マーメイドがいる家
以前、芦屋の高級住宅地である六麓荘町を探索したことがある。当時芦屋浜に住んでいた弟夫婦のつてで、家族5人車に乗り込み見物に出かけた。旅の恥はかき捨てである。
芦屋は海から山へ向かうに連れ、高級具合が増してくる。だんだんすれ違う車が、どこの会社かも分からない外車ばかりになってくる。横断歩道を横切るダンディは、全身シミひとつ無い白の服で決め、見たこともないような大きなヴィトンのバッグを持っていた。
六麓荘に着くと、周りは超巨大な邸宅ばかり。私たちの前をノロノロ走る岡山ナンバーの軽四も、見物組だろう。門から玄関まで数十メートルはあろうかと思われる家が、何軒も並んでいる。
「けんどここの家は掃除が大変やねぇ」
「何言うが、ルンバがあるろう?」
「お手伝いがおるちや」
田舎から出て来た人間がいかに下卑ている(?)か。会話の内容が乏しいのがよく分かる。ここら辺はゴミを捨てるにも高級スーパー「いかり」の袋で出すのだ。決して「スーパー玉出」の袋などではない。
さて、それから数年後。唐突に父が言った。
「お金持ちの家にはマーメイドがおるでねぇ」
…マーメイド?アロワナ飼ってたお金持ちの同級生ならいたけど。そもそも人魚なんておるかよ?しばらく考えた後、ひらめいた。
「…お父さん。それ、『マーメイド』やなくて『メイド』やないが?」
「おう、それそれ」
なんたることか。マーメイドとメイドは全然違うぞ。父はこんな言いまつがいをしばしばする。恥ずかしげもなくカラカラ笑う父を、口を開けっぱなしで見る私たち母娘であった。
以来、六麓荘と聞くと、あの大きな家の中にマーメイド達が泳いでいる図式が浮かぶようになった。いや、もしかしたら私たちが知らないだけで、マーメイドがいるのかもしれない。
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