綺麗なままで思い出にしたかったのに
6月末。大雨と猛暑を繰り返して心身共にひどく疲れてしまう季節。
私といえば、ひと月ほど前に二十歳になったばかり。成人したといえど特段変わりのない生活。お酒も飲まない。浪人生だからお酒に逃げる癖がついたら怖くって。
そんな映えない生活だけれど、刺激が少ないせいで自分の気持ちに向き合う時間が増えました。そうしてようやく、大好きで大好きで仕方なかった人とお別れすることに心を固めました。
今度こそ本当に。
▽
初めてその人を認識したのは5年前の春。
当時は学生だったから、クラス替えに心踊らせ新教室で割り振られた自席に向かうと隣の席にめちゃめちゃタイプ顔の男の子がいた。
どうしてこの時まで気づかなかったんだろうねほんと。
いわゆるイケメンではないけれど、奥二重の目とはにかんだ笑顔とメガネが印象的。
そして人と関わるのが上手くなさそうなところも。
多分この時点で彼の存在が心に染み付いてしまったんだと思う。私自身当時は別の人とお付き合いしていたし気付かなかったけれども。
距離を詰めたくて、もっと知りたくて、たくさん話しかけていた記憶がある。もちろん無自覚。
端から見たら好意駄々漏れだったかもしれないね。当時の彼氏には申し訳ない。
そのうちに、当時の彼氏さんとはお別れし、
それから四年間ずっと、眼鏡のその人とは淡くぼんやりお互い意識し合う程度の関係性。
目が合ったら密かに目を細めてくれるところ。
すれ違う度に手をふろうとして途中で周りの目を気にしてやめてしまうところ。
受験命なはずなのに真面目に行事に参加してくれるところ。
めちゃめちゃ素敵な文章書くところ。
いろいろ、好きだったなぁ。
私はその程度の些細な楽しみを勝手に見つけて幸せになるくらいが心地よくて、それ以上深入りしようとも思わなかった。
多分この人は私にとって身近な推しだったんだろうな。今までの恋愛とは明らかに少し形が違った。
でもどうしようもなく好きだった。
一度だけ勢い余って気持ちを伝えたことがある。でもやんわり受験を理由に退けられた。
別に傷つかなかった。この人の彼女になりたいとは思ったことがなかったから。
だってあくまで推しだから。
それに現実的な話、他人の感情を慮るようなことはあまりしない人で、付き合っても苦しいのが目に見えていたから。
卒業までこの曖昧な距離感を保ち続けて素敵な思い出にしてしまおうと意思を固めただけ。
▽
事が動いてしまったのは受験の年の年末。センター試験を目前に控えて死に物狂いで勉強してた頃。
時期も時期でほとんど人と連絡をとることもなかったタイミングで、かの人からの電話。一言二言適当なことを言ったあとに相手が口を開いた。
「まだ僕のこと好きだったら付き合いませんか」
ねぇ、ずるくない?
そんな言い方されたら断れない。
こちとらめちゃめちゃ好きなのよ?
てかどうして告白が条件文なの。
貴方の気持ちはどうなの。
どうして今頃になってそんなこと言うの。
受験を理由に人の気持ちを退けたのに入試直前期に何を言うの。
思うことはいっぱいあったのに何も聞けなかった。代わりに口からでたのは承諾の言葉。
だって「好きだけど付き合いたくないです」なんて返せない。
いや私も我が儘だな。嘘ついてることになるものね。
お互いの関係性に名前がついても距離感は変わらなかった。
でも私は苦しかった。
お互いに浪人していて連絡が疎遠になったし、もとより私は恋愛の優先順位が低いから、受験のプレッシャーに押し退けられるようにずるずると気持ちが消えてくる。
出掛けることになると私が日時も場所も全部決めてくれるのを待ってる
多分私の誕生日も知らない。
気にもしていない。
私の悩みの話になると重い話は嫌だと避ける。
いや、こんなことは最初から分かってたはず。私も連絡とらないから余計に。
でもだからこそ付き合いたくなくて。
別にイベント毎回一緒に何かしたいなんて思わない。プレゼントがほしいとも思わない。
でもさ、誕生日を2年続けて見向きもされなかったら、ね。
私に興味が無いんだろうな、
なんて悲しくなるのは
欲張か。
我が儘か。
悲しみを伝えられたらよかったのかもしれないけれど、気軽に伝えられる関係じゃなかった。
でもね
だからといって、わざわざそんな寂しさ伝えるために気を揉むだけの精神的余裕を彼のために作ろうとも思わなかった。
私もまた向こうの気持ちをはかろうともせずに一人で進んでた。
相手の誕生日は勝手にすねて何もプレゼントしなかったし、好きなものも結局何も知らないまま。
私は私で大して興味がなかったのかも。
恋に恋した状態で始まってたかもしれないなんて今さらになって思う。
だから私が一方的に悲しむのは違うんだけどね、悲しいものは悲しいよね。
そもそもタイミングも相性も悪かったんだろうな。
大好きだったはずなのにね。
付き合ってからずっと、嬉しいなんて感情がなかった。早く別れなきゃなんて思い続けていた。罪悪感でいっぱい。
▽
先日、古くからの友人に初めてこの一連の話を語った。
そもそも、同級生にはあまり話してこなかった。自分の愚かさを晒すことになるのも、彼氏の悪口を言う感じになるのも抵抗があったから。
そんなわけで自分の状況と気持ちを吐き出して整理した結果、きちんとお別れすることに決めました。今さらだけれど。