【読書会報告】『ハックルベリー・フィンの冒険』読書会#1
こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。
『ハックルベリー・フィンの冒険』(マーク・トウェーン、上杉隼人、にしけいこ/講談社青い鳥文庫)の上巻を課題本として、オンライン読書会(第一回)を8月29日に総勢5名で行いました。熟読して参加して下さる方が揃って、二時間で非常に深く幅広い議論ができたと思います。
読書会での主なトピックをご紹介します。
■■主役のハックルベリー・フィンってどんな子?
〇頭がいい!
・とっさに一番いい方法を考え出すのがうまい
・機転もきくし、計算も早い
・記憶力もすごい(似非ハムレットの台詞を聴いただけで暗記する!)
〇子どもなのに…
・相手の嘘に気が付いても指摘しない現実主義者
・社会のアウトサイダー。だからこそ奴隷制の問題点に気が付いてしまい悩む
〇弱点もある
・賢いようでも、やっぱり幼く、知らないことに気が付かないところがある。不憫だ。
・定住や形式ばったことが苦手。
■■黒人奴隷のジムってどういう人?
〇ハックとは別の意味で現実主義
・「子供半分なんて、なんの役にたつ?」などのジムの言葉には、真実・哲学がある。
・白人は完全上位の社会で暮らしていて、黒人がばかにされても当然と受け入れている。(でも外国語をしゃべる外国人のことは理解できていない)
・「ハックが行くぞ。オレとの約束をまもってくれた」とジムが独り言をくり返しつぶいていて、それをハックが聞いて複雑になる場面がある。奴隷を逃がすのが犯罪だった時代。ハックは友であるジムを、逃がすことの是非に揺れていた。そんなハックの迷いに、ジムは気が付いていて、約束を翻されないように、半ば祈るように唱えていたのかもしれない。
〇ポジティブ
・ジムは800ドルで売られるはずだった。売られることを当然と考えているのは悲惨だが、逃亡中の自分に800ドルの価値があるから、「自分は金持ち!」と思えるポジティブさは見習いたい。
〇ハックとの友情
・旅を通して、ハックに人間としての道を気づかせてゆく。
・ハックのことをジムが本気で案じたエピソードのところで、代償を求めない、ピュアな友情が生まれた。当時の白人と当時の黒人の間に、友情が生まれるというところに、作者の問い「人間の尊厳とは?」がある。
〇なぜハックの父親の死体を、ハックに見せまいとしたのか?優しさだけ?
・優しいだけではなくて、ジムの狡さだった可能性もある。ハックはアル中で暴力をふるう父親から逃げていた。その父親が死に、もう逃げなくても良いとハックが知れば、ジムは白人のハックと一緒に逃亡できなくなる。そう考えた可能性もある。
■■トム・ソーヤってどんな子? なぜハックはトムのことが好き?
〇お話を作れる子
・トムは友達に自分の創作ほら話を聞かせて子供たちを魅了している。しかも物知り。
・お金と欲望とのけじめがしっかりしている。
「自分」の欲望や利益のためなら、お金で買わなければならない。取るのは盗みになるのでいけないとトムは考える。その一方で、「何らかの理由・目的(例えば、ジムを解放するという目的)のためなら、取っても盗みではないと考える。
これは アメリカを「開拓する」という理由・目的で、ネイティブアメリカンの所有していた土地を奪っておきながら、盗みではないとした(欧州からの)移民(現在のアメリカ人)の考え方を思わせる。
〇わりと公平でリーダー格?
・大義がなければ動かない人。自分の欲望で動かないタイプ。
・村八分にされていた浮浪児ハックに最初に話しかけたのがトム。
だからハックはトムを慕っている。困った時はいつも「トムならどうするか?」と考えているほど。
■■差別の描かれ方
・物語のはじめの方では、ハックもトムも人種主義者らしい発言をしている。
・ハックとジムの信頼関係が深まった後でも、あやまるべきはハックだったのに「黒人のジムに頭を下げるって決めるまで」時間がかかった。差別意識の根深さに驚く。
・自分の子供を取り戻すためには、盗んでもかまわないと言ったジムに、ハックは「何も悪いことをしていない人の財産である子供奴隷を盗み出す」ことを怖れた。
なんにも悪いことをしていない人が奴隷になり、奴隷親子が生き別れている非情に、ハックでさえ気づいていないことに驚く。
・駆け落ちをしたソフィアに関するエピソードから、この時代は黒人だけでなく、女性も家の所有物だったと残念に思った。
■■父親
・ハックは父親を憎んでいたわけではないようだ。でも暴力を振るわれたら銃を使ってでも自分の身を守るところまで追い詰められていた?
・ジムが自分の娘との悲しいエピソードを話す程にハックのことを信頼した。友情というよりも父親としてハックに接したところもあるようだ。
その他、「冒頭でハックが言及する〈嘘〉とは」、「自然描写の美しさ」、「物語の時代の命の軽さ」についても議論しました。
次回は下巻を対象に読書会を行います。