【本】『戦火の馬』(マイケル モーパーゴ /佐藤 見果夢 (翻訳)/評論社)
こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。
ナショナル・シアター・ライブという英国の舞台作品を映画の形で鑑賞できるシリーズがあるんですけれど、先日、このシリーズで『戦火の馬』を観ました。
これは第一次世界大戦中の物語で、イギリスの少年アルバートが手塩にかけて可愛がった非常に美しく賢い馬の話です。はからずも軍用馬として、ヨーロッパの戦場に連れていかれて、とてもとてもひどい目に遭いますが、イギリス人にもドイツ人にも馬を深く愛する人たちがいて、その人々の情に助けられて、生き延びてゆく話でもあります。
予備知識無しで観たのでびっくりしたんですけれど、馬をはじめとして、ガチョウ、ひばりが、パペット仕掛けなんです。
パペットと言っても、馬は3人がかりで操作しています。頭、前足、後ろ足と役割分担がきっちりしているのです。文楽みたいですね。
最初は母親から引き離された仔馬が不安げに歩いている様子を、私たちもまた初めての馬のパペットなので、恐る恐る眺めているわけです。
耳の動かし方、突然の鼻息の粗い感じ、ぎこちなく飛び跳ねる感じ。そう言った様子が、だんだん本物の馬のように感じられてきて、全身で表現される馬の優しくて細やかな気持ちが伝わってきます。
馬だけじゃなくて、「柵」も、人間が一本ずつ持って操っているのですが、それによって空間が広がったり、歪んだりしてゆく様子が表現できます。こんな風に、これまでに見たことのない表現と、心揺さぶられる物語のせいで、珍しくも涙腺崩壊いたしました。あまりそういうのでは泣かないタイプなんですけれどね。
今日ご紹介するのは、その原作本です。児童文学でした。ナショナル・シアター・ライブは、原作中のエピソードを幾つか削って、残すエピソードも決めて、それらを組み合わせて新たなエピソードを生み出していた…ということがわかりました。
とくに大きな変更と感じたのは、ドイツ軍側の馬を愛する将校。彼の出番が増えたところです。
日頃感じていたんだけど、世界大戦を描く映画では、ドイツ軍はわりと悪役扱いです。ま、歴史的にはそうかもしれないけれど、そのような作品をドイツ人は果たして安らかに鑑賞できるものだろうかといつも気になっていたのね。その点、この変更によってドイツ人が鑑賞しても共感をもって迎えられると思うし、平和を願うこの本の趣旨に沿う変更だと感じました。
話は変わりますが、1575年に織田信長は長篠の戦いで鉄砲の三段撃ちという戦法を使ったといわれます。
一方、第一次世界大戦は1914年の出来事です。
鉄砲発明→三段撃ち戦法→機関銃の利用…といった技術変化が進んでいるのにもかかわらず、1914年の戦争にも騎馬兵で出征するのは、なんだか悠長ではないかと、ちょっと不思議に思いました。
とはいえ、わたしたちだってあと100年後の人からみたら、悠長ではないかと言われてしまうことをやらかしているかもしれません。そんなことも考えました。
■本日の一冊:『戦火の馬』(マイケル モーパーゴ /佐藤 見果夢 (翻訳)/評論社)