利用者がB型事業所で就労することについて
私は現在、就労継続支援B型事業所というところで、職員として働いている。
就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所と書く)というのは、障害を持った人たちが働く訓練をするために通う福祉施設だ。
私はもともとそこに通っていた利用者だったのだが、能力を認められ、職員として雇ってもらうことができた。
要は、「指導される側」から「指導する側」になったわけだ。
今回はそんな私の経験を共有したいと思う。
今現在、福祉施設に利用者として通っていて、ゆくゆくはそこでの就労をしたいと思っている人は参考にしてみてほしい。
(ちなみに、今回の記事は5500文字ほどある長文だ)
◎B型事業所とは、どんなところか?
さっきも書いたが、B型事業所というのは障害者が働くための訓練をしに通う福祉施設だ。
うちの利用者は精神と知的の障害の人がメインで、毎日、外の施設に出かけて掃除をしたり、うちの施設内で内職をしたりしている。
それほど難しい仕事はなく、早く仕上げるように急かされたりもしないので、みんなマイペースで作業ができる環境だ。
ただ、B型事業所の場合は雇用契約を結ばないので、最低賃金が保証されない。
働いてもらえるお金は「賃金」ではなく「工賃」と呼ばれ、時給は100円とか200円といったレベルだ。
それゆえ、たとえ毎日通っても、月の収入は一万数千円程度にしかならない。
これはうちの事業所に限った話ではなく、B型事業所というのはだいたいどこもそうだろうと思う。
もちろん、そんな低収入では暮らしていけないので、利用者はみんな、親の収入に頼っていたり、障害年金や生活保護を受給していたりする。
かく言う私も、かつては生活保護を受給しながら通っていた。
今は、職員になって収入が確保できたので生活保護も抜けることができたが、利用者だった頃は、とてもではないが工賃だけで暮らしていくことは不可能だったのだ。
B型事業所と違い、雇用契約を結ぶことで最低賃金が保証される就労継続支援A型事業所という福祉施設もあり、そちらであればある程度は収入が見込める。
ただ、A型事業所はB型事業所より高い作業レベルを要求されるので、まずはB型で慣らして力をつけ、自信とスキルが身に着いてからA型に移行するケースが多い。
そして、最終的にはA型事業所も卒業し、一般企業に就職するのが多くの利用者の目標だ。
私の場合は、A型を経由せず、よその企業に行くわけでもなく、通っていたB型事業所でそのまま就職したので、かなりレアなケースかもしれない。
なので、私が自分の経歴を他のB型事業所の利用者に話すと、「そんなことも可能なんだ!」とびっくりされることもある。
「A型に行って、それから一般就労する」というルートが当たり前だと思っている人からすると、私のようなケースの話は想定外のようだ。
確かに、通っていたB型事業所にそのまま就職するというのは、狙ってできるものではない。
そもそも事業所側が利用者を雇う気がなければ、決して実現しないだろう。
ただ、B型事業所に通う中で、実力を認めてもらうことができれば、交渉の余地はあるかもしれない。
特に、私の通っていた事業所では事務の補助をする人が必要だったので、パソコンの基礎的なスキルがあった私に白羽の矢が立った。
自分の持っているスキルと事業所が必要としているものとが合致すれば、雇ってもらうことも可能かもしれないのだ。
◎働く上で最低限必要なもの①:休まず通えるスタミナ
さっき上で「実力を認めてもらえれば、雇ってもらえるかもしれない」と書いたが、具体的には何ができればいいかを書いてみよう。
まず、最低限必要なのは、体調やメンタルの変化で急に休んだりしない安定感だ。
というのも、B型の利用者の多くは心身が不安定で、ちょっとしたことで体調を崩したり落ち込んでしまったりして、事業所を休んでしまうことが多いからだ。
だが、一般就労して働くのであれば、そう簡単に休むわけにはいかない。
しょっちゅう休んでいるようだと、「雇ってからも安定して働けないのではないか?」と疑われてしまうだろう。
そもそも、職員として雇ってもらった後は、利用者だった時よりも業務量が多くなり、内容も難しいものになる可能性が高い。
また、利用者であれば心身の状態に常に配慮してくれて、ちょっとしんどそうだったら「少し休もうか」と声をかけてくれるかもしれないが、職員になったら「もうちょっと頑張ろう」といった感じに変化するだろう。
だから、もしも職員になろうと思ったら、そこでへばらずに頑張れるだけの身体とメンタルの安定性が必要になるのだ。
であるならば、まだ利用者であるうちに、しっかり心身の安定感を築いておくことが重要だ。
「休まずしっかり働ける利用者」というイメージが普段から定着していれば、事業所の職員や所長から信頼してもらえるようになるだろうし、そうなれば、職員としてそのままB型で雇ってもらいやすくもなるだろう。
そもそも、B型事業所はお金がほとんど稼げない分、通う上でのハードルがとても低く、休もうと思えば簡単に休むことができる。
もちろん、まだ心身の状態が不安定で継続して働くこと自体が難しいなら、休みながらでも通うことが大事だが、一般就労を目指すくらいまで回復してきたなら、休むことなく毎日通うのを意識したほうが良いだろうと思う。
◎働く上で最低限必要なもの➁:自力で通勤する方法
もう一つ、職員として雇ってもらう上で必要なものは、自力で通勤する方法だ。
というのも、利用者のうちは事業所の送迎を使うことができるが、職員になってしまったら、自分の足で通わなければならなくなるからだ。
これについては、いくつか方法が考えられる。
まず都会であれば公共交通機関が発達しているだろうから、電車やバスで通えばいいだろう。
利用者だったころは、電車やバスで通うと稼いだ工賃のほとんどが運賃に消えたかもしれないが、職員になれば職場から交通費がある程度は支給されるだろうから、その心配はない。
問題は、私のように、田舎に住んでいる場合だ。
この場合、公共交通機関に頼るのは難しくなる。
田舎は電車やバスの本数が非常に少なく、職場の始業・就業時間にちょうど合うような運行をしているとは限らないからだ。
そこで、通勤の足として車が必要になるかもしれない。
田舎のB型事業所であれば、職員用の駐車場はまず用意しているはずなので、もしも車を運転できるのであれば、車通勤は一つの選択肢になりうる。
だが、B型事業所に通っている障害者の中には、障害があるために、そもそも車の免許が取れない人も多い(たとえば、知的障害があると学科試験をパスするのはかなり難しいだろう)。
また、「免許は持っているけれど、車を買うお金がない」という人だっているはずだ。
そういう場合には、「原付で通う」という選択肢がある。
原付なら、車に比べて免許を取るハードルも低いし、費用も安く済むからだ。
車に比べると危険度は高くなるが、運転そのものは難しくない。
気軽に乗ることでき、片道15キロくらいまでなら通勤も苦にならないだろう。
ただ、原付には一つ弱点がある。
雪の日に乗ることができないのだ。
もし雪の多い地方に住んでいる場合、原付で通うことは難しいかもしれない。
夏場は問題ないのだが、冬になって雪が降ると身動きが取れなくなってしまうのだ。
ちなみに、私も原付で職場に通っているのだが、私の住んでいる地域は一年に一回か二回しか雪が積もらないので、雪が降った日だけ他の職員さんの車に乗せてもらって通っている。
一緒に働く同僚のご厚意に甘えている形だが、これも雪がめったに降らないからこそできていることだろうと思う。
ただ、中には雪が多くて冬場の通勤が難しかったり、そもそも原付の免許が取れない人もいることだろう。
そうなったら、最終手段だ。
事業所の近くに引っ越してしまおう。
自転車か、できれば徒歩でも通えるような距離に引っ越してしまえば、安心だ。
実際、私の通勤しているB型事業所にも、近所に住んでいて送迎を利用していない人が何人かいる。
そういう場合であれば、利用者から職員になったとしても、問題なく通勤することができるだろう。
このように、「通勤手段をどうするか問題」については、いくつか解決策がある。
人によって取れる選択肢に違いはあるだろうが、ここを何とかしておかないと、雇ってもらうのは難しくなるだろう。
できれば、利用者のうちから「自力で通える体制」を整えておくのが良い。
そうすれば、雇う側も安心して職員にすることができるはずだ。
◎B型事業所に通いながら、働く準備をしよう
以上のように、職員として雇ってもらうには、「休まず働ける心身のスタミナ」と「送迎に頼らず自力で通勤できる方法」の二つが最低限必要になる。
そのうえで、事業所が求めるスキルを持っているなら、職員として雇ってもらう道も開かれるかもしれない。
ただ、雇ってもらえるかどうかは、最終的には所長の判断になる。
自分が通っているB型事業所の所長が、そういったことを許容しない人であれば、可能性はほとんどなくなってしまうだろう。
だが、「スタミナ」と「通勤方法」は、よその企業に一般就労する場合にも必要にはなるので、「もっとしっかり働きたい」と思うのであれば、準備しておいて損はない。
また、そういったステップアップのための準備こそ、B型事業所でするべきことなのだ。
◎私の場合、どうだったか?
最後に、参考までに私のケースについて述べておこう。
私は発達障害(自閉症スペクトラム)の診断を受けている。
そして、二次障害として不安症とうつ症状が出ていた。
B型事業所に通い始めたばかりの頃は精神的に不安定で、一~二ヶ月に一度くらい、事業所でもパニックの発作を起こしていた。
ただ、「それも想定内」ということで、事業所側からは受け入れられていた。
そして、通い続けるうちに発作の頻度も少なくなっていき、安定して通うことができるようになっていったのだ。
また、ときおり発作を起こすことはあったものの、事業所を休むこと自体はほとんどなく(たしか一年に一回もなかったと思う)、利用者だったころから原付を使って自力で通っていた。
それから、過去に様々なアルバイトを経験していたので、仕事をする上でのマナーというか、一般常識についても「身についている」と判断されていた。
たとえば、毎日きちんと挨拶をするとか、何かあったらホウレンソウ(報告・連絡・相談)をするとかいったことだ。
ちなみに、こういった部分もけっこう見られていたりするので、もし雇ってもらいたいのであれば、利用者のうちからしっかり練習しておくのが良いだろう。
私が職員として雇ってもらう話は、B型事業所に通い始めて一年ほど経った頃から出始めた。
「将来的にどうか?」ということで、お誘いを受けたわけだ。
もちろん、私としてもありがたいことだったのだが、今の自分で勤まるか、まだ不安もあったので、一年延期してもらって練習することにした。
立場的には利用者のまま、職員としての仕事を少しずつするようになっていったのだ。
たとえば、パソコンで事務仕事をしたり、利用者が外の施設に出かけて仕事をするときには車を運転して送迎をしたりすることもあった。
利用者として通ってはいたが、実質的にはもう職員みたいなものだった。
そうして少しずつ自信をつけて、約一年後に正式に職員になったのだった。
それから一年半ほどが経った。
職員になったばかりの頃は、一日5時間労働の週3日勤務だったが、今は一日8時間労働の週5日勤務になっている。
働き始めたころは、週3の5時間でもきつかったが、今はだいぶスタミナがついて、毎日8時間働いても疲れなくなった。
これも、少しずつ慣らして時間を延ばしていった結果だ。
仕事の内容としても、以前に比べて難しく重要なものを任されるようになった。
そのぶんプレッシャーもあるが、この一年半で培った知識とスキルもあるので、どうかこうか対応できている。
今はまだアルバイトだが、ゆくゆくは正社員として雇ってもらうことが目標だ。
◎今回のまとめ
いかがだっただろうか?
今回は、利用者として通っているB型事業所で雇ってもらう道筋について書いた。
とはいえ、途中でも書いたように、最終的に雇ってもらえるかどうかは事業所の判断になる。
事業所側が「うちはそういうことはしない」と言ったら、可能性はないと思ったほうがいい。
だが、雇ってもらうためにした準備は無駄にならない。
よその企業で働くにしても、心身のスタミナや通勤手段は必要になるからだ。
また、一般常識や働く上でのマナーなどを身に着けておくことも大事だ。
挨拶やホウレンソウ(報告・連絡・相談)は特に重要だし、清潔感のある身なりや任された仕事を完遂する責任感なども必要になるだろう。
そもそもB型事業所は、いきなり仕事に行くことが難しい人が、働く練習をするところだ。
だからこそ、任される仕事も簡単なものが多いし、急に休んでもそれほど注意をされたりはしない。
それゆえ、一度慣れてしまえば、非常に楽な環境ではある。
だが、その環境にいつまでも留まるのではなく、少しずつでもステップアップしたいと望むなら、今回の記事で書いたことを意識してみてほしいと思う。
今回の記事が誰かの参考になれば幸いだ。