ふるえるほどの幸せのその先ー後ハッピーマニアについてー
「ふるえるほどのしあわせってどこにあるんだろう これからもそれを探していくのかな」
「ハッピー•マニア」の最終回で、シゲカヨは、そう言って結婚式場から脱走する。
6年にわたる連載で、「ふるえるほどのしあわせ」を探し続け、恋に生きたシゲカヨが、たどり着いた答えが、これだ。
シゲカヨもやっと結婚して、これからは、穏やかにタカハシと生活していくのだ、と読者が思った矢先。「そんなものは、ほんとうの幸せじゃない」と言わんばかりに、シゲカヨは、脱走する。
幸せの求道者。まさしく、ハッピーマニアというタイトルに偽りはなかったのだ。
そのラストは、爽快感がある一方で、どこか切ない。なぜなら、私たちは、心のどこかで「ふるえるほどのしあわせ」が存在しないことを知っているからだ。
「ふるえるほどのしあわせ」のその先を描いた続編が、まさか、その20年後に描かれるなんて誰が予想しただろうか。
恋の暴走列車シゲカヨは、すっかりダメな主婦として、タカハシの嫁として、まったりと生活している。
しかし、ある日、突然タカハシは「僕と…離婚して下さい」とシゲカヨに伝えるのだ。
激昂するシゲカヨ。タカハシには、他に好きな人ができたのだ。しかも、シゲカヨより、かなり歳下の美人。
シゲカヨは、新婚一ヶ月目に、家出したときのことを思い出す。親友のフクちゃんの家でたまたま出会ったイケメンといい雰囲気になるも、シゲカヨは逃げ出す。
いろいろなリスクを考えた結果、帰ってタカハシに謝ることを選択したのだ。
「あの時 私は捨てたのだ 自由に恋する心を 「安心して暮らしていける一生のパートナー」と引き換えに」
その日から、シゲカヨは、浮気をしないことを心に決める。それは、「ふるえるほどのしあわせ」を諦めることを意味する。
ハッピーマニアであることが、アイデンティティだったシゲカヨ。その瞬間、それが崩れたのだ。
タカハシが、なぜ、シゲカヨより、出会ったばかりの女性を好きになったのかは、漫画を読んでいても、よくわからない。
電車の中で話すうちに好きになっていったと言うが、6年間(連載期間)の大恋愛を知っている読者からすると、「そんなんで、乗り換えてんじゃないよ!」とクレームをいれたくなる。
タカハシは、ハッピーマニアのシゲカヨが好きだったのかもしれない。どこまでもまっすぐで自分の心のおもむくままに恋をして、傷ついて、それでも、幸せを探し続けるシゲカヨのことが。
「ふるえるほどのしあわせ」を諦めたシゲカヨに、タカハシの恋心も年月とともに、消えていったのではないか。そう考えると、タカハシ自身も、ハッピーマニアのシゲカヨが大好きなハッピーマニアだったのだ。
結婚生活は、恋愛だけでは成立しない。けれど、そんな正論は、彼らには通用しないだろう。
恋だけではなく、人はみな、シゲカヨのように「ふるえるほどのしあわせ」を求めて、そして、諦める。
「でも、どこかに、きっとある」
そう思って生きている人は、きっと、いつまでも魅力的だ。
あの日、結婚式を脱出したハッピーマニアのシゲカヨにこの作品でまた出会えることを期待したい。