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〔ショートショート〕夜からの手紙

俺には秘密の習慣がある。毎夜、眠る前に自己催眠をかけるのだ。自分の潜在能力を呼び覚ますためだが、たまに明日の自分へのメッセージを、手紙にして残すことがある。朝にはすっかりその内容を忘れているので、俺はこれを「夜からの手紙」と呼んでいる。

どうやら俺には僅かな予知能力があるようで、その手紙の通りにすると小さな幸運に出くわすのだ。「1つ手前の角を曲がれ」に従って五百円玉を拾ったり、「青いネクタイを選べ」に従って憧れの小夜子さんに褒められたり。こんな小さな幸運でも、何度もあるとやはり嬉しい。毎朝テーブルに手紙があるか確かめるのが、俺の日課になった。

だが今朝は寝過ごした。慌てて見た時計は、何と8時過ぎ。ヤバい、遅刻だ!と見ると、テーブルの上に手紙が。藁にも縋る気持ちで手紙に飛び付くと、そこには一言。
「寝坊しないよう6時に起きろ」
俺は自分に悪態をつきながら手紙をクシャクシャに丸めて捨て、全力で着替えて駅まで走った。

(完・407字)


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読んでくださった方、ありがとうございました。

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