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【本】『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・A・ブルガーコフ、水野 忠夫(訳)/河出書房新社)
こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。
3月8日はミモザの日なんですって。
春を告げるような黄色で、気持ちが明るくなる素敵な花だと思います。
ひとの心を不安にさせ、目をそむけたくなるような黄色い花を彼女は両手に抱えていました。
なんという名前かは知りませんが、その花はどういうわけか、春になるといちばん早くモスクワに現れるのです。
黒いスプリングコートに、その花はひときわくっきりと映えていました。
黄色い花を抱えていたのです! 不吉な色です。(『巨匠とマルガリータ』209頁)
これは『巨匠とマルガリータ』の、主人公である「巨匠」が、愛するマルガリータとの出会いを語る言葉です。もちろん、黄色い花が、ミモザである、とはどこにも書いてありません。ただただ、黄色い花が不吉で不安だと巨匠は言うのです。
でも、わたしは、本気で巨匠はこの花のことを不吉だと感じていたのではないと思っています。このあとすぐに二人は、恋に落ちてゆきます。だからきっと、巨匠は黄色の花束の中に、恋の予感、新しい恋への不安や慄きを、見てとったのでしょう。
この場面を読むとき、わたしのイメージのなかで、美しいマルガリータは、黒いコートを着て、ぼんやりとした輪郭の黄色い花束を抱えていました。
それが最近、ミモザが春に咲く黄色い花と知ると、マルガリータの抱えていた花はきっとミモザだと思うようになりました。
そう考える根拠はもう一つあります。巨匠は、この場面のあとすぐに、マルガリータに話しかけ、並んで歩きながら、薔薇の方が好きだとマルガリータに言うのです。
薔薇にも種類がいろいろありますけれど、一般的には、どっしりと華やかな花です。そんな薔薇と対照的に、小さくて淡い輪郭の花の集まりであるミモザは、巨匠が文句を言う花として当てはまると思います。
さて、この『巨匠とマルガリータ』は、1930年代、革命後のモスクワの街を描いていながら、同時にエルサレムで磔にされたあのイエス・キリストとその刑の執行を命令した提督ピラトとの対話を描いた不思議な物語でもあります。巨匠とマルガリータの物語に、巨匠が執筆したピラトの物語とが混ざってきて、それがどういうわけか全部地続きでつながっているのです。読みすすむうちに、包含関係が逆転していて、こんぐらがってしまうのですが、そういった謎も含めて不思議な魅力があって、何度でも読み返してしまう物語です。
今日はミモザの日ということで、マルガリータの抱えていた黄色い花束を連想してこれを書きました。
■本日の一冊:『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・A・ブルガーコフ、水野 忠夫(訳)/河出書房新社)