誰でも使える交渉術! 『利害の一致』
交渉において、利害の一致(mutual interest alignment)を目指す場合、ただ単に妥協するのではなく、双方にとってメリットがある「ウィン・ウィン」の解決策を見つけることが重要です。そのためには、以下のTIPSを活用して進めていくと効果的です。
1. 共通の目標を明確にする(Define a Common Goal)
TIPS: 「我々は同じ方向を向いている」というメッセージを伝える
まず、交渉の早い段階で、双方が共通して望んでいる目標を確認します。この目標を明確に示すことで、「対立する相手」ではなく、「協力するパートナー」という認識が生まれます。例えば:
「私たちは、両社が利益を最大化できる長期的な関係を築きたいと考えています。」
「お互いの顧客満足度を高めるための最適な解決策を一緒に探していきたいです。」
ポイント
相手が警戒心を持っている場合、特にこのメッセージは有効です。「敵対する相手」ではなく、「同じチームで問題を解決する仲間」という印象を与えます。
2. ZOPAを探る(Explore the Zone of Possible Agreement)
TIPS: ZOPA(交渉可能範囲)の確認
利害が一致する範囲を探るには、**ZOPA(Zone of Possible Agreement)**を見つけることが重要です。ZOPAとは、双方が合意可能な条件の範囲を指します。この範囲を把握するためには、以下の質問を意識して相手に聞くと良いでしょう。
「どのような条件があれば、お互いに満足できると思いますか?」
「これはお互いにとって実現可能な条件だと感じますか?」
ポイント
あくまで提案や質問形式でアプローチし、押し付けずに相手の意見を引き出すことが重要です。相手のBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement:交渉不成立時の代替案)も意識することで、ZOPAの見極めがしやすくなります。
3. ウィン・ウィンのアイデアを出す(Brainstorm Win-Win Solutions)
TIPS: 「拡大するパイ」の視点で考える
ウィン・ウィンの解決策を見つけるためには、「パイを分ける」だけでなく、「パイを拡大する」視点が必要です。これは、交渉の内容を広げて、双方にとってより価値のある提案を作り出すことを意味します。例えば:
コスト削減の交渉をしている場合、単なる価格引き下げではなく、共同で物流を効率化するプロジェクトを提案する。
品質の要求が高い場合、品質基準を見直し、共同で品質改善の取り組みを進める提案をする。
ポイント
「自分たちの要求を満たすために何を譲歩すべきか」ではなく、「お互いにとって新たな価値を生み出すために何ができるか」という視点を持つことが、交渉を円滑に進める鍵です。
4. 「Yes, and」アプローチを使う(Utilize the "Yes, and" Approach)
TIPS: 相手の提案に肯定的に応える
交渉の中で、相手の提案に対して「No」や「しかし(But)」を使うと対立を招きやすくなります。その代わりに、「Yes, and」のアプローチを使います。これは、相手の提案を一度受け入れたうえで、自分のアイデアを追加する方法です。
「その提案は良いですね。そして、さらに私たちが考えているのは…」
「はい、私も同感です。そのうえで、別の選択肢としてこういう案も考えられます。」
ポイント
相手の提案を受け入れつつ、より良い方向性を探ることで、交渉が対立から建設的な話し合いに変わります。
5. 自分のBATNAを理解する(Know Your BATNA)
TIPS: BATNAを把握し、自信を持つ
利害が一致する方向に進めるためには、自分自身のBATNAをしっかり理解しておくことも重要です。BATNAが明確であれば、無理に妥協する必要がなくなり、交渉においても自信を持って進めることができます。
「この提案が実現しなければ、私たちには別の選択肢があります。」
「お互いにとって良い結果を目指したいですが、私たちには別のプランも検討しています。」
ポイント
BATNAを示唆することで、相手にとっても「この交渉で合意することが有益である」と感じてもらいやすくなります。
利害の一致を目指す交渉は、共通の目標を確認し、ZOPAを探り、ウィン・ウィンの解決策を見つけることが基本です。そして、相手の提案に対してオープンに受け入れる姿勢と、自分のBATNAを把握したうえで交渉に臨むことが重要です。これにより、対立ではなく協力の精神で交渉が進みやすくなります。
次のような具体例で見てみましょう!
『高校生のタケルは、年に1回開かれるスポーツ大会でクラスの取りまとめ役になっています。各クラスから一つの出し物を行うのですが、タケルが所属するクラスからは、ダンスをしようということまで決まりました。ただし、男の子を中心に、かっこいい体力を使うダンスが良いという意見、また、女の子を中心に、スタイリッシュな美しいダンスが良いという意見に別れています。』
タケルとクラスメイトたちの会話
タケル:「みんな、ダンスの方向性について話し合いたいと思います。2つの案が出されていますが、一つ目は、結構体力のいるダンスですが、キレキレのかっこいい系ですね。二つ目は、どちらかと言えばスタイリッシュで美しいダンスです。それぞれのアイデアがあって、それぞれ素晴らしいと思いますが、このクラスとして全員が楽しめる出し物にしたいので、案をまとめたいと思います。」
男子生徒A:「そうだな。やっぱり運動部の男子が多いから、ダイナミックな動きが目立つダンスにしたいよ。アクロバティックな技も入れて、観客を驚かせたいんだ。」
女子生徒B:「うん(Yes)、でも私たちは、美しい振り付けやシンクロした動きも取り入れたい。全員で揃った時のダンスは決まるし、新体操のリボンとか道具を使ったら華やかだと思うんだよね。」
タケル:「どちらの意見もいいポイントがあるね。僕が思ったんだけど、これらをうまくミックスできないだろうか?
例えば、最初はスタイリッシュなシンクロダンスで始めて、中盤から男子が中心の体力を使ったダイナミックなパートに移るとか。そして最後はみんなで揃ってクライマックスを迎える形にする。」
男子生徒A:「それなら、僕たちの見せ場もあるし、全体が盛り上がりそうだな。」
女子生徒B:「そうね!シンクロした部分もあれば、ダイナミックな動きもあって、メリハリが出るよね。 音楽もガラッと変えて!」
タケル:「そうだね。じゃあ、みんなで具体的な振り付けを考えて、パートごとに役割を決めていこうか。」
全員:「賛成!」
交渉に使われたTIPSの解説
1. 共通の目標を確認する
タケルは最初に、みんなの意見が異なることを認識しつつ、「みんなが楽しめる出し物」を目標として掲げました。これにより、対立しているわけではなく、全員が同じ目標に向かっていることを確認させています。
TIPS:「私たちは同じ目標を持っている」という意識を持たせることで、協力的な姿勢を促すことができます。
2. お互いの意見を尊重する
タケルは、男子と女子それぞれの意見を肯定的に受け止めています。否定せず、「どちらの意見も素晴らしい」と評価することで、対立を避けています。
TIPS:「Yes, and」アプローチを使い、相手の意見に対して肯定的に受け入れつつ、新しい提案を加える形にしています。
3. ZOPAを探る
タケルは、双方の意見が反映される妥協点(ZOPA)を探しました。具体的には、「スタイリッシュなシンクロダンス」と「体力を活かしたダイナミックなダンス」を組み合わせるという提案です。これにより、どちらの希望も部分的に満たす形を取っています。
TIPS:ZOPAを見つけるために、両者の希望する要素を組み合わせ、新たな価値を生み出す提案を行っています。
4. ウィン・ウィンの解決策を提案する
タケルの提案は、「最初にシンクロダンス、中盤でダイナミックなパート、最後に全員で揃う」という構成です。これは、両方のグループの希望を叶えつつ、全体の構成としてもメリハリが出るため、観客にとっても楽しめる内容になります。
TIPS:「パイを拡大する」視点で考え、ただの妥協ではなく、全体が盛り上がるアイデアを出しています。
5. 協力的な姿勢を強調する
タケルは最後に、「みんなで協力しながら進めていく」という言葉で締めくくっています。これにより、チーム全体のモチベーションを高め、クラス全員が同じ方向に進むように促しています。
TIPS:交渉の終わりに協力を呼びかけることで、合意した内容が実行されやすくなります。
タケルの進め方は、交渉における基本的なTIPSを効果的に活用したものでしたね。共通の目標を明確にし、お互いの意見を尊重しながら、ZOPAを見つけてウィン・ウィンの解決策を提案しました。
さらに、協力的な姿勢を強調することで、クラス全体が一つにまとまりました。対立は避けられ、建設的な結果が得られた背景には、こういった交渉のTIPSが関係したと言えますね。
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