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コミュニケーションにおける『おとり』とは?

交渉における「おとり」とは、相手に意図的に目立つ条件や提案を提示し、それに注意を向けさせることで、自分が本当に達成したい目的や条件を有利に進める手法です。この戦術は、相手が「おとり」の方に気を取られることで、本来の重要な条件に対する交渉が緩くなるという心理的な効果を利用します。BtoBの交渉では比較的複雑な「おとり」がありますが、今回はわかりやすくBtoCのケースでみていきたいと思います。

「おとり」の具体的な使い方

  1. 高額なオプションを提示する

    • 商品を販売する際に、非常に高額なプレミアムプランを提示します。このプランは現実的にはあまり選ばれませんが、その後で提示する中価格帯のプランが「お得」に見える効果を生み出します。

  2. 譲歩の材料として使う

    • 最初に相手が受け入れにくい条件を提示します。その後、それを引っ込めることで「譲歩している」と見せかけ、自分の本命の提案をより受け入れやすくする。

  3. 注意をそらす

    • 複数の条件を同時に交渉する場合、あえて重要でない条件を目立たせ、相手の注意をそちらに向けさせます。相手がそれに集中している間に、重要な条件について自分に有利な決定を得る

日常の例

  • 不動産交渉: 意図的にやや高額な物件を最初に見せ、その後、ターゲットとなる価格帯の物件を「安くて賢い選択肢」に見せる。

  • 車の販売: 個別オプションを提案した後で、パッケージオプションを提示し、相手に「お得なパッケージだ」と感じさせる。

これは実際に広く行われている価格戦略(アンカリング効果を活用した戦術)です。
よく引き合いに出される「松竹梅」ランク付けの背後にある心理的効果は、多くの飲食店や販売業で意図的に活用されています。


松竹梅戦略の心理的背景

  1. アンカリング効果

    • 人は最初に提示された高額な選択肢(松)を「基準」として無意識に参考にし、中間の選択肢(竹)を「妥当でお得」と感じる傾向があります。

    • 最安値(梅)は「質が劣るかもしれない」と思わせる効果を持つため、自然と真ん中の竹に目が行きます。

30万円の腕時計はとても高額ですが、100万円の商品をいくつか見せられた後では、安く感じますよね。もう、3万円の時計を選べない体になってしまいます。

  1. コンプロマイズ効果(妥協効果)

    • 人は極端な選択肢を避けて、中間の選択肢を選ぶ傾向があります。竹は心理的に「安全」で「合理的な選択肢」に見えるよう設計されています。どっちに転んでも、まあ、損しないかな?という感覚。


実際に松竹梅戦略がよく使われる場面

  1. 飲食店のコースメニュー

    • 例: 高級寿司店や料亭で「松」コース(1万円以上)、「竹」コース(7千円程度)、「梅」コース(5千円程度)を設定。客の多くが竹を選びやすいようにして、利益率が高い竹をメインに売る。

  2. 家電や電子機器

    • 高価格帯モデル(松)を設置して、実用上は遜色ない中価格帯モデル(竹)の価値を相対的に高く見せる。

  3. ウェブサービスのプラン

    • 「ベーシック(梅)」「スタンダード(竹)」「プレミアム(松)」。ベーシックは何かの時に不安だし、とはいえ、プレミアムほどはいらない。やっぱり「竹」か、と。松と梅が存在しなければ、果たして竹を選ぶのか?コンプロマイズ(妥協)の意識が支配しています。


松竹梅戦略の狙いと効果

  • 竹が主力商品であり、店側が最も利益を得られる設計になっています。

  • 松は「おとり」としての役割を果たし、竹を割安に感じさせる効果を高めています。

  • 梅は「選択肢の幅を広げるため」と「コストパフォーマンス重視層の取り込み」のために存在します。


多くのマーケティングや消費者心理学の研究で、このような価格設定が実際に消費者の意思決定に影響を与えることが実証されています。また、企業側もこの心理を理解しており、飲食業界や小売業界で意図的に採用されるケースが多いです。


松には「おとり」以外に意味がない?

『利益最大化のカギ』

  • 竹が主力かつ利益率も高い設計がベスト

    • 竹を選ぶ顧客が多い設計をしつつ、竹の利益率を最適化すれば、売上と利益の両方を最大化できます。

  • 松の役割を適切に設計することが重要

    • 松は「おとり」として竹の価値を引き立てる役割を担うことが多いですが、少数の松を購入する顧客から高い利益を得られる場合、松自体が重要な収益源にもなります。多くの顧客が毎回選ぶものではありませんが、選ぶことで特別感や満足感を得られますし、店の高級感を演出することもできます。

企業側は利益を最大化することが狙いですから、このような手法を使います。しかしこれは騙しているというよりも、顧客がその判断に満足感を得ているのであれば、顧客の利益にもなっているのではないでしょうか。竹を選んで安心する、松を選んで特別感を感じる、梅を選んで賢い選択だと思う。ただ、家や車など、高額な買い物には慎重になるべきかもしれませんね。

さて、今回の事例はBtoCでしたが、もう少しややこしいBtoBについても機会があれば説明を試みたいと思います。また、お寄りいただければ嬉しいです。




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