半年間、母以外と会話しなかったら。
私は予備校に所属していない浪人生。
朝4時に起床し、愛猫と少し戯れ身支度をしたら、家族が起き出す前に家を出る。
朝焼けを浴びながら向かう先は自宅から徒歩三分の立地にある有料自習室。月一万円で個別ブースを24時間利用可能。
そしてひとしきり勉強して帰宅するのは夜10時。
小学生の妹は既に布団に入り、父はビール片手にうつらうつら。母と適当なバカ話をして腹を抱えて笑ったら、猫と戯れ、その日の復習をしながらシャワーを浴びて眠りにつく。
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ところで、私の志望校の入試科目には面接が含まれる。昔から人前で話すと頭がスカーンと空っぽになって涙を浮かべてしまう私には試練だ。そんなわけで早めに対策を始めたく、昨夜母に面接練習を申し込んだ。
早速、始めて気付いた。話せない。
自分の考えが纏まるのに時間がかかるし、
それを上手く会話にのせて返せない。
頭は追い付いていないのに、
話さなければという焦りのなかで
中身のない言葉をつらつら並べる自分がいる。
いくら面接が苦手といえど、過去にここまでひどい状況に陥ったことはなかった。
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ふと考えたら母以外と半年間会話してこなかった。
友人とSNSでチャットするたちでもない。ご近所さんと世間話することもない。せいぜいレジや模試の受付で事務的な言葉を交わすくらい。
唯一会話する母とも、脊髄反射的にポンポン言葉を飛ばしあってるだけ。
もう長らく頭を使って人と会話をしていなかった。
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私の出身高校は国立校にありがちな「自治」に重きを置く高校で、生徒自身もその校風に誇りを持ち、自分達の意見を戦わせるのが好きな人達が集っていた。私もその一人だった。古代ギリシャ人のように、ことあるごとに議論したがった。
さらには周囲の生徒のレベルが高く、気遣いに長けた優しすぎる人達ばかりで、彼らより幾分か適当に生きてきた私は、彼らを傷つけてしまわないかと、丁寧に言葉を探し続けていた。
もともと人とコミュニケーションを取るのが苦手な私。それでも頭をフル回転させて人と付き合う時間がたっぷりあった。そのおかげで保たれていた僅かな会話力。みるみるうちに廃れてしまった。これから半年かけて必死で取り戻さなければ。
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人は別に一人でもなんとかなる。受験期は特に回りの友人付き合いを切り捨てても、自分の人生のためなら全く問題はないと思う。でも、人付き合いすることでこそ鍛えられる部分が想像以上に沢山あったと改めて感じた次第。
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忙しいけれど、私を静かに心配して見守ってくれている友人たちと連絡をとってみようかな。