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〔ショートストーリー〕金色の聖杯

金色に輝く聖杯をこの洞窟から持ち帰る。そうすればゲームクリアだ!俺はワクワクしながら、慎重にコントローラーを操る。ここでミスしてゲームオーバーなんて冗談じゃない。


数々のトラップをかわし、敵を倒しながら、やっと聖杯が置かれている祭壇まで到着。でも……
「あれ?金色じゃない?」
聖杯は薄汚れていて、アイテムの「柔らかい布」で擦っても全く光らない。リアルに手に汗を滲ませながら、聖杯を良く調べると、台座部分に小さな文字が掘られていた。
「ここまでの道のりを振り返れ。聖杯は己の心の色」
「あ……」
俺は思い出してしまった。


エルフの村で宝箱を壊しまくって、伝説の剣を見付けて勝手に持ち出したこと。そのおかげで中ボスを倒したのに、返しに行くこともなく武器屋でさっさと売ったこと。
その他の場所でも、村人から秘密を聞き出した後は挨拶もしなかったし、欲しい物を手に入れたらその村に立ち寄ることもなかった。子どもからアイテムの部品のおもちゃを取り上げ、代わりに渡すべきキャンディを自分で食って泣かせたことも。


公式サイトには、「遠回りでも勇者の礼節を忘れるな」「武器や防具は強奪せず、相手から信頼され、与えられよう」など、今思えばヒントになる言葉がたくさんあった。そうだ、こんな結末ぐらい予想できたはずじゃないか!が、俺は無視したのだ。一刻も早くクリアしたい、それだけが俺の願いだったから、何も見えなくなっていたのだろう。
そして誰よりも早く、ここまで辿り着いた。クリア画面をネットにアップし、フォロワーからの称賛を浴びるはずだった…のに。


薄汚れた聖杯を手に、俺のアバターが立ちすくんでいる。しばらくすると、次々に「クリアしました!」の報告がアップされ始めた。彼らはきっと、勇者に相応しい行いを守ったのだろう。そう、称賛に値する者たちだ。
ここまでの気の遠くなるような道のりを思い返すと、後悔の念に押し潰されそうになる。俺はライバル達がクリア報告をアップする音を聞きながら、涙に濡れた手でゲームの電源を落とした。

(完)


こんばんは。締切を過ぎてしまいましたが、こちらのお題で書きました。

小牧さん、いつもご迷惑かけて済みません。お題をくださるだけでも、とても有り難いのに。
読んでくださった方、どうもありがとうございました!

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