルで占められていたため、クラシコの度に衝突しあう両チーム間の関係性をデル・ボスケは危惧していた。
スペインサッカー協会とも、このクアトロ・クラシコを境に、モウリーニョのアンヘル・ビジャール会長への批判メッセージが多くなったこともあり(主にレフェリングに対して)、ビジャールからフロレンティーノ・ペレスへ、モウリーニョから離れることを進言した。
UEFAも、CLのぺぺ退場における1件でモウリーニョに対して制裁を与えたが、UEFA主催の大会における最高峰であるCLが汚されたものとして、モウリーニョの言動を注視するようになった。
そしてレアル内部である。
クアトロ・クラシコにおけるモウリーニョ最大のターゲットはバルサではなくレアル・マドリードというクラブそのものだ。翌シーズンはバルサのリーガ4連覇を阻止。結果を出して示すことで世論を得た。カシージャスにラモス、ロナウドが口を挟める隙間すら与えない。
強化に関しても、バルダーノを追放したことで実質的に全権を得ている。誰もモウリーニョには逆らえなかった(唯一反逆したカシージャスの結末が全てを物語っているだろう。レアル退団会見に関係者が1人も出席しなかったことがクラブ内部のカオスを証明している)。
その後2年に続くエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウに吹き荒れた嵐の起源はここだった。
本来ならここまで政治の介入するようなサッカーの試合になることはなかった。なかったはずなのだ。ただのクラシコ4連戦で終えられるはずだった。
バルサの黄金期真っ只中というのも相まってか、戦争を始めるのは簡単だった。自身の力を示す最大の見せ場としてのクアトロ・クラシコ。レアルは敗北した。だがモウリーニョは勝った。結果はそれだけ。だが、ここからが今後の物語の全てにおける伏線となるとは、この時点では誰も想像していなかった。
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