佐竹秋葉神社にて
「寧静?」
東京都新御徒町駅からほど近い、日本で二番目に古いレトロな佐竹商店街。そこにあるこじんまりとした神社にふたりはいた。
「うん。茜がカリカリしませんようにって」
「なにそれ。私がいつカリカリしてるっていうのよ」
茜はムッとした顔で言った。
「俺がいなくなっても毎日泣いて電話かけてきませんようにってね」
健介と茜は佐竹商店街に同じ年に生まれ、互いの顔を見ない日はないほどだった。幼馴染の気安さで、顔を見ればああ言えばこう言うの仲。でもそれは今日まで。健介は大学進学のため遠くへ行ってしまうから。
「なによ。健介こそホームシックになって泣いて電話かけてくるんじゃないの?」
茜は、泣いて電話なんか絶対かけませんと誓い、健介は、泣いて電話をかけてきたら会いに戻りますと誓い、ふたりは神社をあとにした。
そして、茜は泣いて電話をかけることなく、健介は戻ることなく、神社で願ったように寧静な月日が過ぎていくだけだった。