金はいつ買うべきか?通貨の暴落から逃れるために
金価格は今後どうなるか?
本題は金相場がこれからどうなるかである。金価格はどうなれば上がり、どうなれば下がるのか? 原油や銅など実需が大きく影響するコモディティであれば実体経済における需要と供給を考えるところだが、ゴールドは金融需要、つまり中央銀行や投資家が通貨の代わりに保有するという需要が比較的大きいコモディティである。
世にも珍しいことに、金は実需以外の需要が多くを占めるコモディティなのである。実需では歯科医療などで使われる産業向けの用途のほかに、宝飾品用くらいである。そして実需の影響が相対的に低いという特性がある。
その観点で見れば、金価格に影響する指標は大きく以下の2つということになる。
インフレになれば金価格が上がる
低金利になれば金の価値が相対的に上がる
インフレとは通貨の価値が毀損されてものの価値が高騰することであるから、インフレで金価格が上がるということになる。一方で、当然ながら金には金利が付かないため、通貨の金利が高い間は投資家は金利のないゴールドよりも金利の得られる預金を好むということである。
金相場の基本的性質
さて、経済学にはインフレと名目金利(市場で決定される金利)を組み合わせた指標がある。実質金利である。
実質金利 = 名目金利 – 期待インフレ率
この式を見れば、中央銀行の利下げで名目金利が下がれば実質金利が下がり、また期待インフレ率が上がれば実質金利が下がるということである。ここまでの議論を組み合わせると、実質金利が下がれば金価格が上がるということになる。したがって、金の投資家はインフレ率と名目金利を追っていかなければならないわけである。
これは相場の動きでも確認できることである。以下は金価格とアメリカの実質金利のチャートである。
長期チャートを見れば綺麗に反相関となっていたチャートも、短期的には反相関となっていない部分もあることが確認できる。直近の部分では、実質金利が上がっているにもかかわらず、金価格が下がっていない。これが何故かということである。
短期的に反相関ではない場合がある理由
概して言えるのは、実質金利よりも金相場の方が投機的であるということである。だからこそ高騰すれば高くまで上がってゆくが、一方で感情的な動きを見せることもある。そこで過去のバブル崩壊時にゴールドはどのように動いていったかを検証していく。
上昇した米国債、下落した金相場
まずは2008年前後における金相場とアメリカ長期国債の動きを検証したい。どちらも金融危機を原因として長期的な高騰を見せたことは同じなのだが、短期的には正反対の動きを見せている。
先ずはチャートを見てみよう。以下はS&P 500、金価格、アメリカ10年物国債の金利を比較したものである。
2008年にどのグラフも下落に向かっていることが読み取れるが、注意してほしいのは米国債は価格ではなく金利のグラフであるということである。債券の金利低下は価格上昇を意味する。つまり、2008年には株価と金価格が下落した一方で米国債は上昇したのである。
長期金利の決定要因
何故国債が上昇したのか? それを考えるためには先ず債券の金利の決定要因を考える必要がある。理論的には債券の金利は以下の要因によって決まると考えられている。債権についてはこちらの記事参照
期待インフレ率
期待実質経済成長率
リスクプレミアム
先ず、債券を買うとは一定期間誰かに資金を貸し出し、利息を受け取るということである。だから例えばその期間に物価が10%上がるとすれば、1,000ドル貸し出して1,000ドル返ってきたとしても、物価上昇分実質的に損ということになってしまう。その場合債券投資家は債券を買うよりも、ものを買うことを選ぶだろう。だからインフレ率が高まれば債券の金利も上昇する。
また、借り手側の理屈を考えると、企業は資金を借り入れて事業を行うわけだから、利益率より金利が低い限り借り入れを行い(債券を発行し)、利益と利息の利鞘を取ろうとするだろう。これは金利上昇の要因となる。だから実質金利(インフレ率を差し引いた金利)は経済成長率と理論上等しくなる。
また、債券の金利は借り手の信用によって上下する。借り手のリスクによる金利上昇分とリスクプレミアムと言うが、先進国の国債のリスクプレミアムはほぼゼロと考えられているから、長期金利の理論上の計算式は次のようになる。
長期金利 = 期待インフレ率 + 期待実質GDP成長率
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