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七宝小学校七不思議!

 学校七不思議というものをご存知だろうか。どこの学校にもだいたいこの噂があるのだが、私が校長を務めているこの七宝しっぽ小学校にも、七不思議の噂がある。
 狂った生徒と狂った教師、狂った怪異による狂った七不思議のお話を存分にお楽しみいただければ幸いである。

一不思議目 家庭科室の怪

 今日の1時間目と2時間目は4年1組の調理実習である。この時間で作るメニューはオムライス、オレンジゼリー、マンゴーラッシーの3品だ。

「それでは、さっき決めた班ごとに分かれてください」

 指示を出しているのはこの学校の家庭科教師である柴崎しばさき かにだ。彼女は教師歴31年のベテランであり、この七宝小学校に11年勤めている。

「手元のプリントを見ながらみんなで協力して作りましょう! 黒板にも調理のポイントを書いていきますので、確認しながら進めてください。分からないことはどんどん聞いてくださいね!」

 柴崎の話を聞き、具材を切り始める児童たち。作るメニューは決まっているものの、オムライスの具に関しては各自持ち寄ったものを入れてもよいということになっていた。

「先生ー! コウジくんが持ってきた具が氷だけなんですけどー!」

 コウジくんの前のまな板には、小指の先ほどの大きさの氷があった。玉ねぎほどの大きさのものを持ってきたらしいが、ほとんど溶けてしまったようだ。

「今日は具材自由ですからね、氷も入れていいですよ」

 柴崎の児童との接し方のポイントは、基本的に優しく接することだ。よほど悪いことをしない限り怒らない。これはこの学校の他の教師には出来ていないことだ。

 コウジくんの氷に対してミツヒロくんが不満をこぼしているが、これも特段悪いことでもない。当然氷は害のない食品であるし、具材にした時に少し塩分を薄めることが出来る。むしろ健康的なのだ。

「せんせー! ユウくんがカマンベールチーズを持ってきました! マジ最高ー!」

「いいですねぇ」

 ユウくんの班の子たちは幸せ者である。チーズとは神の食材、罪の味だ。それがオムライスに入った日には⋯⋯ジュルリ。

「先生、なぜ先生は蟹という名前なんですか」

 クラスで成績が断トツの河里辺がりべ くんが質問した。彼はガリ勉くんというあだ名で呼ばれており、1日に40時間勉強している超努力家な優等生である。

「河里辺くん、いい質問です。私の両親は私の名前を考える時に『より愛せるような名前をつける』と決めたらしく、両親2人ともが好きだった『蟹』が採用されました」

 柴崎は生まれてから53年間、両親からとても多くの愛情を注がれて育ってきた。今でも3人でお風呂に入るし、川の字で寝ている。

「せんせー! なんでガリ勉くんだけ苗字で呼ぶんですかー!」

 クニオくんが不思議そうに柴崎に聞いている。

「河里辺くんだけじゃありませんよ。分かりにくいから苗字で呼んでいるだけです」

 このクラスには、下の名前が彼と被っている外里辺げりべ くんがいるのだ。紛らわしいので苗字で呼んでいるだけで、他意はない。

「やーいやーいババー! ババアー! 悔しかったらオレの尻を叩いてみろ〜」

 どのクラスにも1人はいるクソガキ代表の苦詛くそ 牙㐂がきくんも、柴崎からすると今まで何人も見てきたヤンチャな子どもの1人に過ぎない。ベテランなので当然クソガキの扱い方も心得ているのだ。

「うるせぇクソガキ! 死ね!」

 そう言いながら牙㐂くんの股目掛けてゴルフクラブをフルスイングする柴崎。ゴルフクラブは見事股間に命中し、牙㐂くんのキンタマはちょうど空いていた東側の窓から飛び出していった。

 余談だが、このキンタマがちょうど野球の授業でレフトを守備していたヨシオくんのグローブに着地し、そのせいでボールが取れずヨシオくんのチームは負けたという。

 そしてこの日より、6年生全員によるヨシオくんいじめが始まったそうだ。いじめはいけないことなので、校長の考案した毒内科検診作戦によりヨシオくん以外の6年生は死亡した。

 キンタマを失った牙㐂がきくんは牙姫がきちゃんとして調理実習を続行した。皆の頑張りのおかげか、2時間目が始まった頃に全てのメニューが完成した。

「さあいただきましょう! 今日はスプーンだけで食べられるものばかりなので、箸は無しでいきましょう! 各机にある引き出しからスプーンを出してください!」

 いよいよ実食だ。柴崎の机には各班の作った料理が少しずつ集まっていた。柴崎はこれをレインボーメニューと呼んでいる。

「きゃああ!」

 1人の児童が悲鳴をあげた。

「うわあっ!」

 また1人。いったい何が起こっているのだろうか。

「先生、ハズレのスプーンしかありません!」

「こっちの机も!」

 どうやら全ての班のスプーンがスープをすくう用の小さくて丸っこくて深いスプーンだったようだ。本来ならこの教室の机には、カレーライスなどによく使われるタイプの大きめのスプーンが入っているはずである。

「ゆ、幽霊の仕業ですか⋯⋯?」

 3班のおか 瑠斗るとくんが震えた声で言った。

「まあまあ落ち着いて、幽霊なんていませんよ!」

 柴崎が児童たちをなだめる。

「うわあああああ! お化けだあぁぁぁ!」

「いやぁあああ! ぎぃやああああ!」

 皆パニックになってしまった。叫び声を聞いて駆けつけた教頭が警察を呼び、スプーンの指紋採取が行われた。

「ええ、度々こういうことがありまして⋯⋯学校の七不思議なんて噂が広まってましてね、そろそろ犯人を捕まえないとと思った次第です」

 教頭が警察に事情を説明している。この家庭科室で起こったおかしな現象は今回が初めてではないのだ。11年ほど前から常習的に起きており、児童の中には『魔の家庭科室』と呼ぶ者もいるのだとか。

 スプーンから柴崎の指紋が見つかり、彼女は逮捕されることとなった。それから裁判にかけられ、2年後に判決が出て終身刑となった。この学校の七不思議が一つ減ってしまったのであった。

二不思議目 トイレの怪

 オレは5年3組31番、目辺めべ 郎一ろういちだ! 今日は近頃噂になってる七不思議について調べていこうと思うぜ! つってもこの前1つなくなったから今は六不思議なんだけどな! はは!

 今回オレが調査するのは北校舎3階の男子トイレだ。まぁベタな話なんだが、個室に入ってうんこをしていると誰かの声が聞こえてくるらしいんだ。でもオレは幽霊なんて1ミリも怖くないから、実際に行って確認してみるよ。

 現在15時04分。授業が終わったばかりなので、まだ生徒もたくさんいるし、クラブ活動がある生徒もいる。幽霊の噂なんだし、できるだけ暗くなってから実行したいな。

 そう思ったオレはしばらく散歩することにした。裏にある遊具でみんなと遊べれば時間つぶしとしては1番良いんだけど、あいにくオレには友達が1人もいないんだ。なんか分かんないけど誰も近づいてこないんだよな。先生も誰1人近づいてくれない。

 まぁいいのよ、それは。ひとりっ子だからひとり遊びにも慣れてるし、寂しいと思ったことはないよ。ただ、友達と遊んだほうが時間が流れるのが早いのかなって思って⋯⋯

 さてコンビニに着いた! 小学生の楽しみといったら買い食いだよな! カレーパンと⋯⋯たまごサンドだな! だいたい小学生はパンしか食べねぇのよ。

 レジにカレーパンとたまごサンドを置いて、店員に拳銃を向ける。こうするとタダで買えるんだぜ。すげぇ大発見だろ。

 オレはカレーパンとたまごサンドをそれぞれ左右の脇に挟み、学校へ向かった。

 下駄箱に一礼し、上靴を履き階段を上る。やっと3階に着いたと思ったその時、どこからか走ってきた男子生徒がオレにぶつかった。オレは階段を転げ落ち、全身を強く打った。

「な、なにすんだよ⋯⋯!」

 声を出すのもやっとだ。頭から血が出ているし、肘から骨が飛び出しているし、膝が変な方向に曲がっている。

「それどころじゃないよ! 出たんだよ!」

 むむっ、出たっていうのはもしや⋯⋯!

「そこのトイレでうんこして個室を出たら、外国人が10人くらいいたから壁沿いに横歩きして出てきたんだよ! めっちゃ写真撮ってたから多分観光客だよあいつら! 観光客の幽霊だぁ!」

 七不思議の噂は本当だったのか。オレは頭から出た血と肘から出た骨をしまい、膝を戻しトイレへ走った。

 幽霊は怖くないが、興味はある。だって、楽しいじゃないか! ロマンじゃないか!

 特にうんこがしたい訳でもなかったが、幽霊をおびき寄せるためにオレは腹に全力を込めた。

 にゅぽん

 すこーしだけ出た。大豆1個分くらい。これ以上ふんばってもおそらく何も出ないだろう。オレは個室を出た。するとそこには、小さな体の男子生徒がいた。1年生の子だろうか。

「そんなところに突っ立ってなにしてるの?」

「⋯⋯⋯⋯」

 その子は何も答えない。

「もしかして迷子か? 普段行かない校舎に来て迷ったのか?」

「⋯⋯⋯⋯」

 仕方がないのでオレはこの子を職員室に連れて行くことにした。もう日が暮れそうだが、先生たちは翌日の朝4時頃まで学校いるらしいから大丈夫だろう。

「そうそう、オレの母さんがさぁ〜、幽霊がいるとか言って家中に発砲するから大変なんだよ〜」

「⋯⋯⋯⋯」

 長年友達がいなかったオレにとって、この時間はとても幸せな時間だった。言葉は返してくれないが、オレの後を歩いてついて来てくれている。嫌ではないということだ。前にも1回だけこういうことがあったなぁ。

「この前空見たらオレが浮かんでてさぁ〜って、あれ? おい⋯⋯」

 後ろを向いて確認すると、あの子はいなくなっていた。いつの間に⋯⋯やっぱりオレの話を聞くのが嫌だったのだろうか。そう思った時だった。

 ぐるるるるるる ぎゅるるるるるるる

 激しい便意がオレを襲った。やばい、来た道を戻るとなると1分はかかる! 耐えられるか、オレの肛門! 肛門括約かつやく筋!

 オレは少し漏らしながらやっとの思いでトイレにたどり着いた。個室の方を見ると、扉が閉まっている。もしや――と悪い考えが頭をよぎる。いいやそんなことはない! そんなことがあったらオレの尻がもたない!

 個室の前まで行き扉を見ると、本来なら青でなければならないはずのところが、赤になっていた。鍵が閉まっているのだ。

「うう⋯⋯うぅあああ!」ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶり!!!!!

 絶望したオレはうんこを漏らしながら泣き崩れてしまった。

 ぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶりぶり!!!!!

 うんこの勢いは落ちることなく、その音はトイレ中に鳴り響いていた。

 パチパチパチパチ⋯⋯

 パチパチ⋯⋯パチパチ⋯⋯

 どこからか音が聞こえる。

「ブラボーッ!」

 入口の方を見ると、マッチョの外国人が笑顔で拍手をしながらこちらへ歩いて来ていた。2人や3人どころではなく、次々と入ってくる。

「HAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 パチパチパチパチ パチパチパチパチ

「Hahahahahahahahahaha!!」

 あっという間にオレは数十人のマッチョに囲まれ、頭が真っ白になっていた。だめだ、考えるんだ⋯⋯! パニックになってはいけない! オレは必死に目を瞑って考えた。

「HAHAHAブラボーHAHAHA」

 うるせぇなこいつら。

「Congratulations!!」

 パチパチパチパチ パチパチパチパチ

 そういえばさっきのやつは観光客の幽霊が10人くらいいたって言ってたよな⋯⋯? でもこいつらを言い表すなら100人中100人がマッチョ集団と言うはずだ。しかも10人どころか30人はいる。どういうことだ⋯⋯

 ハッ! 分かったぞ! うんこの音の大きさに比例して出てくる幽霊のレベルが変わるんだ! さっきオレが『にゅぽん』ってしたうんこに対応していたのがあの子だったわけか! くそ! こんなことが分かったところでどうなるってんだ!

 コツコツコツコツ⋯⋯

 マッチョたちの後ろから誰かがゆっくりと歩いてくる。誰だ⋯⋯?

「やあ目辺めべくん、ごきげんよう」

 こ、こいつは⋯⋯! オレが唯一小学生生活で喋ったことのある同級生、青田あおた 源五郎げんごろうだ! なんでこいつが⋯⋯!

「大丈夫かい」

 なんだ、助けてくれるのか? そうか、こいつにはマッチョの幽霊たちが見えていないのか! オレのことしか見えていないからこんなに冷静なのか!

「なんてね」

 ⋯⋯え? なんでそんなことするの?

「キミのうんこ、めちゃくちゃ臭いね。体悪そう」

 体悪そう⋯⋯? え、それはちょっと言い過ぎなのでは? めちゃくちゃ臭いって、マジ? オレのうんこってそんなに臭いの? 超ショック⋯⋯

 青田はそれだけ言うと、マッチョ集団とともに闇へ消えていった。おそらく彼もこのトイレが見せた幻の一部なのだろう。

 その日から目辺は食生活に気をつけ、買い食いをすることもなくなったそうだ。あれからも毎日のように幽霊は目撃されたという。

三不思議目 プールの怪

「この五目ごはん、食パンの味するンゴw」

 そう叫んだのは5年2組の被呪のろわれ 輝夫てるおだ。給食に出た五目ごはんをひと口食べてこの言葉を発したのだ。

「は?」

 金髪ギャルの田比丘たぴおか 美久みくが不思議そうな顔をして言った。この子は先生のお気に入りなので金髪でも怒られないらしい。

「食べてみてクレメンス! ズズ⋯⋯あっ! 味噌汁も食パンの味ぃいい!」

「は?」

 もはや呆れて「は?」以外の言葉が出なくなったようだ。そう言いながらも美久は言われた通り五目ごはんを口へ運んだ。まあ給食なので言われなくても食べるのだが。順番の問題よ。2ちゃんねらーが私の食べる順番を決めるなんぞ100年早ぇわ、といったところだろう。

「普通の五目ごはんじゃねーか。あと、次変な喋り方したら殺すからな」

「分かったンゴwww」

 というわけで、本人の合意により輝夫は殺されることとなった。美久は着替えるため、更衣室へ向かった。

「それにしても、牛乳も食パンの味なんやが⋯⋯」

 これがクラスの皆が聞いた輝夫の最後の言葉だった。

「先生、0組の鍵ください」

「また殺すのか」

「いかにも」

 この学校には各学年ごとに拷問部屋が用意されており、生徒同士の拷問が許可されている。しかし美久にとっては拷問部屋とは名ばかりで、実質殺人部屋である。

 美久は5年0組の教室へ輝夫を連れて入っていった。

「う、うぎゃぁぁぁぁああああ、ああんっ」

 輝夫の断末魔が世界中に響き渡った。教室から出てきた美久の後ろを、真っ白なマネキンが歩いている。このマネキンには1%の輝夫の魂と、99%のきよい魂が入っている。

「さて、貴重なランチタイムを2分も無駄にしちゃったわ。早く食べましょ」

「はい、かしこまりました」

 何事も無かったかのように席に座る2人。今日のメインのおかずは輝夫の大好物のハマグリだ。他のものは食パンの味しかしなかったので、ハマグリに全てを賭けるとのことだ。

「パクリ⋯⋯これも食パンの味がします。非常に残念です」

 やはりハマグリも食パンの味のようだ。

「もしかしてあんた、夜にプール行った?」

 美久が輝夫にたずねた。

「ええ、昨日の夜行きましたけど」

「やっぱりそうなのね。夜にプールの水を50リットル以上飲むと、何を食べても食パンの味しかしなくなるのよ。そして、その呪いはもう解けない」

 そう、昨日の夜輝夫はプールに忍び込み、約1410リットルの水を飲んだのだ。ずっと食パンの味しかしなかったのは、夜のプールにて暴飲をはたらいた罰を受けていたからなのだ。

「なぁんだ」

 輝夫は安心したように呟いた。

「理由が分からないと不安になりますが、昨日の晩酌が原因だと分かって安心しました」

 それから2日が経った。今日もまた、美久と輝夫は同じ班で給食を食べている。

「やっぱ食パンの味しかしないンゴwww呪われてるおw」

 そう言う輝夫にマネキンの面影は1ミリもなく、99%の清い魂を取り込んだ100%の輝夫になっていた。

四不思議目 音楽室の怪

 我が校の音楽室には奇妙な噂がある。そこのピアノであるフレーズを弾くと、神様が現れるというのだ。現れた神様は特に願いを叶えてくれる訳でもなく、普通に5分くらい世間話をして帰って行くそうだ。

 この学校では他にもいろんな怪奇現象が起きており、面白おかしく七不思議などと呼ばれている。
 私はこの学校の教頭として、こんな不気味な噂が流れているのが我慢出来ない。学校は子ども達がのびのびと遊び、ガリガリと勉強し、すくすくと育っていく場所だ。それを邪魔する怪異なんて存在していていいはずがない。

 そこで私はついに動き出した。七不思議を無くしてしまおうと思ったのだ。今回はその中でも1番話が通じそうな相手を選んだ。怖いからとかじゃなくて、肩慣らしにちょうどいいかと思ってね。

 生徒が全員帰った後、私は音楽室へ向かった。不安はない。神様というくらいだからさぞ優しいのだろう。むしろ楽しみだ。

 音楽室に入ると、異様なほどの肌寒さを感じた。やはり歌には情熱がこもっているから、部屋を冷やさないと熱中症になってしまうのだろう。

 私は部屋の真ん中に佇むピアノに目をやった。何の変哲もないごく普通のピアノだ。私はピアノの椅子に腰を下ろし、鍵盤に手を置いた。

「ヨモジ〜さま、出てきてくれ〜♪」

 ドレミ〜レド ドレミレドレ〜♪のメロディを弾きながら呪文を唱える。チャルメラだ。

『よんだか』

 ピアノからまん丸のお爺さんが出てきた。コイツが例の七不思議の神様『ヨモジ様』で間違いないだろう。
 ヨモジ様を呼んだものは5分間世間話をしなくてはならない。世間話からどんどん踏み込んでいって、なぜこの部屋に出てくるようになったのか聞いてみよう。

「はい、呼ばせていただきました。実はわたくしずっとヨモジ様とお話させていただきたいと思っておりまして」

『はいはい』

「適当に話題を持ってきましたので、今日はどうかよろしくお願い致します」

『はよはよ』

 急かされた。神様ってもっと余裕のある生き物だと思ってたのに。生き物⋯⋯?

 1つ目の話は校長の話だ。この七宝小学校の七宝校長は猫みたいな見た目で可愛いのだが、人使いが荒く、思想が怖いのだ。私含め全員午前4時まで残業させられて朝は7時から出勤だし、生徒が悪いことをすると酷い時は命を奪うこともある。

『はよはよ』

 しかし、いい所ももちろんある。たまに褒めてくれるのだ。馬車馬のように働かされた我々を気遣い、1ヶ月に1回のど飴と共にお褒めの言葉をいただけるのだ。それが今日だった。

「今日校長が私の耳たぶを褒めてくれたんですよ! ちっちゃくてお金貯まらなそうだねって!」

『よかたな』

 反応薄いなぁ。

「うち、猫飼ってるんですよ。ヨモジ様は猫好きですか?」

『かわいい』

 好きなんだな。

「そういえばこの間メロンパン買って、家に帰って開けてみたら誰かにひと口かじられてたんですよ!」

『ねこにか』

 コイツ4文字しか喋らねぇのか? だからヨモジ様って名前なのか? そろそろ本題に行ってみるか。

「あなたはなぜここに現れるのですか?」

『寂しいから』

 あれ、4文字じゃない。

「生徒が不安になってしまうので、もう出てこないでいただけますか?」

『やだ、ワシ寂しいもん』

 寂しいからって出てくんなよな。お前らのせいでこの学校は心霊スポット扱いされてるんだぞ。

「寂しいとか知らんから、もう2度と出てくるな!」

『ならお前が来い! そうすれば寂しくないいいいいいいい』

 そう言うとヨモジ様は私の腕を掴み、ピアノに引きずり込もうとした。しかし、私は見ての通りゴリマッチョだ。ジジイに引っ張られて動くような体ではないわ。

「ヨモジ、うぬの力はその程度か!」

『なに! なんじゃお前のその筋肉は! 引っ張っても無駄だというのか、ならば、この腕だけでもちぎって持ち帰ってやろう!』

 なんでこんな怖いやつが神様って呼ばれてるんだ。ヨモジ様は全力で腕を引きちぎろうとしている。だけどおいら負けないよ。

「ぬうん!」

『バ⋯⋯バカな!』

「ねやあ!」

『なに! 片腕でワシを持ち上げるだと!?』

「ハハハハ〜! 教頭の肉体は砕けぬ 折れぬ! 朽ちぬ!」

 私は愛をとりもどせを歌いながらそのままヨモジ様を腕につけて職員室に連れ帰り、彼に音楽教師になってもらうと皆に宣言した。

 校長の許可も貰い、今ではヨモジ様は地々井じじい先生として働いている。ちなみに元々音楽担当だった三島先生はクビになった。

五不思議目 おっぱいの怪

 今日は月曜日。全校集会の日だ。いつものように校長の長話が始まる。校長の話は面白いので生徒には大人気だ。

 話は終盤に差し掛かり、大変盛り上がっている。ほぼ終わりまで来ているのにまだ犯人が分からない。最後までドキドキ出来るお話だ。

 夢中で話していた校長がふと生徒の方を見ると、誰1人彼の話を聞いていなかった。1人残らず上を向き、口を大きく開けている。

「おーいみんな話聞けよ〜⋯⋯あっ! そういえば今年だったか!」

 校長は何かに気が付いたようだ。

「くそ、手遅れか⋯⋯! まあいい! さらばぁ〜!」

 校長は話をやめ、校長室へ走っていった。その後、体育館には1分ほどの静寂が訪れた。

 ぽつ ぽつ ぽつ ぽつ

 天井から白い雨のようなものが降ってきた。生徒たちは大きく開けた口でそれを受け止めている。

 やがて天井に無数のおっぱいが現れ、生徒たちに降り注いだ。生徒たちは我先にとおっぱいをキャッチし、むしゃぶりついた。

 パァン!

 大きな音が鳴った。

 パァン! パァン!

 体育館中に鳴り響くこの音は、おっぱいを飲んだ生徒が内側から破裂した音だ。実に566人の生徒が破裂し、やがて体育館はピンク色の海と化した。そこには566個のおっぱいがぷかぷかと浮かんでいた。

「予定が早まったけど、まあいいだろう! 作戦開始だ!」

 校長は校舎の爆破ボタンを押した。

六不思議目 廃校のパイ

 この瓦礫の山と化した廃校の元校長『七宝』は、あるビジネスを始めようとしていた。彼の計画は校長に就任した当時から始まっており、それから学校が無くなるまではただの準備期間に過ぎなかった。

 彼は校長室の真下に温泉が眠っていることを知っていた。独自に調査した結果だ。

 彼は学校を取り壊し、ここを温泉地にすることを考えた。しかし、ただの温泉では儲からない。そこで彼は考えた。その結果、良い効力のある温泉にしようということになった。

 さていつから始めようか、と彼は悩んだ。悩んだ末に、8年に1度発生する『おっぱい豪雨』の日に学校を爆破して壊すという結論に至った。

 そして先週、彼が校長に就任して5年。ついにおっぱい豪雨が発生したのだ。その日のうちに学校を爆破した七宝は、温泉地計画に向けていろんな業者と話し合いをしている。

 七宝小学校跡地には、たくさんの肝試し小僧が訪れる。先週556人が亡くなった廃校だ、出るに違いない、と思った全国の小僧がこぞって駆けつけたのだ。

 普通なら遺体の捜索などで数週間にわたり立ち入り禁止されるはずだが、ここの生徒は全員体育館で亡くなっていたため捜索する必要がなく、立ち入り禁止にもなっていなかったのだ。

「お前が1番な!」

「ひぃ、僕こわいよぅ」

「ガタガタ抜かすな! 早く行ってこい!」

 黄色い服にまん丸メガネの小僧が、オレンジ色の服のガキ大将らしき大小僧にいじめられている。
 彼らもここへ肝試しに来たようだ。まあ肝試しと言っても、ただの瓦礫の山なのでどこにいてもお互い見えるのだが。

 ぐにゅ

 小僧がなにか柔らかい物を踏んだ。

「暗くてよく見えないよぉ〜! でもいつものように犬のフンを踏んだんだろうなぁ〜!」

 そう言った瞬間、ドカン! という音を立てて足もとの地面が爆発した。そう、彼が踏んだものはおっぱいだったのだ。

「のび太ぁー!!」

 ガキ大将が叫んだ頃にはすでに彼の姿はなくなっていた。いや、彼の姿はある。ただ、彼だったものという表現になるだろう⋯⋯いわゆる元カレだ。

「のび太の仇ー!」

 そう言って瓦礫の山に突っ込んで行くガキ大将。当然ドカンだ。今週だけで肝試死者690人。先日のおっぱい豪雨と合わせると実に1246人だ。

「ふふふふふふふ」

 斜向かいのコンビニから出てきた猫のような見た目の生き物が笑っている。この学校の元校長だ。

「いっぱい死んでくれたねぇ。そろそろ始めるかねぇ」

七不思議目 子宝の湯

「いらっしゃいませー!」

 元気な女性の声が館内に響き渡る。彼女のような女性は接客業にピッタリだ。

「どうぞこちらです」

 立ち上がり、客を案内する女性。ここは温泉旅館『子宝温泉七宝屋』だ。その名の通りここには子宝の湯があり、その湯に浸かった者は必ず子どもを授かると評判になっている。

「ふぅ〜、いいお湯!」

 この女性はなかなか子どもが出来ず悩んでいたところ、ちょうどこの温泉がオープンしたので来てみたという。オープンしてまだ3週間なのになぜか妊娠したという報告が多数寄せられており、詐欺ではないかと疑ったのだが、ホームページに『授からなければ全額返金致します』と書かれていたので来てみたのだ。

 ちなみにここの料金は1泊で260万円だ。とんでもない額だが、妊娠しなければ返金してくれるので彼女のように試しに来たという客が多い。

「いらっしゃいませー! おめでとうございます! お客様、ちょうど1246人目でございます!」

「え、ちょうどって何ですか?」

「理由は分かりませんが、支配人が先着1246人限定で営業を始めたんです。ということで、お客様が帰られたら当店は閉館となります」

 その後女将は女性を温泉へ案内した。

「ふぅ〜、良いお湯〜」

 ぬるめのお湯でゆっくりと温まる女性。自分がここの最後の客になるとは思いもよらなかったことだろう。

「う⋯⋯うわあ!」

 女性は突然立ち上がった。

「なにかが私の中に入ってきた⋯⋯どういうこと? もしかしてこれが温泉の効能⋯⋯?」


 この温泉に訪れた1246人の客は、全員子宝に恵まれたそうだ。

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