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「俺の家の話」最終話について

そうきたか、、、。

というのが、素直な感想だ。

ドラマ「俺の家の話」のラストは、誰もが余命半年の父寿三郎の死であると考えていた。しかし、その話は、最終話の前に描いてしまっている。

死にかけた寿三郎が、長男寿一の声援により蘇るのだが、なんと、その寿一こそ、最終話で死んでしまうのだ。

それも、寿三郎を暴漢から救うためとか、轢かれそうになったのを助けるためとか、そんなドラマチックなことは起きない。

年末のプロレスの試合で、無理をしすぎた。それが理由で、なんと試合シーンすら描かれはしない。

その後、寿一は、死んだことを理解できないまま幽霊として、父の前に現れる。それも、「隅田川」を上演している舞台で。母と子の別れを描く能の「隅田川」にリンクして、物語が進んでいたことを、初めて視聴者は理解する。

私は同じく宮藤官九郎脚本の傑作「木更津キャッツアイ」を思い出した。最終話は、余命半年の田淵公平(ぶっさん)が死ぬ。悲しみを乗り越えようと、仲間たちは、野球を始める。しかし、試合にぶっさんは現れる。

ぶっさんは生き返ったのだ。その後、映画でも死んでは生き返り、幽霊になっても仲間の前に現れる。ゾンビのようになったぶっさんは、野球チーム「木更津キャッツ」の仲間たちが「大人」になったことで、やっと成仏する。

一方、「俺の家の話」では、幽霊になった寿一がエピローグでプロレスの試合中に現れる。そして、なぜか乱入した長州力にラリアットを決めて倒し、マスクを投げる。

寿一は成仏したのだろうか。家族のために長男として役目を果たし、父に褒められたのだから、やり残したことはないように見える。

しかし、「木更津キャッツアイ」と大きな違いがある。それは、ぶっさんは、木更津キャッツのメンバーに「もう成仏してくれ」と言われて成仏していることだ。

チームのリーダーだったぶっさん。ぶっさんがいたから、いつも仲間たちは楽しかった。けれど、大人になったメンバーたちに、ぶっさんの若いノリはきつい。だから、メンバーたちは、もう、ぶっさんがいなくても大丈夫だと言って「バイバイ」をぶっさんに伝え、やっとぶっさんは成仏するのだ。

しかし、寿一は、あまりに唐突に死んでしまう。誰も、ちゃんとサヨナラができないままに。幽霊として現れた寿一に寿三郎と妻になるはずだったさくらは短いお別れをする。

しかし、彼が、まだ、誰からも必要とされていて、いつまでも、生きていてほしいと思ったのは、ドラマの登場人物もそうだし、私たち視聴者もそうだ。

現実の不条理さ。突然の別れ。本当の「バイバイ」は、きっと前もって予告されているものでも、心の納得の時間もなく、突然訪れるものなのだと、このドラマにあらためて教えてもらった気がした。