【言葉】紅殻が古びてい(「ある心の風景」『檸檬』梶井基次郎)
こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。
先日、「檸檬」読書会をした関係で梶井基次郎の他の短編も読んでいます。
「檸檬」に表現されていた不穏な気持ちは、他の短編にも表現されていて、「檸檬」と似ているところ、異なるところをついチェックしてしまいますが、そのこと以外にも気になって面白いことが結構あります。
例えば言葉遣い。見慣れない動詞や物を表す言葉です。
たった100年前の日本語なのに、あれ? と思うような言葉があって、気になります。たいていは辞書で調べればわかります。
でも「紅殻」には、一筋縄ではいかなかったので、メモがわりにお話しします。
「ある心の風景」は、檸檬の主人公に似た主人公が、人々の寝静まった深夜の描写をするところからはじまります。
主人公は部屋の窓から通りを観察しています。通りは昼でもにぎやかとはいえなくて、ゴミが何日も放置されているような場所のようです。そこで「紅殻が古びてい、荒壁の塀は崩れ、」とありまして、はて、紅殻とは何だろう? と思ったのです。
岩波国語辞書第八版で、<べにがら>をひくと、【紅殻】は、ベンガラという外来語にこの漢字を当てたので、本当の読み方は、<べんがら>だとあります。
<べんがら>をひくと、インドのベンガル産の赤色の顔料とあります。ということは、ああ、「紅殻が古びてい」とは、なにやら赤いものが色あせているのかもしれない?と思いました。
次にグーグルさんで<紅殻>と<住宅>で検索したら、京都の古い町並みの写真で見かける木の格子が出てきました。この格子状の建物の一部を言うんですね。確かに赤いし。
で、もう一回岩波国語辞書第八版で、今度は<べんがら>をひくと、二つ意味があって、一つはベンガル産の赤色顔料、もう一つはベンガラ縞といい、縦糸が絹で横糸が木綿のしまの織物のことを言うそうです。格子状のあれも縞々に見えないこともないですよね。
古都京都のイメージを形成するあの住宅を構成する要素の一部が、遠い異国インドのベンガル地方由来の二つの品物(顔料と織物)の意味を重ね合わせて呼ばれていることが面白いと思ったんです。
■本日の一冊:『檸檬』(梶井基次郎/新潮文庫)