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〔ショートショート〕数学ダーリン

「1+1は2じゃないんだよ」
ダージリンを飲みながら、彼はそう言った。
「僕と君なら、1+1が1にもなるし、100にもなる。僕らの可能性は無限だ。だから結婚しよう」
文系の私にはちんぷんかんぷんだったが、彼らしいプロポーズに笑ってOKした。

数年後、子どもが生まれた。大変さは数倍になったが、喜びは更に大きい。まるで掛け算のような毎日に、私は幸せを噛みしめていた。そして彼もそうだと思っていた。最初のうちは。

更に1年後。
「ごめん、僕には3の安定感が無理みたいだ」
何だその言い訳、と思った。飽きっぽくて浮気性なのをそんな言い方で誤魔化して、完全に自分に酔っている。私は子どもをあやしながら手早く荷物をまとめ、離婚届にサインすると、彼のためにストックしていたダージリンの茶葉を床にぶちまけた。うん、いい香り。固まる彼の前で指輪を外し、その中に投げ捨てる。
「さあ、茶葉は何枚でしょう?」
言い捨てて部屋を出た。1+1=2、「子どもと二人」が私の解だ。


こんばんは。こちらの企画で書かせていただきました。

ダージリン、美味しいですよね。最後のシーンはちょっと勿体なくて「ああ…」となりました。自分で書いたくせに。
あ、数学は全然ダメです。一番嫌いなのが数列で、一生理解できないと思います。
たらはかにさん、楽しいお題を有難うございました。読んでくださった方、有難うございました。

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