醜形恐怖
人通りの多い、街中。
横を歩く私の彼女は、私を見て微笑んだ。
自分が彼女に嫌われているとは、ギリギリ思っていないものの、私は彼女の眼を見ることができない。自信がない。彼女の眼に映る自分の顔を醜く感じて、死にたくなってくる。
彼女を美しいと思えば思う程、自分の醜さが恥ずかしくてしょうがなかった。そう告げると、「私は君の顔を見てるんじゃないよ」と彼女は言った。
じゃあ何を見ているのか。
彼女は微笑んで、「私も君の眼に映る自分を見ているのかもね」と言った。
勇気を振り絞り、私は彼女の眼を見た。瞳に映る自分。彼女の顔と自分の顔が重なるような感覚に襲われる。見分けがつかなくなる。足元がぐらつく。
「怖いなら、目を閉じていてもいいよ。私が引っ張って歩くから」
その言葉に、私は目を閉じて彼女に身体をゆだねた。
眼を閉じれば、それで世界は変わる。
周りの人も、美も、顔も、見た目の価値観も消える。
彼女の細く柔らかい手の感触だけが、世界で唯一の確かなものに思えた。
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