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交渉の3段階とは?=「理解」「納得」「行動変容」 (その3) 行動変容に導く
交渉の最終フェーズ「行動変容の段階」は、相手があなたの提案や合意内容を「理解」し、「納得」した結果として、確実に行動に移すことを目指します。この段階は交渉の最終目的であり、説得を実行に結びつけるためのスキルと戦略が求められます。
(「理解」「納得についてはこちら)
『行動変容を得るには?』
1. 行動変容の本質
行動変容は、相手の態度や状態を納得から実行に移行させるプロセスです。この段階では、相手が行動を起こすための心理的障壁を取り除き、行動を促進する仕組みを設けることが重要です。
2. 行動変容の理論的基盤
(1) 行動変容の段階的進行の理論
行動変容は段階的に進むという考え方です。
無関心期:
相手が行動を起こす必要性を感じていない状態。解決策: 提案の必要性や利益を再確認する。
関心期:
行動の可能性について検討し始める状態。解決策: 明確なメリットを示し、リスクを軽減する情報を提供する。
準備期:
行動を起こす準備を整え始める状態。解決策: 具体的な手順や支援を提示する。
行動期:
実際に行動を起こす段階。解決策: 実行の妨げになる要因を排除する。
維持期:
行動を継続する段階。解決策: 成果を評価し、さらなる支援を提供する。
(2) インセンティブ理論
また、人が行動を起こすには、適切な動機付け(インセンティブ)が必要です。
ポジティブインセンティブ:
行動の結果として得られる利益を強調する。例: 「この契約により、貴社の利益率が10%向上します。」
ネガティブインセンティブ:
行動しない場合のリスクを示す。例: 「この機会を逃すと、市場シェアが低下する可能性があります。」
(3) 社会的証明の活用
他者が同様の行動をとって成功した事例を示すことで、相手の行動を促す。
例: 「他の企業でもこの戦略を採用し、業績が20%向上しました。」
3. 行動変容を促す具体的な戦術
(1) 実行可能な計画の提示
相手が次のステップを明確にイメージできるよう、具体的な行動計画を提案します。
具体的な手順:
「まず契約書を確認いただき、その後サインをお願いします。」タイムラインの設定:
「この提案を採用する場合、3か月以内に成果が見込めます。」
(2) 実行をサポートする環境の提供
行動に必要なリソースや支援を提供し、相手が動きやすい環境を作ります。
リソースの提供:
「必要なデータや資料はこちらで用意します。」専門家の支援:
「導入時のトレーニングは弊社のチームがサポートします。」
(3) 行動の障壁を取り除く
相手が行動を起こす際の心理的・実務的な障害を特定し、解決策を提示します。
コストの懸念への対応:
「初期費用を分割払いにするプランをご用意しました。」リスクの軽減:
「契約後1か月以内ならキャンセル可能です。」
(4) フォローアップとモニタリング
行動変容が実際に進んでいるかを確認し、必要に応じて支援や調整を行います。
定期的な確認:
「このプロセスについて何かご不明な点はありますか?」成功事例のフィードバック:
「このステップを実行されたことで、確かな進捗が得られました。」
4. 行動変容を促す心理的要素
(1) 信念の強化
相手が行動の正当性を信じるよう、提案の価値を繰り返し強調します。
「この提案は、貴社の長期的な成長に直結するものです。」
(2) 小さな成功体験の提供
初期段階で成果が見えやすい行動を提案し、モチベーションを維持します。
「まずは1つのプロジェクトで試してみましょう。その結果を見てから次のステップを決めることができます。」
5. 注意点
無理強いしない:
相手が心理的な準備を整える時間を尊重する。合意内容を明確にする:
曖昧な部分を残さず、双方が理解した状態を確認する。信頼関係を損なわない:
行動が進まない場合でも、相手を責めずに新たな解決策を模索する。
行動変容の段階の成功がもたらす効果
具体的な結果の実現:
提案が実行に移され、交渉の目的が達成される。継続的な関係構築:
行動変容が成功すれば、双方の信頼関係が強化される。次の交渉への良い影響:
今回の行動変容が成功体験となり、次回以降の交渉がスムーズに進む。
「行動変容の段階」は、交渉の成功を具体的な結果として形にするフェーズです。この段階で相手が行動を起こせるように、計画や支援を丁寧に設計することが重要です。
次の会話を例に、行動変容がどのように進のか見ていきましょう!✨
『池田さんはB社の営業担当です。山下さんはA社の担当者で、B社に物流プラットフォーム導入を委託するかどうか、検討中です』
背景
池田さん(B社)は物流プラットフォームの導入に向けて、山下さんの理解と納得を得ることに成功しました。(前回参照)
しかし、山下さんが社内で承認を取り、実際に行動に移すための一歩を踏み出すには、さらなる後押しが必要です。池田さんは行動変容を促すテクニックを使い、山下さんが自発的に次のステップを進めるように仕向けます。
池田さん(売り手側 B社):
山下さん、ここまででご提案についてご理解いただき、納得していただけたこと、本当に感謝しております。このプロジェクトが御社にとって大きな価値をもたらすと確信しています。一つお伺いしたいのですが、次のステップとして、社内でどのように進むご予定ですか?
山下さん(A社):
そうですね。まずは、物流部門の責任者に提案内容を共有してから、経営陣に確認を取る必要があります。承認には少し時間がかかるかもしれません。
池田さん:
それは重要ですね。実は、これまでの経験上、経営陣向けの資料で意思決定がスムーズに進む傾向がありまして、今回その叩き台を用意してきたのですがご覧いただけますでしょうか。それを参考に、資料の作成を行えると思います。私も直接お手伝いすることも可能ですので、いかがでしょう?
山下さん:
それは助かりますね。自分だけでまとめるよりも効率的に資料がまとめられそうです。
池田さん:
ありがとうございます!では、山下さんが特に経営陣に伝えたいポイントをお伺いして加えながら、プレゼン資料を作成しましょう。
山下さん:
そうですね。物流部門が聞きそうなことはあらかたわかっていますから、その辺りを作るのに協力いただけると助かります。
池田さん:
はい、例えば、物流部門の効率化やコスト削減効果を具体的な数値で示すことで、説得力を高められると思います。実際に資料を準備する上で、山下さんにとって最も重要な要素は何でしょうか?
山下さん:
そうですね。コスト削減の具体性も大事ですが、初期費用を回収できる見込みの信頼性が重要です。
池田さん:
かしこまりました。では、そうしたポイントを強調した資料を作成しましょう。さらに、経営陣への説明の場に私が同席し、直接ご質問にもお答えできればと思うのですが、いかがでしょう?
山下さん:
経営陣にはうちの上司から短いプレゼンをしますので、私も参加できます。でも物流部門との打ち合わせは来週予定しますから、オブザーバー参加いただけると助かります。参加可能か確認しますね。
池田さん:
ありがとうございます!最後に、私たちとしても、御社が迅速にこのプロジェクトを進められるよう全力でサポートしたいと考えています。この案件が年内にスタートできると、コスト削減効果が早期に反映され、来年の予算編成にも好影響を与えられると見込んでいます。この点についても、強調できるかと思います。
山下さん:
確かに年内スタートは理想的ですね。
池田さん:
そのためにも、次の承認を得るステップをお手伝いできればと思います。資料をアップデートして明日中にはお送りしますので、来週の初めには、ご一緒にレビューできますか? TEAMSでも良いですので、時間のご都合がつけば。
山下さん:
かえって助かります。そのように進めさせてください。
池田さん:
ありがとうございます!それでは、引き続きよろしくお願いいたします。
わかりやすく作りますね。
さて池田さんの「行動変容の段階」での工夫は何だったでしょうか?
具体的な行動を提案:
次のステップとして資料作成とミーティングの日程調整を具体的に提示し、山下さんに実行を促した。
協力を申し出る:
資料作成やミーティングへの同席を提案し、サポート体制を明確化することで山下さんの負担感を軽減。
緊急性の強調:
年内スタートのメリットを提示し、行動のタイミングに対する意識を高めた。
相手に主体性を持たせる:
山下さん自身の意見を反映した資料作成を提案し、自発的な行動を引き出した。
これらのアプローチにより、池田さんは山下さんの心理的・実務的な障壁を取り除き、自発的な行動変容を促すことに成功しています。
この回を含む3回で、『理解』『納得』『行動変容』の三段階を見てきましたが、いかがだったでしょうか?
交渉は、この3つのプロセスを踏むことで成功に導かれます。
もし池田さんのアプローチが納得段階でアクションを終えていたら、翌週、山下さんに連絡しても「いやあ、忙しくて資料準備に手が回らなくて」などと言われ、判断も実行も何週間も先になり、池田さん自身も仕事が手離れしないままになります。
理解の段階だけ、または、納得の段階だけで自分の責任は全うした、と思いがちですが、交渉の目的を踏まえると、行動変容を完結させる一手間が、自身の利益にもなります。
さて、次回はまた視点を変えたテーマで交渉についてお届けしたいと思います!
参考図書)
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