さよならおもちゃ[300文字小説]
テレビ棚と壁の間に、ぬいぐるみが落ちていた。目に痛いピンクとイエローの体に、グリーンの目をした、全然なんの動物か分からない、なにか。ほんとうにかわいくないぬいぐるみ。誕生日プレゼントを何もねだらなかった年に、親が送ってきたものだ。
拾うと、それはやけにあったかくて(まぁ、テレビの熱だろうけど)、例えるなら生きている猫のような温度だった。ビーズが敷き詰められた腹に指を沈めると、苦しいとでも言いたげな反発が返ってくる。埃が室内灯に照らされて、白くきらめきながら散った。うぇ。と小さくうめいた声は、どっちのものだったのだろう。白く毛羽立った頭を撫でて、苦笑いと一緒に蒼いゴミ袋に捨てた。
「ばいばい」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?