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【100分de名著】『金閣寺』(三島由紀夫) #2

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

5月の100分de名著は、平野啓一郎さんが解説する三島由紀夫の『金閣寺』です。今日は第二回目「引き裂かれた魂」の回のまとめをします。


〇『金閣寺』に描かれた戦後

空襲で焼け落ちる金閣と共に滅びることを夢みていた主人公・溝口は、生き延びて敗戦を迎えます。「金閣と私との関係は絶たれたんだ」と確信します。

灯火管制が解かれた京都の町の夜の明るさに、溝口は疎外感を味わいこう思います。「私の心の暗黒が、この無数の灯を包む夜の暗黒と等しくなりますように!」

これまで溝口は薄暗いことを考えはしても、それを明確な言葉にしたことは無かったと思います。悪の芽生えですね。

〇南泉斬猫(なんせんざんみょう)

仔猫を取り合った弟子を見た和尚が、「大衆道ひ得ば即ち救ひ得ん。道ひ得ずんば即ち斬却せん」と言い答えが無いのを受けて、仔猫を斬って捨てた。その夜、寺に戻ってきた高弟・趙州にこの話をすると、趙州は履いていた履(くつ)を頭に載せて出て行った。和尚は「ああ、今日おまえが居てくれていたら、猫の児も助かったものを」と言った。

…と言うエピソードを初めて読んだとき、「自分で猫を斬り殺しておいて何言ってんだ」と思ったものです。

この番組で、「認識によって世界を変える」という話だったと納得できました。金閣との向き合い方も認識を変えて、依存関係を絶って、放っておけばよかったのかもしれません。

〇放っておけばいいのに放っておけなかった訳

ところが、溝口の金閣への傾倒はちょっとおかしな方向へすすみます。
女性との行為に及ぼうとすると、金閣が現れて邪魔をするというのです。
溝口は俗世へ逃げることもできないのかと悩みます。

いや、そんなの気にしすぎだよ、それは依存関係だよ。ちゃんと金閣寺から離れればいいじゃないかー! って思ったのですが、平野さんの解説はすごい。

「溝口が現実の中にある美に触れようとすると、金閣がその美をすべて回収してしまう。回収されると、その美は金閣的な性格を帯びることになり、女性の裸体を美しいと思いつつも、金閣同様にその内部には実体がないのではないかと思ってしまうのです。つまり、現実そのものが表面的な美しさと内部の空洞に分離してしまうわけです」

そういうことだったのかと、改めて納得しました。

金閣は、溝口が美しいと思ったものをどんどん乗っ取ってしまうというのです。
ついに、ダークサイドに堕ちた溝口は金閣にこんな風に呼びかけます。
「いつかきっとお前を支配してやる。二度と私の邪魔をしに来ないように、いつかは必ずお前をわがものにしてやるぞ」

・・・なんか相手が金閣寺だから文学ですけど、構図としては、
「三高な男ばっかりちやほやしやがって!」って女性一般に腹を立てている男性が、実はまわりに気のいい女性が沢山いるのに、可愛い若い女の子に振り向いてもらうことしか考えていない状況で、もちろんそんなよこしまな態度では、もちろん振り向いてもらえるわけもなく、あるとき突然腹を立ててストーカーになっちゃう、というようないびつなものを連想しちゃうんですけど…。

〇友人・柏木

心優しい鶴川とは真逆の、柏木という友人ができます。認識によって世界を変えるという実践をしている男です。
鶴川は柏木と親しくなる主人公・溝口を心配しますが、自分には柏木の方が似合いだと思う溝口がいます。
でも柏木のすごいところって女性関係が派手なところだけじゃないですか? …いや若い男性にはそれが一番大事なことなのかな。

後に溝口が金閣に放火したと知った時、柏木はどんなことを思ったのでしょうね。

■本日の一冊:NHK 100分 de 名著 三島由紀夫『金閣寺』(平野啓一郎/NHK出版)

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