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〔ショートショート〕かも知れない弁天

下山途中で道に迷った。近場で歩きなれた道の筈なのに、気が付くと霧の中。途方に暮れていると、霧の向こうに見慣れない鳥居と、美しい女性が立っていた。手には琵琶のような楽器、長い黒髪……。確か、宝船の掛け軸で見たことがある。恐る恐る声をかける。
「あの、もしかして弁天様……?」
「かも知れないわ」
頭の中に直接声が響く。神さまがいると言うことは、ここは……。
「も、もしかしてここはあの世……」
「かも知れない」
「私は死んでしまったのですか!?」
「かも知れないわ」
いい加減な返答ばかりで、段々イライラしてきた。
「何で同じことばっかり!本当は何にも知らないんでは?」
「かも……知れない」
確信した。これは本物の弁天様じゃない。多分、山の狐か狸の類い。だったら。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
九字を切り、手刀で払う。キャッという鳴き声と共に鳥居も偽弁天も消え、近くには見慣れた道が。山ではこんなことはよくある……かも知れないな。
(完・409字)


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