『もしも命が描けたら』
星野月人(田中圭)は家族に見放され、画家という夢も貧しさから叶えられずに無気力な毎日を送っていた。それらの出来事から人と交流せず、孤独だった彼に職場の後輩の月山星子(小島聖)が近づいてくる。次第に心を通わせ恋人同士となった彼らだったが、幸せをつかんだ矢先に彼女は交通事故で亡くなってしまう。絶望した月人は人生をともに過ごした上空の三日月(黒羽麻璃央)に半生を語り、杉の木の下で自殺を図るも失敗する。その時、それまで月人の人生で何も答えてくれなかった三日月が月人に初めて語りかけ、ある提案をする。それは自殺では死後も彼女に会うことはできないから、絵を描くことで自分の命と引き換えに描いたものに命を与えていき、命を有効に使おうというものであった。一刻も早く彼女に会いたい彼は早く死ぬためにたくさんの生き物を描いた。その後知らない町に行った月人は水族館でスナックのママをしている空川虹子(小島聖 二役)と出会う。彼女との交流の中で彼女と元恋人の陽介(黒羽麻璃央 二役)を巡る事情を知った彼はある決断をする。
この作品は著名な芸術家たちとのコラボを大きく打ち出していることが特色のひとつであり、舞台美術をアートディレクターの清川あさみが、テーマ曲をYOASOBIが手掛けている。
まず、清川あさみが手掛けた舞台美術について考察する。舞台の床面と背面にはそれぞれ大きな円があり、この円がスクリーンの役割を果たしている。物語のなかで背面のスクリーンには月人が三日月に魅了され、絵を描くようになるきっかけとなったゴッホの「星月夜」が度々映し出され、中盤のシーンではテーマ曲が流れると同時に両方のスクリーンに生き生きとした草花の絵が映し出される。特に草花の絵は月人が命を与えていく過程を視覚的にも分かりやすく鮮やかに表現することで、それまでの暗い雰囲気からの大胆な転換を行っていた。この舞台の明暗の転換は、死にたがっていた月人が使命を得たことで生き生きと活動しだすという、一見不思議なようでありながらリアルな心情の動きとも連携していた。また、中盤のシーンまでの舞台セットを二つのスクリーンと様々なものに見立てて用いられる大小さまざまな石だけにすることによって、照明だけで場面をにぎやかにも静かにも見せることが可能になっていた。
次にYOASOBIの手がけたテーマ曲について考察する。映画やドラマには主題歌がつきものだが、演劇でその作品のために作られた曲が流れることは珍しい。舞台のタイトルと同名の曲は、冒頭、月人が力を手に入れた作品の転換点とラストシーンでそれぞれ流れる。特に冒頭で曲が流れている時間は舞台に動きはなく、暗闇の中で観客を楽曲だけに集中させており、その時間の中で最初は戸惑っていた観客が段々世界観に入り込んでいっていく様子が分かった。曲の歌詞は舞台のあらすじをなぞったものになっていて、入り込みが難しいファンタジー世界への没入を容易にする効果があった。一方でメロディーには彼ららしい爽やかさがあり、まだ話を理解していない冒頭でも耳馴染みよく聞くことができた。
ラストシーンは様々な解釈が可能なものである。主人公月人が最終的にした選択は、巡り巡って彼のそれまでの人生を変えたように感じられた。このことから本作は一種の「ループもの」としてとらえることも可能である。
※発表後に修正済み
ここからは発表の中であった質問とその返答を書きます。
Q.印象に残ったシーンは?
A.中盤の月人が力を得て他の生き物に命を与えるシーン。そこを転機として物語が大きく動き出すことも理由の一つだが、テーマ曲が流れ、舞台美術が鮮やかに映し出され、月人も動きが大きくなるので、シンプルに情報量が多いことでも印象に残っている。
Q.三日月を人間が演じていることの意義は?
A.自殺を図ろうとするシーンまでの出来事は基本的には月人の一人語り(回想)で起こされている。それを唯一聞いているのが月人であり、話を聞く間、彼は静かに床面にある大きな円のまわりを一周しているだけだ。音声だけでも成立する役だが、人間にすることで、見守られていることを視覚的に分かりやすくする効果がある。また、彼の立ち振る舞いからも観客は魅力を見つけられるので三日月に魅了された月人の気持ちに近づけるという効果もある。
Q.兼ね役の意義は?
A.出そうと思えば様々な役者を出せる舞台だと思う。しかし、人を最小限にすることでどこか小さく暖かい世界を描こうとしているのではないかと考えられる。特に小島聖さんが演じている二人の女性はリンクするところもあるように感じられた。
Q.名前が天候にちなんだ印象的なものであるが、関係あるのか。
A.そこに着目していなかったが関係があると考えられる。名前に入っている天体のイメージがそのまま彼らの性格とリンクしていた。
今回ちょっと予定を変更して第一弾は『もしも命が描けたら』にしました。鈴木おさむと田中圭のタッグ舞台は前作の『僕だってヒーローになりたかった』でも見たけど、冒頭の超長ゼリは鈴木さんの舞台の特徴なんでしょうか。そこの部分だけで一本終わりそうな情報量なんよな。あと彼の舞台は放送作家として活躍してきた彼らしく、だれでも楽しめる演劇(個々人の勉強量・予備知識と関係ない内容が多い)と思います。二本だけでなんやねんて感じかもしれんけど。『芸人交換日記』も見たいな。本作のラスト、結構個人によると思うんですよ感想。私はちょっと急いで風呂敷畳んだ感じしたかな。でも終わり方が爽やか(曲の効果もあると思う)なので見やすい。見やすい割に最後のラストシーンの意味はいろいろ想像させられる。不思議な舞台だなと思います。あと役者の出演が三人だけかつ出ずっぱりなので彼らのファンの人は心ゆくまで推しを堪能できると思います。そういう入り口もありだと思う。ギリギリやけど、配信は9月23日18時までやってるみたいなのでこれ見て見たい!!って思ってくれたひとはぜひ
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↑舞台の雰囲気はこの記事で見れますよ!
作・演出 鈴木おさむ
出演 田中圭
黒羽麻理央
小島聖
アートディレクション 清川あさみ
テーマ曲 YOASOBI