絶対に勝てないから、何をやってもいい。ーマイケル・ウォルフ「炎と怒り」ー
大統領選挙結果が出る前の話だ。
「トランプは負けときのスピーチまで用意しはじめていたーー「こんなのは不正だ!」。」
これは、最近の、2020年の大統領選挙ではない、2016年、トランプが勝利した大統領選挙の話だ(結局、トランプは、4年前からやっていることが全く変わっていない・・・・・・)。
トランプは、2016年の大統領選挙で「絶対に勝てるわけがない」と思っていたという。
トランプ陣営のメンバーは皆、選挙に慣れていないスタッフばかりだった。
一方、相手のヒラリー・クリントン側のスタッフは精鋭揃いだ。トランプは頭を抱えたという。
どうせ、負けるのだから、何をしたって問題ない。
そんな空気がトランプ陣営には蔓延していた。
のちに国家安全保障問題担当大統領補佐官となるマイケル・フリンは友人たちからロシア人から45000ドルの講演料を受け取ったりするのは絶対にやめた方がいい、と忠告されていたが、トランプが勝たなければ問題にならないと信じていた。(のちに、フリンは「トランプ政権発足前に当時のロシア大使と対ロ制裁解除を話し合ったと認めた」ことで、ロシアの米大統領選挙介入疑惑がかかる。)
選対本部長を務めたポール・マナフォートは投資詐欺の疑いがかけられていて、トランプの娘婿のジャレッド・クシュナーの父、チャーリー・クシュナーには前科があり、脱税、証人買収、違法献金の罪で服役し、そのビジネスには、ジャレッドも全面的に携わっていた。
トランプ自身は、選挙中、身辺調査や納税記録の公開を拒否した。
「勝つはずもないのに、なぜそんなことをしなくてはならないのか」ということだ。
政権交代にまつわるあれこれを考えることすら嫌がったという。「運が逃げる」と言うのが言い分だったが、本音では時間の無駄だと信じていた。
敗北しても、世界一有名な男として、ビジネスを成功させられる。
つまり、トランプにとっては、「敗北こそが勝利」だったのだ。
「絶対に勝てない」だから「何をしてもいい」。
その論理に達するのに、不自然ななことはなかったのだ。
勝利が確定した瞬間、のちに大統領主席戦略官となるスティーブ・バノンはトランプの顔が七変化するのを観察したという。混乱から呆然とし、恐怖にかられ、そして最後には自身が大統領に相応しい能力の持ち主だと信じるようになったという。
マイケル・ウォルフの「炎と怒りートランプ政権の内幕ー」を読んでいて、ふと、最近、似たようなことがあったな、と思い出す。
愛知県知事のリコール署名から、大規模な不正署名が発見された。
結局、署名は(不正のあるなしに関わらず)リコールの人数には全く達していなかった。
団体も「絶対に勝てるわけがない」と言うのは、早々に気がついたはずだ。
「絶対に勝てない」だから「何をしてもいい」。
その団体の主催者は、トランプのような性格をした金持ちだった・・・・・・。