2023 年間ベストアルバム 30
2023年の30枚。今年もエレクトロニックミュージックと定番の邦バンドを中心に聞いていたので、例年通りそういうリストに納まった。
画像は先日妻と行ったマンウィズのライブ。二人でライブ行ったの、多分2004年のRIJF以来で楽しかった。子供一人で留守番させても平気になったので、来年以降はライブなりフェスなりまた二人で行けるかもしれない。
30. Sandwell District - Feed Forward
このアルバムの再発と再結成は2023年のインパクトのある出来事の一つだったと思う。オリジナルは2010年末のリリースで、時代を代表するテクノアルバムであった。当時はCD版の方を好んでいたけど、改めてこちらを聞いたら全然色褪せてないし最高に格好良い。追加収録されたトラックもめちゃ良かった。
29. Braun Jaschkewitz - Neid Dabei Zu Sein #1,2
80年代ドイツのニューウェーブやシンセポップ、ボディミュージック、N.D.Wの7インチレコードからの一発録りだという狂気の沙汰でしかないミックステープ。今の音楽も四十年後にはこうやって聞かれるのかと思うと感慨深い。
28. Felipe Gordon - Errare Humanum Est
ここ数年 bandcamp でよく見かけるようになった”soulful house”のタグに違わぬハウスミュージック。コロンビア出身とは思えないデトロイトライクな、気持ち良く踊れるジャズやアシッドを組み込んだディープハウス。場所も時間も問わない普遍的な良さがある。
27. DJ SMILEY BOBBY - Dhol Tasha Drum Exercises from Maharashtra
『RRR』を観て感化されていた頃によく聞いた狂乱のインド式レイヴ。矢継ぎ早に繰り出されるドラムのあまりのハイテンションぶりに置き去りにされること間違いなし。ハイカロリー過ぎて聞くタイミングを選ぶも満足度は高い。
26. J. Albert Meets Will August Park - Flat Earth
アンビエントっぽいダブテクノを得意とする J. Albert と、ピアニストだという Will August Park によるコラボレーション。ピアノ以外にもサックスやウッドベースが織りなすジャジーなダブテクノは、高級感の漂うゆったりとした時間の流れを演出する。目つきヤバくない?
25. Kat7 - Motherboard
Exile Di Brave と Gavsborg からなるユニットのデビューアルバム。実験的な曲もありつつ、ダンスホールレゲエを基本としている。トラックはシンプルで音数が少ないが、それを感じさせない程にどの曲も生命力がみなぎっている。
24. Qow - ElMosameh Sherine
Romance が セリーヌ・ディオンを、Florian T M Zeisig がエンヤをアンビエント化したように、エジプト出身の Qow も自国のポップスターをサンプリングし再構築。儚げでオリエンタルなアンビエントが新鮮。
23. Rrose - Please Touch
Sandwell District や Stroboscopic Artefacts といった実験的なテクノレーベルからのリリースが多いだけあって、テクノとは言ってもダンスミュージックとは違う世界を切り拓く。呪術的でドローンとシームレスに接続された、聴きごたえのあるテクノアルバム。
22. Salac - Buried
アイルランドの歴史や黒魔術に影響を受けた、気だるいボーカルやシャウトとブリストルの暗黒やさぐれベースサウンドからなる、インダストリアルなアンビエント。何言ってんだって感じだけどそういう音だから仕方ない。
21. Len Faki - Fusion
2009年の年間ベストに彼のミックスCD『Berghain 03』選んでいて、それからずっとアルバム出さないのかと思っていたら遂に出た!しかも何を思ったのか24曲収録の8LPという大容量。いわゆるアルバム作品としての緩急は無く、頭からテクノ、ハウス、ブレイクビーツを浴びせられ続ける。
20. The Chemical Brothers - For That Beautiful Feeling
冒頭からレーザー飛び交う大きな会場で映えそうな曲が続き、4、5曲目あたりから得意のブレイクビーツになだれ込んでいく。『Push The Button』以来に聞いたけど、このアルバムの印象は『Surrender』をよく聞いていたあの頃とほとんど変わらない。
宇都宮ブレックスが試合開始直前に決まって『Hey Boy Hey Girl』を流すので、彼らの音が恋しくなってしまったかも。
19. Continuity - Continuity
スウェーデンの作家 Martin Herterich の本名義での1stアルバム。架空の東アジアの大都市を舞台としたアンビエントダブ。アートワーク的には日本っぽいので Rod Modell の『Liumin』のようかと思ったが、冷たく立ち並ぶ建造物とビルに吹き付ける風雨を思わせるサウンドは、ブレードランナーのような世界観に近いかも。
18. Chuquimamani-Condori - DJ E
Blueberry Records や PAN などからのリリースで知られる Elysia Crampton の別名義。彼女のルーツであるボリビアのエッセンスが大量にコラージュされた破壊的なポスト・クラブミュージック。アンデスのフォルクローレをバックに、不快感と驚きと戸惑いと発見の連続を楽しめる。
17. RP Boo - Legacy Volume 2
今年も多くのジューク/フットワーク作品がリリースされた中で、ジャンルの創始者から届いた2002年から07年の曲をまとめたという正真正銘のオリジナルトラック。現代の曲と比べるとシンプルではあるものの、サンプリングのネタといい使い方といい格好良すぎる。『Bangs & Works Vol.2』の一曲目であった『Heavy Heat』が流れてきたときは、懐かしさもあって色々込み上げてきた。
16. Marta Salogni & Tom Relleen - Music For Open Spaces
二人が旅をした中で見聞きしたものや、自分たちのルーツとなる場所から受けたインスピレーションを元に即興で演奏。2020年に Tom Relleen が亡くなった後、Marta Salogni が一人で完成させたそう。シンセとベースからなるアンビエントは、様々な美しい景色を見せてくれるも常に暗さが付きまとっている。
15. King Vision Ultra - SHOOK WORLD (hosted by Algiers)
PTP を主宰する GENG の King Vision Ultra 名義でのアルバム。彼の地元であるNYについてラップし、Matana Roberts や ELUCID、DJ Haram など非常に多くのアーティストとのコラボレーションや協力を得ることで生み出されたNYのためのヒップホップ作品となっている。
14. samizdat - Disenfranchised Refuseniks
マンチェスターの謎多き作家 Michael J. Blood のプロデュースでデビュー。スモーキーで不明瞭な、ジャズやデトロイトの影響を感じるディープハウス。甘くささやくようなボーカルが魅力的。Andy Stott の『Too Many Voices』をハウス化させたような都会の夜の音。
13. Joaquín Orellana - Sacratávica
グアテマラの作曲家の50年に渡る活動の一端をまとめた作品。楽曲は穏やかであったり怒りが込められていたり神聖な儀式めいたものまで。波のようにうねるマリンバのような楽器が特徴的な、Útiles Sonoros という自作の楽器群によるオーケストラの演奏は、これまで聞いたことのないような音を楽しむことができる。
12. Valerio Tricoli - A Circle of Grey
イタリアの作家 Valerio Tricoli が、オープンリールテープレコーダーで生み出すエレクトロアコースティック作品。真っ暗な空間で感じる音の瞬きや、よくわからない機械的な装置の息遣いであるとか、本来ならば生命の無いものを有機的なものであるかのように聴かせてくれる。静寂の中、ふと聞こえてくるピアノやギターの音色は孤独感を増幅させる。
11. GRAPEVINE - Almost there
最初に聞いたときはボーカルとトラックの音がガチャガチャうるさくて「これ駄目かも~」となったけど、聞く環境変えたからか単に慣れたのか、それからはむしろ過去数作で一番好き。『実はもう熟れ』をミ・アモーレと読ませるのとか天才だし、天才でありながら歌詞が等身大のおっさんなのが良い。
10. Moufang • Czamanski - Recreational Kraut
ともにアンビエントやハウスに精通した Move D と Jordan GCZ のコラボアルバム。穏やかな空気感の漂うハウス、ジャズを内包した実験的なアンビエントとなっている。本作で奏でられるのは、US産の猥雑な人間臭さを感じるハウスではなく洗練された美しい音の連なり。じっくり浸れる。
9. Marijus Aleksa - As They Are
リトアニアのドラマー、パーカッショニストによる、音のコラージュをコンセプトとしたジャズ作品。23人ものアーティスト達とのセッションを録音し編集。アフリカやカリブなど、世界を巡るリズムの旅。
8. Dancefloor Classics - Dancefloor Classics Vol. 1-5
Vladislav Delay の新しい試みは、2023年に年間通してリリースされたダンスフロアに焦点を当てたEP群。ディスコやソウルナンバーをサンプリングし、高速化させてジューク/フットワークに再構築。Vol. 5のリリースは来年1月なので全てそろってる訳ではないけど評価は揺るがない。
7. Joey Anderson - Exotic Sequence
NYのハウスダンサーでありプロデューサーの Joey Anderson 四枚目のアルバム。唯一無二といえる彼のサウンドは、享楽的なハウスとは一線を画し、踊ることのみを目的としたかのような没入感のあるものとなっている。
どうも思っていたより著名なダンサーらしく、自分が踊るためのトラックを作っているのだと思えば納得のいく内容だ。
6. Russell Ellington Langston Butler - Call Me G
Russell E. L. Butler の方がしっくりくる。Opal Tapes や Mister Saturday Night などからリリースしているバミューダ諸島出身のアーティスト。まどろみの中にいるような心地よさと不明瞭さに包まれる、ボソボソとしたロウな質感のハウスとダブテクノの中間地点。
5. Hi Tech - DÉTWAT
鮮烈なデビューとなった前作から間を開けずにリリースされた2ndアルバム。ラップを基本とし、ヒップホップ、ハウス、ジャズ、ジット、フットワークをブレンドした彼らのサウンドは、荒々しくもそのオリジナリティでゲットーテックの未来を担っている。
デビューのきっかけをくれた Omar S がやらかしたことに対して、毅然とした態度をとってレーベルを離脱したために Bandcamp から削除され、そのあおりで Spotify でも聞けなくなってしまったのが不憫。
4. BUCK-TICK - 異空 -IZORA-
リリースのたびに前作をアップデート。アルバムとしてのバランスも良い。愛や死をテーマに電子音や歌謡曲調ロックなど、いよいよBUCK-TICK王道路線のアルバムとして極まってきた。Spotifyいわく、僕の今年のトップアーティストだそう。でもこんなの想像してなかったよ。
3. Mary Jane Leach - Woodwind Multiples
今年のベスト・オブ・なぜか知らんがよく聴いたアルバム。この作品がどのように演奏されているかの詳細は面倒なので省くけれど、まさしくアートワークのように音が複雑に枝分かれしていく。人為的なアプローチは限られているにもかかわらず、ふと現れるメロディ(らしきもの)がとても心地よいし、むしろただ音が鳴っているだけでも気持ち良い。
2. Joe Babylon - Solitude
90年代から活動しているというが、本作が満を持してのデビューアルバム。アートワークの通りMPCを駆使して作られた、埃っぽく力強いディープハウス。目新しさは無いのかもしれないが、長年培ってきた技術と経験に裏打ちされた間違いのないプリミティブなハウスアルバム。『孤独』というタイトルも良い。
1. Kassem Mosse - workshop 32
初めて聞いたときから決めてました、的な今年のベスト。さまざまな名義で作品をリリースしているが、メインであるこの名義では六年ぶり。また、傑作といわれるデビューアルバム『Workshop 19』以来となる Workshop からのリリースでもある。
デトロイトのディープハウスの影響を感じさせながらも、装飾や艶っぽさを排除した、必要最小限なメロディとリズムによるミニマルでグルーヴィなローファイハウス。一曲目の一音目で心を掴まれてしまって以来、そのグルーヴから抜け出せずにいる。
ちなみに Mix Mup との MM/KM としてリリースした『Ich Sehe Vasen』もめちゃめちゃ良かった。