散歩びより … 上原美術館 & 下田
去年中に行けば良かった、と少し後悔しています。上原美術館の見ごたえある特別展が、1月10日で終わってしまったので。けれど、ここは仏教美術に造詣が深く、過去のカタログを見ても熱意を感じさせる興味深い展示をしています。伊豆を訪れる方には、少し距離はありますがお勧めの美術館です。
帰りは下田須崎に泊まったので、あわせて少しご紹介します。
上原美術館
所在地は下田市ですが、下田駅から約9㎞北の山間にあります。
〔 沿 革 〕 1983年(昭和58年)上原仏教美術館開設 2000年(平成12年)上原近代美術館開設 2017年 二つの美術館を併合し「上原美術館」に改称、リニューアル
故上原正吉(大正製薬創業者)ご夫妻の寄贈により仏教美術館が建てられ、上原昭二氏の個人コレクションの寄付により近代美術館が建てられました。現在は一つの美術館ですが、仏教美術と近代絵画という二つのコレクションの核があり魅力的です。
上原美術館のカタログ(左から2019年、2021年、2020年、2021年)
終わった展覧会の紹介で気が引けますが、ご参考までに。
企画展 鏑木清方 「築地川の世界」(近代館)
展示された「築地川の世界」の画帖は、清方の少年期の記憶のスケッチのようで、描かれている江戸情緒を残した風景や人々に見入ってしまいます。散歩する娘を描いた「朝涼(あさすず)」に通じる清明な美しさがあります。「築地川の世界」はこちらの収蔵品に入ったということなので、またご覧になる機会はあると思われます。
特別展 「静岡の仏像 + 伊豆の仏像」(仏教館)
仏教館の入り口は、仏像ギャラリーで近現代の130体もの仏像が並んでいます。仏教や仏像を学びたい方にはお勧めで、解説リーフレットも用意されています。
ここを過ぎると展示室です。第五展示室に足を踏み入れ、思わず「あァっ」と声が出て、居並ぶ仏像の迫力はとてつもないものでした。
第5室の展示の一部 「静岡の仏像 + 伊豆の仏像」-薬師如来と薬師堂のみほとけー 上原美術館カタログより
不信心なのかもしれませんが、いくどか仏像を拝見するうちに、もはや彫刻に見えてしまいます。人の願いや祈りを排除するつもりはありませんが、深さのある美術として心奪われます。
それにしても、ここ伊豆にも静岡にも平安時代からの立派なお像がたくさんありました。仏像といえば京都か奈良だというのは、かなり思い込みだったのでしょう。丹念に地域の仏像を調べられた学芸員さんに感謝です。
ところで、十二神将像や二天像は斬新で面白く、まるで今時のアニメが立体化されたみたいです。(アニメーターもこういう像を学んでいるのかも)
次回展示 1月22日~4月17日 上原コレクション名品選 9:30~16:30 会期中は無休 大人1000円/学生500円/高校生以下 無料 「祈りの文字 祈りのかたち」仏教館 「花かおる絵画」近代館
上 原 美 術 館 https://uehara-museum.or.jp/
〒413-0715静岡県下田市宇土金341
下 田
帰りは下田の須崎に泊まり、シーズンオフらしくのどかな様子でした。温泉のある宿も良かったのですが、そこで紹介された恵比寿(夷子)島には忘れがたい厳かな気配がありました。
須崎から橋がかかり、周囲を歩けば15分ほどの小島です。満潮だったので中央の丘を歩きましたが、その頂上付近には小さなお社がありました。そこは古代祭祀場の跡地であり、須恵器や勾玉などが発掘されたそうです。古代から海に生きる人々が祈りを捧げてきた、神聖な島だったようです。
下田は1854年日米通商条約により開港された歴史的な所です。ところでコロナ禍の現在は、物資の輸出入は別にして、人の行き来は厳しく制限され半ば鎖国状態です。こうなると自ずと人々の関心は国内に向き、日本の文化.歴史.社会を捉え直す機会になるかもしれません。開国のきっかけの地に立ちながら、そんな考えが浮かんできて、我ながら不思議なことです。
◎次回は「料理は発見…潮かつお+α」です。