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小説の掃き溜め

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猫宮の創作物
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#ショートショートnote杯

違法の冷蔵庫

 我が家には違法の冷蔵庫がある。

 母が「あの冷蔵庫は悪い犯罪者なの」と意味不明な嘘を私に教えたがために、私は我が家の冷蔵庫を『違法の冷蔵庫』と呼んでいる。
 実際はただの鍵付き冷蔵庫。父は酒を飲むと気が大きくなる人で、ある日泥酔した父がヤクザに喧嘩を売って腕を怪我して帰ってきた。母は泣いていた。その日から冷蔵庫に鍵がついた。

 現在、我が家は母と私の2人家族。父は失踪した。新しい女でも出来た

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金持ちジュリエット

金持ちジュリエット

 ハイスペバリキャリ金持ちジュリエットは、黒縁眼鏡の向こうから鋭い眼光を光らせます。相対するロミオは溜息を吐きました。

「ジュリエット、どうして僕に執着するの?」

「貴方は私の運命だから」

「確かに君はジュリエットで僕はロミオ。運命みたいな名前だけど……僕は万年雑用。君は社長令嬢でありながら現場に出てひと月にして業績トップ。釣り合わない」

「私が働くから、貴方には家を守って欲しいの。貴方の

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しゃべるピアノ

しゃべるピアノ

 鍵盤を弾く指先はバレエダンサーに似ている。鍵盤の上で指を踊らせながらそう思った。

「よぉアンタ」

 いつも通り最後の音をトチったとき、声がした。
 少年のような声だ。

「誰?」
「ピアノだ。他に誰かいるか?」
「いない」

 なるほど。それじゃあピアノの声か。
 それからピアノは私が弾くたび話しかけてきた。

「今日もうまいな」
「先週より上達してる」
「ずっとオレを弾いてくれよ」
「来週

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