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《物語》心霊さんいらっしゃい!
心霊(しんれい)は「神霊」とも書き、サブカルチャーの世界では、超常現象あるいは超能力の意味として用いられる。もとは「精神」の意味で使われていた。
2024年07月28日(日)
PM 10:15
猫渕氏の日記。
『本日午後四時過ぎ、家族が北海道へと旅立った。姉の発案計画による家族旅行である。しかし、家族の大切な一員であるはずの私は宮城の自宅に留まっている。飼い猫と一緒にパリ五輪のテレビ中継を寂しく観戦している。なぜならば、「あなたはミーちゃんのお世話で留守番」という姉の無慈悲な命令により、私は家族旅行からハブられてしまったのだ……畜生め』
PM 10:36
姉弟のLINEトーク。
猫渕氏『俺とミーちゃんは良い子にお留守番中です』
姉『そうですか』
猫渕氏『お土産をよろしくおねがいします』
姉『嫌です』
PM 11:04
ミーちゃんの面倒を見るため二階にある自室ではなく一階のリビングで過ごしていた猫渕氏、天井から「ドンドンッ!」と鈍い音がひびいてきて眉をひそめる。床板を二度踏みつけたような重たい音だった。
物音の原因を調査するため、二階に行き、リビングの天井上にある姉の部屋の様子をうかがう。しかし、何かが落ちたり倒れたりしたというような痕跡は確認できなかった。気の所為ということにして一階へ戻る。
2024年07月29日(月)
PM 07:03
バイトから帰宅した猫渕氏、外出時には点いていなかったはずの外玄関の照明が煌々と光を放っているのを発見して驚き、反射的にSNSのXアカウントに状況をPOSTする。以下、実際の投稿文。
家に帰ってきたら外玄関の照明が勝手に付いてた。家族はみんな北海道旅行中で、家には自分以外に誰も居ないのに……((((;゚Д゚))))ガクブルフ
— 猫渕珠子 (@NekobuchiTamako) July 29, 2024
夜中の物音に続き、不可解な照明の点灯事案が発生し、目には見えない良からぬ存在が家の中に出現してしまったのではないかと、人知れず恐怖する。
PM 07:34
猫渕氏、飼いネコを幽霊センサー代わりにして家の各部屋をチェックして回る。「人間には見えないものが見えたら鳴くように」と指示するも、抱っこを嫌がるネコ氏が始終鳴きっぱなしのため、作戦失敗。
PM 08:07
家族旅行のはずなのに飼いネコの世話のためひとりだけ家に置き去りにされた可哀想な猫渕氏、恐怖心を紛らわそうと『北海道から生き霊飛ばして玄関の電気点けた?』と姉にLINEを送るも、既読スルーされる。
PM 08:49
あれこれとあまり考えないように、リビングでオリンピック中継を眺めてくつろいでいた猫渕氏、給湯モニターが突然お湯はりを開始したため、わりと本気でビビる。いよいよ怖くなって家を飛び出し、とりあえず近場のコンビニへと向かう。
PM 09:23
放置してきてしまったミーちゃんの様子が気になり、煙草を買って家に戻って来た猫渕氏、玄関の外灯がまたひとりでに点いていて憂鬱になる。 給湯モニターは湯張り完了の表示。浴室には普通にお湯が溜まってる。ミーちゃんは和室で何事もなく寝ていた。他に異常はなく、ひとまず五輪中継の視聴に戻る。
PM 10:17
給湯モニターから『浴槽の栓が抜けています』と警告音声。浴室に向かうと、湯船が空っぽになっていて、「はぁ!?」とキレる猫渕氏。
『なんか家がヤバい。幽霊から水道メーター回しの嫌がらせをされてるっぽい!』と、北海道旅行中の姉にLINEを送るも、既読スルー。
PM 11:30
トイレに立った猫渕氏、二階からの人の声に気づく。
階段を上り、自室のドアを開けて、ゾッとする。
『コンポがひとりでに起動していて『水曜どうでしょう!』の曲を再生してたんだけど……』と、美瑛のペンションで悠々羽を伸ばしているであろう姉にLINEを送るも、既読スルー。
2024年07月30日(火)
AM 01:15
台所の床でコップが割れているのを発見した猫渕氏、その破片から並々ならぬ怒りの念が迸っているように感じられて震える。
AM 03:10
猫渕氏、『体操男子団体、金メダル!』と、ぐっすり眠っているであろう姉のLINEに超速報を送り付けるも、ついに未読。
PM 02:55
バイト先で休憩時間中の猫渕氏、既読未読スルーされ続けていたLINEに、ラベンダー畑や青い池などの旅先写真が大量投下されていることに気づいてしまう。
PM 06:21
帰宅した猫渕氏、僅かな異臭が廊下に漂っているのを感じ取り、臭いを辿っていくと、今朝ゴミ置き場に持っていったはずの『燃やせるゴミ(3袋分)』が、姉の部屋に出現しているという怪奇な光景を目の当たりにする。もはや気の所為では済まされない心霊現象にただただ驚愕。
手で触れて移動させるのが怖かったので、パンパンに膨らんだ生ゴミ入りのその3つのゴミ袋は、そのまま室内に放置することに。
PM 07:38
姑息な嫌がらせをしてくる幽霊とホームアローン状態で健気に闘っている猫渕氏のもとへ、息子を置いてけぼりにして北海道旅行を満喫中の母親から『深夜にオリンピックのメダル速報は要りません。お姉ちゃんが呆れていました』というLINEが届く。
PM 08:22
風呂掃除を終えた猫渕氏、ついさっきまで閉まっていたはずの両親の寝室ドアが開いていることに気づく。部屋を覗くと、古新聞や広告が、床が見えなくなるほど派手に撒き散らかされていて、縮み上がる。「一体何がしたいんだ。目的はなんだ!?」と幽霊に訴えかけてみるが反応無し。
PM 09:01
喉が渇いた猫渕氏、冷蔵庫の扉に『ONちやんのキーホルダー』と読み取れる謎めいた切り抜き文字が米粒で貼りつけられているのを見つけてギョッとする。意味がよくわからないけれど幽霊からと思しきメッセージがあった!、と、その心霊現象を収めた証拠写真とともに家族LINEに送信。
![](https://assets.st-note.com/img/1722527900367-i1T9sAlNtk.jpg?width=1200)
PM 10:40
『わかったうざいやめろ』(原文ママ)
と、姉から呪文のようなLINEを入電。
PM 11:11
いつまでも幽霊にやられっぱなしではいけない!
と、突如としてヤル気を出し、攻勢に転じることにした猫渕氏、除霊に効果があるとオカルト界隈で囁かれているファブリーズを手に各部屋を清めて回る。とりわけ、飼いネコのミーちゃんが「ここはなんだかニオウにゃ…」とでもいうように異様に鳴いて反応を示していた姉の部屋を換気したうえで入念にファブる。
PM 11:53
猫渕氏のメモ。
『ファブリーズ除霊後、家の中にどんより渦巻いていた怪しげな空気が嘘みたいに払拭された。重苦しかった肩がスッと軽くなったようにも感じる。今宵はもう心霊現象が起きることは無いだろう。パリ五輪中継を心置きなく楽しもう! かゆい うま』
2024年07月31日(水)
PM 08:03
姉弟LINEのやりとり。
姉『午前二時 帰宅予定』
猫渕氏『オーイェーアハン』
姉『ああ?』
猫渕氏『はん、あはーん、いぇーいぇー♪』
2024年08月01日(木)
AM 01:35
心霊現象騒ぎもすっかり落ち着き、猫渕氏が今か今かと待ちわびる中、予定より半時間ほど早く、家族が帰宅。
AM 01:53
「ほら、これ」
と、荷物整理をしていた姉から、断られていたはずのお土産の小袋を受け取る猫渕氏。一筋縄ではいかない嫌味な性格をしている姉に、いったいどんな心境の変化があったのだろうか、と内心ほくほくとしながら不思議がる。
AM 01:56
猫渕氏、勝者の足取りで二階の自室へ向かう。
AM 01:59
ち゛く゛し゛ょ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛
![](https://assets.st-note.com/img/1722529640353-Z27bW8XYd1.jpg?width=1200)
(完)
※この物語は、リアルタイムで起きていた出来事を即興で脚色しながらXにPOSTしていた文章を加筆修正してまとめたもので、フィクションです。しかしながら、お土産が熊の木彫りキーホルダーだったことは事実である……。