「腎臓」が再生しないのは臓器別最適化戦略
なぜ、肝臓は再生するのに「腎臓」は再生しないのか?
臓器別の最適化戦略だと考えました。
腎臓は安定した特化機能を選んだ。
肝臓はがん化のリスクを含めて再生機能を選んだのでは?
猫の腎臓はやはり砂漠の生活に有利に進化していた。
腎臓の再生に「iPS細胞」は有効では?
次はじゃあどうすれば良いの?の話にしようと思います。
はじめに
この前に予告をした「人間の腎臓」の話をしたいと思います。
知り合いの方に「腎臓の話で何を聞きたいですか?」と聞いたところ、「なぜ肝臓は再生するのに「腎臓」は再生しないのか?」という質問がありました。
私の義弟は外科医なのですが、以前に「肝臓は手術で半分を取っても、元気の良い人は半年もあれば元の大きさに戻るよ」と聞いて驚いた記憶があります。
そこで、皆さんにも興味を持ってもらえるのではないかと思ってその話を取り上げました。
日頃の診療では、腎臓は再生しないことを前提に進めていくので、あまりそれ以上の深い説明をしたことがありません。
「肝腎(心)要(かんじんかなめ)」と言うように、腎臓も肝臓もどちらも大切ですが、再生能力とそのリスクヘッジに関してはだいぶ違います。
腎臓の特定(多)機能特化と再生能力の限界
腎臓は再生能力が限られていて、腎臓の基本単位であるネフロン(左右の腎臓に合わせて2百万個あります)は、損傷を受けると再生することができません。
腎臓の前駆細胞(いろいろな細胞に分かれる細胞)は出生前後に無くなります。
これは、腎臓が特定の機能に特化してきたためと考えられています。
先ず、そもそもなぜ腎臓が進化したのかからお話します。
人間の祖先は海で生まれ、その後に淡水(海に比べて塩分濃度が極めて薄い水)の環境に進出しました。
その時に劇的に変化した水環境に適応しました。
そのままだと浸透圧の原理で水分が大量に体内に流入してしまいます。
その為、進化により大量の水分を排出し、さらに必要な電解質などを再吸収(もう一度体内に取り込む)する能力を獲得しました。
さらに、その後に陸上に進出した時も水環境が劇的に変化しました。
今度は、水不足(乾燥)の環境となりましたが、そこでも進化し適応しました。
今度は水不足(乾燥)の環境に対応する為、水分を濃縮する能力を獲得しました。
この2回の水環境の激変に対して、進化・適応の過程で、どんな水環境にも対応できるように、再生能力よりも特化した機能の完成度を選択したのだと考えました。
ちなみに、猫は砂漠がルーツの生き物なので、ネフロンの形も人よりもさらに水分濃縮に有利に進化しています。
腎臓の機能として、先ず尿を作る働きがあり当然体内の水分の調節をします。
さらに、尿の生成を通して、フィルターの様に血液をろ過して老廃物を排出し、電解質のバランス調節なども行います。
さらに、腎臓は尿の生成以外にも働きがあります。
ホルモン(血圧を上げるレニンや、血液を作るエリスロポエチンなど)の産生やビタミンDの活性化などいろいろな働きがあります。
これらの機能を効率的に実行するために、再生能力よりも安定が重視されて進化してきたと考えられています。
体操やフィギュアスケートなどに例えると、難しい技に挑戦するより、技の完成度を高くするということだと思いました。
腎臓の尿の生成以外の多機能性についてはまた別にお話します。
肝臓の臨機応変多機能性と再生能力
一方、肝臓は、損傷を受けた際に驚異的な再生能力を発揮します。
この能力は、肝細胞の増殖と肝前駆細胞によって支えられています。
肝前駆細胞は出生後も残ります。
肝前区細胞は肝細胞や胆管上皮細胞などの異なる細胞に分化することができ、肝臓の多様な機能を維持します。
以下の説の支持が多いようです。
肝臓は解毒作用があり、多くの有害物質にさらされるため 、損傷した細胞を素早く再生させ、生存率向上に繋げる必要があったと考えられています。
ただ、肝臓がんの発生率が腎臓がんより圧倒的に高いのは再生のたびに遺伝子エラーが重なる可能性があるからだと考えています。
C型肝炎の影響も大きいと思いますが、それも再生時の遺伝子エラーの可能性が高く、C型肝炎が撲滅されても肝臓がんの発生率は腎臓がんより高いのではと考えています。
体操やフィギュアスケートなどに例えると、少しでも難しい技に挑戦するということだと思いました。
結論
腎臓と肝臓は、それぞれ異なる進化の道をたどりました。
腎臓は、再生能力は限られていますが、安定した特化・専門化した機能を選んだのだと思います。
肝臓は、がん化のリスクをおかしても、分化による臨機応変な多機能性と高い再生能力を選んだのだと思います
これらの違いは、進化の過程での環境適応や生存に有利な最適化戦略に基づくものであると考えています。
おまけに
「iPS細胞」から腎臓の前駆細胞を作り出せば、腎臓の再生医療に大きく役立つのではと思いますが、その研究も進んでいるようです。
次は、じゃあどうすれば良いの?の話を考えています。