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美術展雑談『モディリアーニ ―愛と創作に捧げた35年―』

新築ピカピカの大阪中之島美術館は、収蔵作品を並べた『超コレクション展 ―99のものがたり―』を一発目の打ち上げ花火として、次の展覧会からが本来の方向性を示してくれるものと期待していました。
そして公開されたのが『モディリアーニ ―愛と創作に捧げた35年―』です。なるほど、そうきましたか。この企画を通したスタッフのドヤ顔が目に浮かびます。
モディリアーニについてサラッと語れたらカッコイイのでしょうが、私のようなうすーいヤツにはもちろん無理です。ただ、モディリアーニといえば私は石川サブロウ先生の美術漫画『蒼き炎』で主人公のパリでの友人だったモジを思い出します。まさにジェラール・フィリップを思わせる美形の好青年でしたね。その程度しか語れず、お恥ずかしい限りです。

モディリアーニはもともとは彫刻に没頭していたということで、アーモンド型の瞳に長い顔立ちといった彼の肖像画の特徴は、プリミティブな宗教観をもつ民族の仮面からの影響があるようです。
本来は顔を覆って隠すはずの仮面に、モディリアーニは人間の内面が浮き出るイメージを得たのでしょう。そうして神秘性はそのままに、隠すからこそ感じ取ることのできる豊かな表情を描き出しました。しかし私が見る限りでは、その表情は悲しみや不安といったおよそネガティブなものが目立ち、なにかしら悲劇めいた物語を想像させます。それがまた、彼の絵画から目を離してはいけないという、不思議な感覚となっています。
モディリアーニは「呪われた作家」とも呼ばれますが、それは彼が不遇のまま35歳で逝ったということだけでなく、孤高であった彼の情熱に対する敬意も含まれているのではないかと思いました。

本展の展示の中で個人的に大好きなのは、友人であったという藤田嗣治さんを描いた肖像画です。紙に鉛筆で描いた、素描というより走り書きといった感じの簡単な絵なのですが、お馴染みのオカッパに口ひげ、組んだ腕の中にはニャンコがいます。数本の線でしかないけれど、かわいいニャンコです。たった数本の線だけで、かわいいと感じさせる力があるということです。

2018年の京都国立近代美術館『藤田嗣治展』
乳白色の神秘。カフェ。そしてニャンコにまみれる幸せな時間でした。

そして恋人であったジャンヌの肖像画にも惹かれました。写真の彼女はモダンでクールに見えましたが、モディリアーニの描く彼女は、悲しげでありながら同時に優しい表情をしています。それはモディリアーニが感じた彼女の本質であるとともに、彼女に向けたモディリアーニ自身の思いを描いたということでしょう。ジャンヌはモディリアーニが没した二日後に後を追っています。そんな二人を伝説として美化することへの賛否はともかく、誰も二人の絆を裂くことができないのは間違いありません。

『大きな帽子を被ったジャンヌ・エビュテルヌ』
ポストカードを購入。ときどき眺めます。

エコール・ド・パリといえば、正当な評価を受けないまま貧困にあえぎ、酒や薬物に溺れて破滅してゆく若い画家たちのイメージがあります。モディリアーニも、そんな一人だったでしょう。
しかし彼はカフェやサロンで騒ぎ、オカッパの日本人と語らい、親友のキスリングとケンカしてはキスリング夫人に仲裁されて、そして大好きなジャンヌの肖像を心を込めて描いたのです。悲しいばかりではない、幸せな日々を確かに過ごしました。
『モディリアーニ ―愛と創作に捧げた35年―』はそんな素晴らしい時代の風を、私にも感じさせてくれたような気がします。モンパルナスのみんな、ありがとう。またいつか、どこかで。

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