アニオタが考察する「Bling-Bang-Bang-Born」と「堕天」
初めましての方ははじめまして。フォローしてくださってる方はありがとうございます。ネギマと申します。
長い前置き
さて、この記事を読みに来てくださった方はおそらく2パターンあると思っていまして、
①特定の単語で検索したら引っかかったので読みに来た。
②元々Noteをフォローしていたが珍しく更新があったので読みに来た。
そのどちらの方にも謝らないといけないと思っております。
まず①の方、ありがとうございます。
おそらくBBBBかCreepy Nutsあたりで検索していただいたと思うのですが、こちら音楽に全然詳しくないズブの素人の記事でございます。ヒップホップカルチャーに関しては「フリースタイルダンジョン」から入ったにわかもにわか。日本語ラップの歴史についても浅ければ、ラップクラシックの知識もほとんどない、ガチのヘッズの方からしたら「何言ってんだコイツ?」的な内容てんこ盛りだと思われますので、どうかご容赦下さい。ラップ素人がなんか書いてるなー程度で見ていただければ幸いです。
次に②の方、お待たせいたしました。
おそらく謎解き関係がお好きな方とお見受けいたします。ですがタイトル通り謎解きとは何の関係もない、音楽シロートが好きなアーティストと曲について熱苦しく語るだけの記事となっております。おそらく興味はあまりないかと思われますが、もしよければちょっとだけ見ていっていただければ幸いです。今度謎解きに関する記事も書きます。そのうち。きっと。多分。
Creepy Nutsについて語りたい
はい、長い前置き、もとい言い訳が終わりましたので早速本題に入りたいと思います。今回の記事ですが、ヒップホップ等に興味がない方が読んでくれているかもしれないので、できるだけ細かく説明しながら書いていこうと思います。そのためヘッズの皆様におかれましては、回りくどい書き方が続くと思われます。ご容赦ください。
さて、まず「Bling-Bang-Bang-Born」(通称BBBB)という曲、ご存知でしょうか。YouTubeやTikTokなどいろんなところでバズりまくり、インターネットに触れていると避けて通るのが難しいくらいのこの曲。どこかしらで名前程度は見たことがあるのではないでしょうか。
1月7日にリリースされ、AppleMusicとSpotifyの国内ストリーミングランキング1位に、2024年3月20日公開のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”(世界で聞かれている日本の曲のランキング)では8週連続で1位、集計対象の9カ国全て(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、ブラジル、タイ、シンガポール、韓国、インド)で首位を獲得し、音楽界隈を世界的に賑わせています。その「Bling-Bang-Bang-Born」をつくったのが「Creepy Nuts」です。
そのCreepy Nutsとは何者かという話なんですが、R指定さんとDJ松永さんの二人組ユニットです。まずDJ松永さんはDJの世界大会で優勝している文字通り「世界一のDJ」です。(ここで指しているDJとはレコードを擦ったり2つのターンテーブルを切り替えたりなどの手法でレコードを楽器のように扱う技術のことを指します)
次にR指定さんですが日本最大のフリースタイルラップバトルの大会で三年連続優勝している「日本一のラッパー」です。
で、その二人が組んだのがCreepy Nutsです。こう書くと、組んだのは世界一、三連覇を取ってからのように聞こえますが、二人とも世界一、三連覇を取ったのはユニットを組んだ後の話です。
そんなCreepy Nutsの何について語りたいかというと、
「R指定さんはコラボ先と自分たちの共通点を見つけるのがうますぎる」
って話をしたくてですね。何のこっちゃだと思うので順を追って説明していきますね。まずは今大ヒット中の「Bling-Bang-Bang-Born」がどんな曲なのか、から。
「Bling-Bang-Bang-Born」ってどんな曲なのか
さて、まず話を聞いていただくためにまずは楽曲を聴いてもらわないと話にならない、ということでまずは今大ヒットしているその「Bling-Bang-Bang-Born」を聞いていただきましょう。もうすでに聞いたことあるという方は飛ばしてもらって大丈夫です。
こちらテレビアニメ「マッシュル-MASHLE-」のOPテーマ曲として制作された楽曲です。くりかえし言いますがアニメのOPです。アニメソングです。
はいお聞きいただけましたでしょうか。
いかがですか?どんな印象でしょうか。多分なんですけど「アニソンぽくない……」そんな印象を持ったではないでしょうか。私は持ちました。アニメ大好きで長いことアニオタやっておりますが、こんな曲調のアニソン今までほとんど聞いたことがないです。
この特徴的なビートについて調べたのですが、「ジャージークラブ」という2000年代初頭に生まれたブレイクビーツの一種だそうです。その特徴は強いキックが1小節に5回入るビートで、詳しくいうと、1小節の中で前半は4つ打ち、後半は3連符という構成。いや、正確にいうと3連符ではなくて「付点8分と16分と8分」でー……。(音ゲーマーなのでこういうとこ細かい)まどろっこしいので具体的な例を挙げて説明します。
……すみません、音楽知識が乏しいため、やばいTシャツやさんの「あつまれ!パーティーピーポー」と、その元ネタのLMFAOの「Shots」しか思いつきませんでした……すみません……。
とにかく、上記の「シャッ!シャッ!シャッシャッシャッ!」のリズムです。
ここに、通称Bed Squeak(ベッドの軋み音)と呼ばれるギコギコという音とか、その他特徴的なサンプリング音が乗ってくるとさらにジャージークラブっぽくなってきます。もう「Bling-Bang-Bang-Born」はまさにそれ。完全にジャージークラブです。(余談なんですが、ここ最近Creepy Nutsが出した曲は「ビリケン」も「二度寝」もキックが1小節に5回のジャージークラブなんですよね。もしかしたら次出すアルバムは全曲ジャージークラブだったりして)
で、さらにメロディーは「クラーベ」と呼ばれる3連符っぽいやつと8分音符が交互に来るラテン系のリズムで構成されていて、これもまたアニソンではほとんど聞いたことがありません。これも具体的な例を挙げて説明したかったのですが、音ゲーマーなのでこれしか浮かびませんでした……。
これの冒頭の「カッカッカッ、カッカッ」って音ですね。
にしてもビートもメロディもこの3連符っぽい奴(付点8分と16分と8分)が入っていて、DJ松永さんの中でこのリズムのブームが来ているのかなーと考えたら、Creepy Nuts、ずっと前からこのリズムめちゃくちゃコスってました。
というのも、Creepy Nutsはオールナイトニッポンでラジオをやってたんですけど、そのラジオのコーナーに「大江戸シーラン」ってのがありまして……
「大江戸シーラン」とはエド・シーランのShape Of Youのイントロ部分に勝手に歌詞をつけてあげよう!というありがた迷惑なコーナー。この曲のイントロがまさにそのリズム。このコーナー5年もやってましたからね。そりゃ松永さん好きだわこのリズム。
この辺の音楽的な話について、詳しい方がものすごくわかりやすく解説してくださっている動画を見つけたので貼っておきます。
それにしてもDJ松永さんってDJ世界チャンピオンなのでDJ技術がすごいのはわかるんですが、DJができるのと作曲ができるってのは別の能力なので、演者も作曲もできるって多才すぎません?大谷翔平か??
ええっと、なんの話でしたっけ。ああそうだBBBBの話だ。
アニソンとしての「Bling-Bang-Bang-Born」
この曲をアニメのタイアップ曲として提出したCreepy Nutsもすごいし「これで行きましょう!」って受け取ってぴったりなOP映像つけたアニメ制作側の度量もすごいと思います。
ちょっとここで軽くアニメソングの歴史についても触れていきましょう。ものすごく乱暴にアニメソングの歴史を説明すると、
最初期、歌詞の中にアニメのタイトルが出てくるようないわゆるアニメソングの「昭和系」(マジンガーZとか)
アニメが認知され始めてアーティストが楽曲提供をするようになるが特に作品の内容が反映されているわけではない「平成初期系」(昔のコナンのOPとか)
声優がアイドル化しアニソンも歌うようになった「平成中期系」(ハレ晴レユカイとか)
アニソン専門の歌手が増えてきた「平成後期系」(まどマギのコネクトとか)
アニメや漫画で育ってきた世代がアーティストになり、作品の内容が反映された曲が提供されるようになった「令和系」(YOASOBIのアイドルとかホルモンの刃渡り2億センチとか)
ざーっくり分けるとこんな感じだと思います。(主観です、異論はあると思いますがご容赦ください)
で、この「Bling-Bang-Bang-Born」はどれに当たるかというと、もうまさに令和系そのもの、アーティストが提供していて、作品の内容が歌詞に反映されたタイプの「アニソン」になります。曲調こそアニソンでは全く聞いたことがない曲調ですが、歌詞を見るとしっかりとタイアップした作品を反映した内容になっています。
でも、この曲はそれだけではなくて、それと同時にR指定さん自身のボースティング(相手を下げるディスとは逆に、自分がいかに優れているかを誇示するラップのスタイル)を行っているダブルミーニングの曲になっています。
この記事では特にここを掘り下げたいと思っています。「コラボ先と自分たちの共通点を見つけるのが上手い」って話ですね。
「Bling-Bang-Bang-Born」歌詞考察
ではやっとBBBBの歌詞を考察していきましょう。繰り返しになりますがズブのラップ素人独自の解釈になりますので、温かい目で読んでいただけるとさいわいです……。
ではBBBBの歌詞がどのように「マッシュル」という作品のアニソンと、R指定さんのボースティングになっているかを見ていきたいのですが、その前に、「マッシュル」がどういう作品かざっくり解説。
さて、では改めてBBBBの歌詞を見ていきましょう。まず冒頭。
ここはあらゆることを己が筋肉のみで解決してしまう主人公のマッシュを見た周りの反応を、大袈裟なリアクションを羅列し、コミカルな歌い方をすることで表現し、同時にギャグ漫画であるマッシュルという作品自体の雰囲気も表しているように感じます。それと同時にR指定さんの、オートチューン(音程補正)や早回しなども使わず生身でこんな高度なラップできるぜ、というブースティングになっているように思います。
上記の通り、先日「THE FIRST TAKE」(アーティストに一発撮りでパフォーマンスをしてもらう様子を届けるYouTube音楽チャンネル)にて、BBBBを披露し、数々の声色を瞬時に使いこなし、脅威の滑舌を見せつけました。まさに「これを生身で?」を体現しています。
曲中繰り返され、耳から離れないこの呪文のようなフレーズ
これについては2番で触れたいと思います
ここも同様にマッシュの凄さとR指定のボースティングのダブルミーニングになっています。ちなみに最後の「iceよりicy」ですが、「ice」とはヒップホップのスラングで「ダイヤや宝石」のことを指します。なので「お前の宝石より俺の方が輝いている」的なニュアンスだと思います。あと、「ice」には「覚醒剤」といった意味もあるので「薬物なんかより俺の方が刺激的」という意味あるのかもしれません。(Creepy Nutsは過去に「合法的トビ方ノススメ」という薬物批判の曲も出しています)
「出来ないことばっかり」「あ、キレてる…呆れてる周り」という歌詞は、マッシュルの世界では何もかもが魔法ありきで、魔法を使えない=何も出来ない扱いなので、マッシュのこと。そして同時にR指定さんのことも指しています。というのも、俺すげぇ的なブースティングが連続した後で意外かもしれませんが、Creepy Nutsは過去には結構ネガティブな曲も出しています。楽曲「たりないふたり」では自身を指して「社会不適合者」と歌っていますし、大の遅刻癖があり、ラジオのゲストや大きな音楽フェスに遅刻したこともあります。自身の遅刻癖は「グレートジャーニー」という曲の中でも触れています。
そんな出来ないことばっかりなマッシュとR指定さんですが「恵まれてる家族友達」と自身はhappyであると歌っています。
あと、追加で「あ、キレてる…呆れてる周り」の部分は他にも、マッシュの筋肉がキレている(ボディビルの大会の掛け声とかで使われる「筋肉キレてるよー!」的な)つまり「筋肉がすごすぎて呆れている」という意味もあるかと。
「教科書にない、問題集にない超badな呪(まじな)い」の部分、「マッシュル」は魔法学校が舞台なのでこういう表現なのかな、と。そして、ここから自分を高めるためのおまじないが始まります。
マッシュルは魔法のある世界なので白雪姫からの引用でブースティングをしています。「鏡よ鏡、この世界で1番最高なのは?」(鏡の答えを待たずに)「それは俺!だよね知ってる」といったニュアンスでしょうか。ここのフレーズはメロディーの小気味良さも相まって自信満々な感じが大好きです。
(余談ですが、海外の方がBBBBを聴くリアクション動画を見ると、このフレーズの評判がすこぶるいいです。この「自分が最高なことを確認する」という行為が欧州の人たちに合っているのかも)
耳から離れないキャッチーなサビです。アニメのOPでは無表情なマッシュが踊っているシーンがシュールで面白く、その真似しやすい振り付けがTikTokをはじめSNSで大バズりしました。
この部分の意味は後ほど。
「Eyday」は「Everyday」つまり「いつも、いつでも」のスラング。「Flex」はヒップホップにおいては「(自分の凄さを)魅せつける」という意味のスラングですが、この単語、本来の意味は「関節や筋肉を曲げる」という意味。そこから「筋骨隆々の男たちが筋肉を見せつける様」ひいては現在の「魅せつける」というスラングが生まれた経緯があるので、マッシュの筋肉とR指定さんのボースティングを同時に表す上でこれほどぴったりな単語はありません。「don’t test」は「試すな」つまりは「舐めんな」的な意味で使われます。
なのでここはR指定サイドは「いつでも俺のままでいるだけで俺は凄さを見せつけられる、誰も口を挟めない(舐めんな)」マッシュサイドは「普通にしてるだけなのに僕の筋肉を魅せつけることになってしまう」と言った感じでしょうか。
以上が1番の歌詞です。アニメで流れるのはここまで。
2番はR指定さんのボースティング要素が多くなってきますが、「マッシュル」のダブルミーニングも引き続き入っています。
「bling」はスラングでキラキラした宝石、ひいては輝く、成功を収めると言った意味です。ここはR指定さん自身の自虐と、それでも俺は成功を納めたというボースティングになります。
「学歴はない(HIPHOPカルチャーでは箔がつくと言われる)前科もない落ちこぼれだけれども余裕で成功している」「この脳味噌の存在が文化財レベルの宝だ」「高級車を買えるほど成功してるけど免許は持ってない。愛車は新幹線のグリーン車だ」「日本全国各地を揺らす逸品、それが宝石のような俺のベロ」
こんな感じでしょうか。
ここの「高級車は買えるけど免許はない」というちょっと格好のつかない表現がR指定さんの親しみやすい人柄を感じます。
後にも出てくるのですが、この曲で一貫して歌われているメッセージには「不良でなくてもHIPHOP界で天下を取れる」というメッセージが込められているように思います。そしてそれはマッシュルの「魔法が使えなくても魔法界で無双できる」というストーリーとうまく重なっています。
この辺りがR指定さんの「コラボ先と自分たちの共通点を見つけるのが上手い」という点だと思っています。
ここから怒涛のボースティングです。一行目、「俺は関西訛りのコトダマという弾丸で満タンだぜ」って感じでしょうか。ここ「関西訛り」がサラッと「鉛(なまり)の銃弾」と掛けてあるの細かくて好きです。
二行目、「bang」はスラングで「性行為」を指します。なので、「音楽の女神、幸運の女神、勝利の女神は全員俺の女」的な感じですね。R指定さん、時々こういうセクシャルな表現を使うんですけど、ほとんどの場合それは対象が音楽の女神だったり夜を女性に喩えてたりと、基本的に比喩表現で使うので下世話になり過ぎないのが上手いですね。(例:FSLエキシビジョンRound1)そういう表現を使っても大丈夫なのは、コレもR指定さんのキャラクターのなせる技じゃないかなと思います。
三行目、ヒップホップ界にはそりゃもうすごい方々がたくさんいらっしゃいます。そういう漫画みたいな人たちとまんまで張り合えている自身を表していると同時に、マッシュのことも表しています。(これもFSLエキシビジョンがいい例)
四行目、ここはガッツリR指定さんのこと。「頭と口から」を「あったまとくちから」と歌っていて「あっとうてきちから」との韻が固くて上手いですね。
「この身体Tatooは入って無い、このツラに傷もついて無い」ここが一番わかりやすいダブルミーニングの箇所です。冒頭でも挙げましたが、マッシュルの世界では魔法が使えるものは生まれながら顔に線状のアザができます。しかし魔法を持たないマッシュは顔にアザ(Tatoo、傷)を持たず、偽装のため顔に描いています。そして、R指定さんの視点で見ると「タトゥーも入れてない、ケンカもしてきていない(HIPHOP的な箔はないが、成功している)色々なダメージ(経験)が、いかつい皺となって傷の代わりに俺に年輪を刻んでいく」といった意味になります。
ここで初めてBBBBの意味に触れてます。「Bang」は先ほど「性行為」のスラングと説明しましたが、他にも「大きな音を出す」「登場する」「銃を撃つ」「興奮・歓喜」などのさまざまな意味があります。あくまで自分の解釈ですが、一つ目のBangは本来の意味、「大きな音を出す=音楽でかますこと」二つ目のBangは「音楽の女神や勝利の女神とヤること=成功を収めること」だと考えて、「俺のままで輝いて、音楽でかまして成功するため生まれてきたニッポン」的な意味かなーと思っています。
この「Bling-Bang-Bang-Born」という言葉についてCreepy Nutsの二人はインタビューで『勝手に作った呪文で、元気が出るおまじない』『歌詞を見てもらえたら意味が分かる』と発言しています。うーん、意味深。もし「Bang」がそのまんま性行為の意味だったらどうしよう。「みんなが知らずに口にしたら面白いから」という理由でユニット名を「Creepy Nuts」にしただけあって無いとは言い切れない……。だとすると曲中に流れるBed Squeak(ベッドの軋み音)も文字通り「ベッドが軋む音」と「筋トレマシンが軋む音」のダブルミーニングではないかと思えてきます。
まぁでも基本的には「俺のままで輝いてかまして成功するため生まれてきた」であればR指定サイドでもマッシュサイドでもしっくりくるのでコレなんじゃないかなーと自分は思っています。
あとはすでに考察したところの繰り返しになります。
そんなわけで「Bling-Bang-Bang-Born」は、アニメ「マッシュル」の「魔法が使えなくても魔法界で無双できる」というストーリーと、Creepy Nutsの「不良でなくてもHIPHOP界で天下を取れる」という自身のボースティング曲のダブルミーニングになっているのが上手いなーと思った次第です。
BBBBだけじゃない、「堕天」からみるダブルミーニング
Creepy Nutsは「マッシュル」だけでなく、過去に「よふかしのうた」というアニメにも楽曲を書き下ろしています。
「よふかしのうた」という作品は誕生の経緯が面白く、そもそもCreepy Nutsがオードリーのラジオのために「よふかしのうた」という楽曲を制作し、元々日本のヒップホップが大好きだった漫画家のコトヤマ先生がその楽曲に影響されて描いたのが、マンガ「よふかしのうた」です。(マンガを描く際、タイトルにすることをCreepy Nutsに許可をとっています)
そんなマンガ「よふかしのうた」のストーリーはこちら。
そして、その作品がアニメ化する際に、ED曲はタイトルにもなった「よふかしのうた」が採用されたのですが、OPはこのアニメ化のためにCreepy Nutsが書き下ろしました。それが「堕天」という曲です。
この曲については詳しい誕生経緯について話しているインタビュー記事があるのでそちらもよかったら読んでみてください。
https://mantan-web.jp/article/20220702dog00m200009000c.html#
この曲も、コラボ作品のことを歌うと同時に、Creepy Nuts自身のことも歌っています。ただ、インタビュー記事内にもあるように「今回はフィクションを書いた」と話しています。
以下が「堕天」の歌詞になります。
こちらも歌詞の一文一文について考察をしたいのですが、長くなり過ぎてしまうのでまとめて考察したいと思います。
まず歌詞の主軸ですが、旧約聖書の「創世記」に出てくる「アダムとイブ」の話が全体を通して出てきます。(最初の人間と言われるアダムとイブが、エデンの園で蛇(サタン)にそそのかされて禁断の果実(リンゴ)を口にしてしまう。そして知恵を得て裸でいることが恥ずかしくなってしまった二人はイチジクの葉で身体を隠すようになる。神様にリンゴを食べたことがバレたアダムとイブはエデンの園から追放されてしまう、というお話)
そして「りんごを齧ってエデンから追放される」という流れになぞらえて「吸血鬼に恋をして(そして齧られて)人間をやめる(吸血鬼になる)」という「よふかしのうた」の主人公、夜守コウの目標を表しています。さらに「螺旋状に堕ちていく摩天楼に」「二人ぼっち」といったワードで、ナズナに手を引かれて夜という世界、そしてナズナ自身に魅入られていく主人公の様子を表しています。曲調もキラキラとしたブラスとジャジーなピアノが「怪しくも魅力的で蠱惑的な夜の世界」を表現していて「よふかしのうた」という作品を見事に彩っています。どのくらい作品に合っているかは、アニメのOP映像を見てもらった方が早いでしょう。ピッタリ。
「よふかしのうた」のアニソンとしての「堕天」の歌詞考察は色々なブログでされていると思うので「堕天 歌詞 考察」とかで検索してもらえばもっと詳しく考察している記事が出てくると思います。(ぶん投げ)
すみません、メインで語りたいのが別のことなので。
この歌詞、一点気になる箇所があります。それがここ。
「かと思えば空に落ちて行く」
普通、落ちるのは地面であり、空に落ちるとは言いません。確かに「よふかしのうた」は吸血鬼が出てくる作品なので、ナズナがコウを抱えて空を飛ぶシーンが何度も出てくるし、逆さまに飛ぶシーンもあります。「空に落ちる」はそのシーンの比喩表現かもしれません。でも自分はここから、この曲の別の意味を感じました。
それは「この曲をリリースした時のCreepy Nuts二人のこと」をフィクションも含めて表しているのではないかと。(ここからの解釈、ネットとかで全然同様の意見を見なかったのであんまり自信がないですが、HIPHOPにわかの解釈です。ご了承ください)
この曲をリリースした2022年は丁度Creepy Nutsが順調に売れている真っ最中。色々なメディアともコラボしたりと上り調子でしたが、同時に一部のHIPHOPのファンからは「Creepy NutsはHIPHOPじゃない」「セルアウト(J-POPに迎合してる)」などの批判が出るようになってきました。この曲はそれに対するアンサーじゃないのかな、と。
つまり「空に落ちて行く」というのは「空に落ちるような速度で上がっていく(売れていく)」ことの比喩で、「HIPHOPというアンダーグラウンドカルチャーから爪弾きにされてしまったけれども売れるのがやめられない俺たち」をエデンから追放されたアダムとイブになぞらえて「地下から空へ落ちていく」と表現したのでは無いかと。そう考えると「空に落ちて行く」に続く「なんというか、やめられぬ もうひと齧り」も納得が行きますし、他の歌詞も色々と辻褄が合ってきます。例えば「ふりほどいて来たうしろ指ですらむしろ追い風さ まだ足んねぇ」も生粋のHIPHOPファンにはうしろ指を刺されたがそれすら追い風、まだ足らない、と解釈できますし、「螺旋状に落ちていく摩天楼に」も売れていく様を表すように思えます。
「エデンにはまだ空室あり」も、よふかしのうたサイドでは「エデンという名のラブホテルにはまだ空室がある」と二人の逢瀬を匂わす歌詞に見えますがCreepy Nutsサイドでは「成功者の住むエデンにはまだ俺らが住む部屋が残ってる(成功した俺らがそこに住む)」とボースティングに見えてきます。
「そこじゃ何から何までごった煮で 鬼も仏もおんなじ目」音楽の世界はどんなジャンルの曲も一緒くたに評価される。「全てshut out どうかしてる?」HIPHOPというだけで評価されないのはおかしいじゃないか。「俺らハナから大真面目」俺たちはハナからHIPHOPで音楽の頂上をとる気満々だ。そんな歌詞に見えます。
そう考えるとこの曲自体もまるでタキシードを着たCreepy Nutsの二人がレッドカーペットを肩を切って歩く、そんな曲に聞こえてきます。
つまりこの曲は「旧約聖書のアダムとイブ」を下敷きに、「夜に魅入られた少年が、夜と、吸血鬼の少女にハマっていく」という「よふかしのうた」のアニソンとしての側面と、「HIPHOPファンからうしろ指刺されてるけど俺たち売れるの止められないわ〜、売れちゃうわ〜(まだ未来のことなのであくまでフィクション)」というCreepy Nutsを表した側面がある曲ではないかなと。
「堕天」というタイトルも、「天から堕ちる」ではなく「天へ堕ちていく」そういう意味に思えてきます。
でも、改めて言っておきたいのが、Creepy NutsはHIPHOPカルチャーをめちゃくちゃリスペクトしてると思います。にわかの自分から見ても二人のHIPHOPへの愛は相当なものだと思います。そしてその上で、自分たちはその本流ではない、ということを常に意識しているようにも思え、それは今紹介した2曲もそうですが、Creepy Nutsの色々な楽曲に現れています。なので「堕天」というタイトルはそんな大好きなHIPHOPカルチャーの本流にはいられない自分たちの悲しみ、自虐的なもの含まれたタイトルなんじゃないかな、と自分は思っています。
「堕天」をリリース時点ではフィクションだった「空に落ちるように売れていく」は2年後、まさに空に落ちていくような売れ方の「BBBB」によってノンフィクションになりました。
最後に
そんなわけで「BBBB」と「堕天」の2曲を「アニソン」と「Creepy Nutsを表した曲」の2つの側面から考察してみました。
Creepy Nutsはアニメ以外にも映画やドラマ、CMソングなど色々なメディアに楽曲提供しています。それらの楽曲も、コラボ先とCreepy Nuts、二つの側面から見てみるとまた違った聞こえ方がするかもしれません。
「よふかしのうた」はアニメの2期が決定したので、きっとまたCreepy Nutsが曲をかきおろしてくれるのではないかと期待しています。そして、今度はどんな作品解釈で自身たちと重ね合わせた曲を書いてくれるのかと楽しみにしています。Creepy Nutsは今BBBBが大バズり中ですが、本人たち曰く本命の曲はまだ温存中だそうです。もし、その温存中の曲が「よふかし2期の曲」だったら嬉しいなーとか勝手に思ってます。
以上、「よふかしのうた」の原作が終わってしまったのが悲しすぎて最終巻が読めないでいるネギマがお送りしました。長文にも関わらず最後までお読みいただき、ありがとうございます。