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〔ショートストーリー〕解き放たれた日常

「わーい!今日の給食はカレーライス♪」
午前の授業が終わりはしゃぐ私に、未来(ミク)が一言。
「相変わらず、女子中学生とは思えないよね。完全に色気より食い気」
「あったり前。色気でお腹は満たされないもん」
私は鞄からゴソゴソと木製のスプーンを取り出す。
「お、今日は準備万端」
半笑いの未来。本当に、この間はこれを忘れて大変だったのだ。


昔、ユリ・ゲラーという人がテレビでスプーン曲げをして見せ、それを見た全国の子ども達があちこちで真似をしたという。スプーンを曲げた子ども達の大半は、トリックだったりただの力任せだったりしたらしいが、一部、本当に能力を開花させた者もいた。私の両親がそう。ただ、両親に出来るのはスプーンのような小さい金属を曲げぐらいだったのに、私はそれが少し強く出てしまった。握った金属は、私の意思にかかわらず何でも曲がってしまうのだ。
「この間はスプーンが曲がる前にカレーを口に入れようとして、苦労していたもんね」
そう。グニグニ曲がるスプーンでカレーを食べることがどんなに大変か。しかも、柄が曲がるだけじゃなく、掬う部分が平らになったり、逆に反り返ったり、もうてんやわんやだった。分かり易く例なら、スプーン型の紙でカレーを食べようとする感じ。ね、無理でしょ?
「最後は手で食べてたよね。日本人とは思えない食べっぷりだったわ」
うるさい、放っといてくれ。私は何が何でもカレーが食べたかったんだから!


どこで聞きつけたのか、私の能力をもっと伸ばすべきだとか、国家のために役立てろとか、怪しい団体に狙われたりもする。が、そんなのは絶対にゴメンだ。私は普通の中学生でいたいんだから。
「あ、今日の帰り、水色の軽自動車に気を付けてね。ナンバーは……××××」
急に未来がぼんやりした目で言う。
「分かった、ありがと。また奴ら?」
先月も変な奴らが私をワゴン車に連れ込もうとしたので、両手でスライドドアを掴んで抵抗したら、そこからウェーブのように車体が波打ってしまった。当然、車は走ることも出来ず、奴らは車を捨てて走って逃げていったっけ。
「いや、前の奴らより荒っぽいかな。スタンガンが見えるから、先に眠らせる気じゃない?」
未来の能力は「予知」。有り難いことに、私は何度も彼女に助けられてきた。
「了解。凪子に頼んどくわ」
クラスメートの凪子の能力は「無力化」。車ならエンスト状態にするし、スタンガンは電気を発生させないように出来るし、テレビなら映らないようにしてしまう。ま、簡単に言えば故障させてしまうんだな。凪子は私と違ってちゃんと能力を制御出来るから、ピンポイントに効果を発揮できるのは羨ましい。


あれこれ話している間に、カレーの入ったお皿が目の前にフワフワと運ばれてきた。今日の配膳当番は遊太。ちょっとしたものなら空中浮遊させられる。未来が私の分のお皿も掴んで、そっとお盆に載せてくれた。もう未来ったら、お母さんみたい。
「ではでは。いっただきまーす!」
木のスプーンで食べるカレーは、めちゃくちゃ美味しい。こんな楽しい日常を手放してたまるか。私たちはただの中学生。少し他の人と違う所があるけれど、それを隠すとか封印するなんて馬鹿げている。他の人と違ったって、これが私たちの日常。それだけのことだ。

(完)


こんばんは。こんな感じで良いのかな……と思いつつ、書いてみました。羽根宮さんの記事から飛んでみると、あまりにも楽しそうだったので。

アルロンさんの企画はこちら。

でもこれ、闇の力じゃないなあ。アルロンさん、もし方向性が違いすぎたらそっと放置して下さい💦
書いていて楽しかったです♪ありがとうございました。


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