戦略的に 『無視する』 とは? 仕事のTIPS
「無視!無視!」と思うことがあるでしょう。
時に、それは”人”に対して、または”こと”に対して。
「まともに関わりたくない、余計なお世話だ」と。
でも、世の中、無視できないことの方が多いですよね? 我慢、我慢..
特にビジネスの関係になると、まともに受けたくない相手の要求に、「え? 何言ってるの?」と、言い返したい! いや、ガン無視したい!
けど、そうもいかない、子供の喧嘩じゃあるまいし。
実は、交渉戦略において『無視』することは立派なスキルです。
さあ、今日から無視しよう!✨
ただ勘違いしてほしくないのは、交渉において「無視する」とは、必ずしも完全に黙り込んでそっぽを向くことではありません。
そうではなく、「相手の(特定の)発言に正面から反応しない」ということです。
つまり無視 =『巧妙に話題を切り替えること』を指します。
そのやり方は、大まかに次のように分類できます。
その1)その話題を避ける
特定の話題や質問に直接答えず、別の関連性のある話題に切り替えることで、議論を建設的な方向に誘導します。
例: 相手が「これ以上値引きできないんですか?」と聞いた場合、「値引きの話の前に、この条件の価値についてもう少し詳しくお話しさせてください」と切り替える。
その2)その会議・交渉におけるプライオリティ(優先度)下げる
相手が持ち出した話題を「それほど重要でない」と示唆し、会話を流す。
例: 「なるほど、その件については後ほど詳しくお話ししましょう。まずは○○について決める必要があるのではないでしょうか。」
その3)曖昧に応じる
明確な回答を避けることで、相手のプレッシャーを和らげたり、別の方向に注意を向けさせる。
例: 「確かにXXも考慮すべきポイントですね。しかし、他の条件と合わせて精査するのが良いのではないでしょうか。 まず○○については.. 」
その4)タイミングを後回しにする
相手の要求や話題を「後で検討する」と伝えることで、今議論したいテーマに集中します。
例: 「その点についてはこの議題の後、次のセクションで詳しく取り上げたいと思いますがよろしいでしょうか。」
話題を切り替えるべき場面とは、その意義とは?
交渉の焦点を絞る
すべての話題に付き合うと、交渉が散漫になり、本来の目的が見失われる可能性があります。重要なポイントを議論するためには、他の話題を避けることが必要です。
主導権を握る
話題を切り替えることで、交渉の流れを自分に有利な方向に誘導することができます。
感情的な対立を回避
感情的な話題や、不必要な衝突を引き起こすテーマを避けることで、交渉を冷静に進めることができます。
相手の本音を引き出す
話題を無視することで、相手が本当に譲れない点に注力させることができます。重要なポイントは、相手が繰り返し話題に戻すことで浮き彫りになります。
無視戦略を使うための具体的手法、TIPSを以下にご用意しましたので、ご参照ください。
話題切り替えTIPS
共通のゴールに立ち返る
初心者でも簡単に使える方法は、「私たちの目標は何か?」に立ち返ることです。
相手: 「もっと大きな割引をしてください。」
あなた: 「確かにコストも重要ですよね。ただ、このプロジェクトで成功させたいのは、○○の品質を確保することだと思います。そのためには、この条件が必要ではないでしょうか?」
ポジティブなフレーズで話題をリフレーミング
相手の発言を否定せず、「前向きな方向」に自然に誘導します。
相手: 「もっと簡単な方法があると思います。」
あなた: 「そうですね、簡単に進める方法を模索しつつ、この案のメリットも一緒に考えてみませんか?」
具体的な質問で切り替える
会話を切り替えるためには、具体的な質問をするのが効果的です。質問は相手に考えさせ、自然と違う話題に移るきっかけを作ります。
相手: 「スケジュールがもっと短縮できないですか?」
あなた: 「その点、どの工程を最優先で進めるべきだとお考えですか?」
「まず○○に集中しませんか?」のフレーズを活用
複数のテーマが議論される場合、「優先順位を明確にする」スタイルで切り替えることができます。
あなた: 「今おっしゃった点も大切ですが、まず○○を固めることが次の議論をスムーズに進める鍵になると思います。」
相手の発言を繰り返して「少しずらす」
相手の発言を軽く繰り返した後、話題を少しだけ広げる形で切り替えます。
相手: 「この価格では厳しいです。」
あなた: 「価格が重要だという点、よくわかります。ところで、他にご懸念されている点があれば教えていただけますか?」
間を取る(ポーズを活用)
自信を持つのが難しい場合は、すぐに答えようとせず「間」を取ります。沈黙の後、別の話題に切り替えることで自然な流れを作ります。
あなた: (少し黙る)「ちなみに、この条件で合意に至った場合の次のステップについてお話ししてもいいですか?」
初心者でも意識しやすいポイント
相手の意見を尊重する姿勢を示す
「否定する」のではなく、「なるほど、それも踏まえて..」と切り出すだけで相手も受け入れやすくなります。
事前準備を徹底する
話題が迷走した場合に備え、議論の優先順位やゴールを事前に明確にしておくと安心です。
笑顔と落ち着いたトーンを保つ
初心者でも、落ち着いた態度や親しみやすさを示すことで、話題の切り替えが自然に受け入れられます。
そして、できるかぎり準備は必要です。(交渉は全て準備!)
しかしその大部分は、通常の交渉準備を行うことができていれば、ほぼ達成できているに等しいと言って良いでしょう。なぜなら、通常の交渉準備にはすでに次のものを含んでいるからです。
1. 通常の交渉準備
「無視」の準備にもつながる、基本的な交渉準備として以下を押さえます
<相手の情報をリサーチする>
目的: 相手の立場や目標、交渉スタイルを理解しておくことで、どの話題が重要かを予測できます。
方法:
相手が何を優先しているか(価格、納期、品質など)。
相手の業界背景や市場動向。
< ZOPA(交渉可能範囲)とBATNA(代替案)の明確化>
目的: 自分の譲歩できる範囲や、最悪の場合に備えた代替案を準備することで、冷静に交渉に臨めます。
関連性: 自分が譲れない点が明確であれば、それ以外の不必要な議題を「無視」しやすくなります。
<優先順位を明確にする>
目的: 自分にとって重要なポイントを把握しておくことで、それ以外の話題を意識的にスルーできます。
方法:
自分が「必ず守りたい条件」「妥協可能な条件」「重要でない条件」をリスト化する。
<相手の可能な反応をシミュレーション>
目的: 相手がどのような要求や態度を示すかを予測し、冷静に対応できるようにする。
関連性: 感情的な発言や脱線を予測しておくことで、効果的に「話題を無視」して本題に戻る方法を計画できます。
加えて「無視」に特化した準備をすれば、交渉時により安心感が持てます。それらも紹介します。
2. 効果的な「無視」に特化した準備
無視」を戦略的に使うためには、次のような追加準備が役立ちます。
<「無視すべき話題」を事前にリストアップ>
目的:
あらかじめ「本題から逸れる話題」や「議論を長引かせる可能性が高い要求」を把握しておく。
<切り替え用のフレーズを準備>
目的: 実際の場面で即座に使えるフレーズを準備しておくことで、スムーズに話題を切り替える。
「その点も重要ですが、まずはこちらを整理してからお話ししましょう。」
「そのご提案は一旦考慮するとして、次のステップについて確認させていただけますか?」
「興味深い視点ですね。ただ、今回のテーマに戻ると…」
<予測される脱線への対応策を検討>
目的:
脱線した際にどう対処するか、具体的なプランを用意しておく。相手の発言を「部分的に認める」→「話題を切り替える」流れを練習。
相手の脱線が「本当に無視すべき話題かどうか」を即座に判断する基準を用意する。
その上で、具体的な話題切り替えのテクニックをみてみましょう!
話題切り替えのテクニック
質問を投げ返す
「なるほど、その点についてお考えをもっと詳しく聞かせていただけますか?」と質問を返す。
無視すべき質問ほど、根拠薄弱が露呈することが多い。もし破綻しない言い分であれば、むしろ大事な議題を与えてくれているかもしれないから、無視すべきではない、とわかる。
前向きな提案を挟む
「その件に関しては少し柔軟に考えたいと思いますが、まずこちらの提案を検討いただけますか?」と前向きな案を提示して、話題を転換する。否定や後ろ向きな反応は相手から拒否反応を受ける。
ちなみに、相手側が否定や後ろ向き反応を示す場合は、馬脚を表すまで質問攻めにすれば良い。
共通のゴールを再確認する
「その点について議論するのも大切ですが、最終的に双方にとって最適な合意に達するためには、まず○○について決めるのが重要だと思います」と共通の目的を強調する。「そもそもそこを目指してますよね」という立場だ。
最後に、注意すべき点ですが、以下の2つです。
完全な無視は避ける
相手が重要だと思っている話題を完全に無視すると、不満や反感を買う可能性があります。適度に「聞く姿勢」を示しつつ、切り替えを図るのが重要です。柔軟性を持つ
あらかじめ「無視すべき」と決めていても、交渉中に相手の反応によって話題の重要性が変わることがあります。常に柔軟に対応できる準備も大切です。
効果的な「無視」の準備として、通常の交渉準備に加え、「無視すべき話題のリストアップ」や「切り替えフレーズの準備」、さらには脱線対応策の検討が重要です。これらを実践することで、交渉の流れをコントロールしやすくなります。
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