【短編ホラー?】墓参り
よく遊んでいるグループのリーダー的存在のタツヤが連日「あの墓は出る」「100%出る」「絶対に出る」と便秘サプリのサクラのようにうるさいので、今夜みんな(4人)で行くことになった。
その霊園は学校からチャリで19分くらいのところにあるらしく、「でしたら、学校帰りに寄るのがベターなのでは?」とメガネの吉田が言ったので、全員の部活が終わる21時を集合時間とした。
玉蹴り部の活動を終えて東門に行くと、既に全員揃っていた。帰宅部であるメガネは4時間立って待っていたらしい。謎の忍耐力と体力に敬礼する。
余談も余談だが、竹刀で人間叩き部のケンタロウがものすごく汗臭かった。チャリで走っているとたまにプーンと臭ってくるのだ。竹刀で人間叩き部の人間が10万円くらい出して買うあの鎧みたいなやつの臭いなのだろう。
霊園に着くと、なんの頼りにもならなそうな、出涸らしとしか思えない申し訳程度の明るさの街灯が突然点いた。人を感知するタイプのものだろうか。
入口付近にチャリを駐め、中へ入る。霊園の名前は「どっさり霊園」というらしい。本当に便秘関係なんじゃないか?
「ニャゴ」
突然の声に、俺たちは騒然となった。しかしよく思い出してみると、ただヌッコがお鳴きになられただけだったので、全然怖くねーやと思い直した。
向こうの塀の上で香箱座りをしている。住職の飼っているヌッコだろうか。やたら大きな黒ヌッコで、夜は目だけ光っていてなんだか不気味だ。
そんなことを思っていたところ、ケンタロウが「オデ、ネコ、スキ」と黒ヌッコの方へ歩き出した。
ヌッコの前まで行って、顔を近づけるケンタロウ。
次の瞬間、黒ヌッコは右手をパンパン! と素早くケンタロウの頬に当てると、「シャー」と鳴きながらどこかへ走っていった。
「なんも出ねーな」
タツヤが不満そうに言った。
「ですね。せっかく4時間立ってたんですから、何も見ずに帰るのはイヤなんですけどねぇ⋯⋯」
メガネの吉田が壁の方を向いて言った。
⋯⋯えっ、壁?
「なぁヨッシー、誰に話してんの?」
「壁です」
「壁かぁ」
そっちに見えない誰かがいるのかと思ったわ。
「どうする? もう帰る?」
「タツヤくん、それはボクにただ4時間立っていただけの可哀想なヤツになれということですか?」
「オデ、マダ、カエラナイ」
「俺もまだ帰るつもりはないよ。だいたいタツヤが出る出る言うからみんな仕方なく着いてきたんだからな」
「そんなこと言われてもなぁ⋯⋯」
空気が悪くなり始めた頃に、その車はやってきた。
音が聞こえた方を見てみると、黒いクラウンみたいな車が駐まっているのがかろうじて見えた。
それにしても不思議だ。俺たちはずっとここにいて、あの車はこっちを向いているのに、一度もライトを見ていない。まさか無灯火で走ってきたのか?
俺たちがじっと見ていると、車から人が出てきた。スーツみたいな黒い服を着た50代くらいの男と、その妻と思われる黒いドレス(?)みたいなのを着た人と、俺たちと同年代くらいの学生服の男子とセーラー服の女子だ。家族だろうか。
4人でゆっくりこちらへ向かってくる。父親と思われる男の手には、墓参り用の立派な花が握られていた。
「こんな時間に墓参りかよ⋯⋯」
タツヤがドン引きしているが、仕事の関係とかで夜中にしか来れない人だっているだろ。と俺は思ったよ。わざわざ言わなかったけど。
「ニャゴ」
また黒ヌッコが鳴いたので、ケンタロウがあっちに行ってしまった。どうせまた叩かれるんだからやめた方がいいのに⋯⋯
「あの子どこの高校の子かな。けっこう可愛くね? 俺行っちゃおうかな」
「タツヤお前、両親の前でナンパするつもりかよ」
「マイケルマイケル」
「は?」
「冗談冗談」
「まったく⋯⋯」
マイケルマイケルって絶対変だろ。こいつ、もしかしてバカなんじゃないか?
ていうか、俺たちヤバくないか? 肝試しやってるヤツらって思われるの、なんかカッコ悪くないか?
と思っていたらタツヤがいきなり男に話しかけた。
「こんばんは〜、お墓参りですか〜?」
何やってんだコイツ知らん人に声かけるなよ! と思ったが、俺のそういう考えが人と人との関係を希薄にし、距離を生んでしまうのかもしれないと思って少し落ち込んだ。俺はなんてダメなやつなんだ。もっとフィーリングで生きなきゃ⋯⋯
「おいおっさん無視してんじゃねーぞ!」
タツヤが怒っている。知らん人におっさんてお前⋯⋯
「おい!」
タツヤのことが見えていないかのように、当たり前のように歩を進める男。
もしかして、この墓に出る幽霊ってタツヤのことなんじゃないか? 実はタツヤは俺たちにだけ見えてる幽霊なんじゃないか?
「無視すんなつってんだろうが!」ボカッ
⋯⋯ボカッ?
地面に男が倒れている。
「ちっ⋯⋯何回も無視するから⋯⋯俺は悪くねぇぞ⋯⋯」
舌打ちするタツヤ。
起き上がらない男。
男以外の家族は何事もなかったかのように、そのまま歩いていった。
「いやヤバいだろ。俺のこと通報しろし」
ていうかこれって⋯⋯
「なぁタツヤ⋯⋯」
「なんだよペプシ彦」
「この人たち、幽霊なんじゃないか?」
「でも今俺、殴ったぞ」
「殴れる幽霊だったとか」
「殴れる幽霊( ˙-˙ )」
あ、タツヤが簡単な顔に⋯⋯けっこうテンパってるんだな。
「人殴っちまったし、幽霊のほうが嬉しいな( ˙-˙ )」
「まあ、そうだよな⋯⋯」
残りの3人は花なしで墓参りをして、また車の方へ戻って行った。確か運転席から降りてきたのお父さんだった気がするんだが⋯⋯? あなたたちどうやって帰るの?
「どうする? タツヤ」
「どうするってお前、どうするんだろ( ˙-˙ )どうすればいいんだ? もう俺分からん」
「まぁ⋯⋯うん、このまま帰ろう」
「この人ここに置きっぱで?( ˙-˙ )」
「ああ、どうせ幽霊なんだろ」
「ボク4時間立ってただけの人になってません?」
「でももし幽霊じゃなかったら俺死体遺棄とか救護義務を怠ったとかいろいろ言われない?( ˙-˙ )」
「言われるかも」
どうすればいいんだろ⋯⋯
考えていると突然、塀の向こうから車が突っ込んできて、タツヤを下敷きにした。さっきの家族の車だ。
「げぼふっ!」
漫画みたいな声を上げるタツヤ。どうにか助けないと!
「ペプシ彦⋯⋯助けてくれ⋯⋯」
「分かってる! もちろん助⋯⋯⋯⋯ん?」
「⋯⋯なんだ、どうした⋯⋯? 無理なら誰か大人を⋯⋯」
タツヤを助け⋯⋯⋯⋯
んん?
( ゜д゜)ハッ!
はやく家帰ってドザえもんのお盆スペシャル見ないと!!!!!!!!!
εε=(((((ノ・ω・)ノ