お客様からの言葉を片手に。目指すは"僕たちの鞄"
ある日、マザーハウスを古くからご存知下さっているお客様とお話する機会があった。その方は皆を包み込むような穏やかさと自ら磨いてきた太い芯をどちらもお持ちの素敵なお方で、頻繁にお店に来てはお話をしたり新しい商品のご紹介をしている。(お店近くのパン屋さんがお気に入りで、いつもいらっしゃる時にはそのパン屋さんの袋をお持ちだった)
うちは鞄やジュエリー等を売るだけでなく、店頭でのケアやメンテナンスも承っている。昨年からはバッグの回収&リメイクのサービスも始めたりと、ものを生み出すものとして最初から最後まで責任を持つために、出来ることを少しずつ増やしている。
なのでうちのお鞄をお持ちのお客様がいらっしゃれば、「良かったらお磨きしましょうか?」とこちらからお声がけすることもしばしば。その男性のお客様もアンティークスクエアバッグパックをお使いで、いらっしゃる度にお磨きをさせて頂いていた。
革はお手入れをすればするほど長持ちするし、その中で艶感や色味が経年変化していくからこそ、使っていく中での楽しみも多い。お店はサービスを提供するだけでなく僕たちが大切にしている価値観を感じてもらえる空間でもあるからこそ、モノを長く使うという価値観をお客様と一緒に育み広げていきたいなと思いながらお店に立っている。
僕が今いる京都のメンズ店はケアやお修理の機会も多く、そういったサービスお店づくりの柱の一つにしていきたいな、でもどうやったらいいだろう?と考えていた矢先、そのお客様が言われた言葉で今でもふと思い出すことがある。
"僕はねマザーハウスのバッグを毎日の様に使っているけれど、自分のものだって思ってないの。だってお店に行けばスタッフの皆が毎回の様に「ケアさせて頂きますね」と磨いてくれて、そのおかげで僕は毎日綺麗に使うことが出来ている。だから僕の鞄ではなくて、僕たちの鞄だと思ってるんだよ。"
思いがけないお言葉を頂き泣きそうになった。…いや、ちょっと泣いてた。そんな風に感じてくださっていたのだと、僕たちが大切にしている価値観が伝わっていたことを知れた嬉しさと、それを素直に伝えて下さった感動とで、心がいっぱいになった。
そしてもう一つ気付いたこと。それはサービスの提供者である僕たちは、知らず知らずのうちにお客様から沢山の心を受け取っているのだということ。ついつい一方通行の関係で終わってしまうこともしばしばだし、それが普通だと考えている時間も少なくないけれど、もっと多くのお客様とその様な気持ちを共有することが出来たらどんなにお互い嬉しいだろうと思う。そしたら鞄も幸せ者だ。
小売りの現場は毎日在庫管理してディスプレイを変えてご案内をして…とやっていることこそ単調かもしれないが、モノを介して人と繋がれ、それによってまた一つ幸せなモノが増えていく。そんな循環をつくることが出来る幸せな現場だとも思う。この世に一つでも"僕たち・私たちの鞄"を増やしていけるように、僕たちは今日もバッグを売り続ける。